韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#18

全羅南道の美食〈後編〉 海苔の醤油漬け

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 前回に続き、私の事務所の日本人スタッフが全羅南道を食べ歩いたレポートをお送りする。この地は食材に恵まれ、料理の技術も発達しているが、実はそれ以外の要素、全羅道訛りでいうコシギ(something)が重要であることをみなさんにもわかっていただきたい。

生涯忘れられない朝ごはん

 康津郡のファームステイ先では6時ごろ目が覚めた。窓の外は朝霧に包まれている。カメラのファインダー越しに眺めていると、少しずつ山の稜線が明確になってくる。ステイ先のご主人は私より早起きして畑の雑草を取っている。その脇には大きな甕がいくつも並んでいる。中では醤油や味噌の熟成が進んでいるはずだ。早くも朝食に対する期待がふくらむ。

 

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ファームステイのホストファミリーであり、味噌や醤油の工房でもある『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』のお宅の前の畑。こちらの家族が土と親しむ暮らしを始めたのはご主人(写真左)が体を壊したことがきっかけだったという

 

 片時も私たちを放っておかない奥様が外に出てきてくれた。庭に置かれた大きなブランコに一緒に乗る。奥様が特に少女趣味というわけではない。韓国の観光施設にはよくある小道具だ。地方のリゾートホテルでも見たことがある。昨晩のおしゃべりの続きを楽しむ。

 

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ステイ先の庭にしつらえられたブランコを揺らしながら朝のおしゃべりタイム

 

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朝食の主菜や副菜をテーブルに並べてくれる奥様と、それを手伝うご主人

 

 朝食の主菜はプルコギだった。朝から牛肉!と驚くなかれ。韓国ではたいせつなお客さんをもてなすときに欠かせない一品だ。ありがたくいただく。手づくりの味噌で漬けこまれた牛肉はふわっとやわらかく、朝食としてまったく違和感がない。惜しみなくかけられたネギは甘味が強く、さわやかな香りが味噌の旨味を引き立ててくれる。

 そして、プルコギ以上に印象的だったのが、手づくりの醤油に漬けた海苔だ。日本では韓国海苔は人気のあるみやげのひとつだが、なかでも全羅南道は質の良いものを産することで知られている。

 醤油をたっぷり吸ってぬらぬらと光る海苔を、ごはんにのせる。ただの白米ではなくおかゆ、しかもアワビと野菜入りだ。醤油が流れ出し、おわんとおかゆの間にたまるが気にしない。海苔でおかゆを包んで口に運ぶ。醤油にはとがったしょっぱさがまったくない。大豆の幸せな匂いが広がる。体にいいものであることが直観的にわかる。アワビは細かく刻まれているにもかかわらず、昨日船で移動した莞島(ワンド)の磯の香を思い出させる。海の滋味と山の滋味をひと口で感じることができる。なんというぜいたく。すみません、おかゆのおかわりをください!

 

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『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』の朝食。主菜のプルコギ(牛肉のすき焼き風)

 

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『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』で供されたおかゆ、そして海苔の醤油漬け

『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』/住所:康津郡城田面ノクヒャンウォルチョンギル281番地

 

豚と緑茶のいい関係+韓国女性のパワー

 宝城郡の郷土市場にある『特味館(トゥクミグァン)』では、名物の緑茶(ノクチャ)を使った肉料理に初めて出合った。その名も緑茶トッカルビ。トッカルビは牛や豚のひき肉を固め、塩や醤油で味付けして炭火で肉汁を残すようにていねいに焼いたもので、全羅南道ではよく食べられている。最近では観光商品としても人気を呼んでいる。今回は豚肉を使った緑茶トッカルビをいただいた。

 緑茶をどう肉料理に生かすのかと思ったら、豚を育てるときに緑茶入りの水を飲ませ、トッカルビの肉を固めるときに緑茶粉をたっぷり混ぜているのだった。

「肉と緑茶?」

 最初はピンとこなかったが、宝城の良質なお茶のさわやかな香りのせいで、豚肉の脂っこさがおさえられ、さっぱり食べられるのが魅力だった。南道らしく魚介が続いたこともあり、肉料理がよけいに美味しく感じられたということもあるが、それ以上に“錦上添花”(すばらしいものに、さらにすばらしいものが加わること)だったのが、50代くらいの文化観光解説士(地元のボランティア観光ガイド)の女性のおしゃべりだった。

「私はなんでも肯定的に考えるの。それが楽しく生きるコツね」

 要約すればそのような話だったと記憶しているが、よく通る声と激しい身ぶり手ぶりによる伝える力の強さに圧倒され、お腹が痛くなるほど笑わせられた。久しぶりに韓国のたくましい中年女性と出会った気がする。聞けば次回の町会議員選挙に立候補することも視野に入れているそうだ。宝城郡の明るい未来のために健闘を祈りたい。

 

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宝城郡の人気店『特味館』の緑茶トッカルビ。表面が少し緑色を帯びているのがわかる。写真は豚肉だが、牛肉もあり、豚と牛がともに楽しめる両盛りもある

『特味館』/住所:宝城郡宝城邑ボンファ路53 電話:061-852-4545

 

 

*取材協力:全羅南道観光課、全羅南道文化観光財団

 

(文と写真/キーワード)

 

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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