旅とメイハネと音楽と

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#18

トルコ最南端の町アナムルの旅〈5〉

文と写真・サラーム海上

 

アナムルで過ごした夏の思い出 

 アナムルでは身の回りに食べられるものがあふれていた。隣の家との通路脇に植えられていた桑の木には濃い紫色の桑の実がなっていて、そのまま食べても美味しかったし、ヌルギュル母さんは大量のジャムを作っていた。食用ホウズキの実もたくさんなっていて、レジェップ父さんが農作業の合間に口に入れていた。

 

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桑の実はそのままでもジャムにしても美味しい。食用ホオズキもおやつ代わりに


 台所に何気なく置かれたインスタントコーヒーの空き瓶にはオレンジ、黄色、紫色、褐色をした不揃いのツブツブが入っていた。スプーンで一杯すくって口に含むと、花の香りとほんのりした甘さの粉がホロホロと溶けていき、まるで落雁のようだ。辺りに咲いた様々な花の花粉だった。
 その他、日本では庭を荒らすしつこい雑草と思われている多肉植物スベリヒユは、トマトとともに刻んでサラダにして食べていた。

 

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瓶の中のカラフルな粒々は花の花粉。日本だと雑草扱いの植物もサラダに

 

 庭を我が物顔で歩き回る鶏たちも毎日卵を産むし、いざとなったら親鶏を食べることもできる。生きた食べ物に囲まれた生活は羨ましいなあ。

 

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庭ではニワトリが元気に歩き回っていた

 

 いつものように日暮れ前にハッカンとアイリンとともにビーチに泳ぎに出た。ひとしきり泳いだ後、ビーチの西側に広がる古代遺跡「アナムリウム」を探検することにした。
 ハッカンに先導されビーチ沿いに西に1kmほど歩くと、山の尾根が鋭角に海に突き出した天然の岬になっていて、その周りにはレンガ造りや石造りの廃墟が並び、見るからに古代ローマの遺物らしい円筒形の石柱などが無造作に転がっている。
「これ本物の古代ローマの遺跡なの?」
「そうだよ、誰も管理してないから荒れ放題さ」

 

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友人のハッカン&アイリン

 

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ビーチで泳いだ後、遺跡へ案内してもらう

 

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本物の古代ローマの遺跡が現れた!


 山の尾根に沿って石の壁が続き、アナムリウムの領土の境界線となっている。壁に行く手を塞がれているので、岬の手前で右に折れ、開けた斜面を登る。すると、そこが古代都市アナムリウムの中心だった。

 古代ギリシャ=ローマ時代の町らしく、公衆浴場やコロシアム型の劇場、水道橋やキリスト教会がなだらかな斜面に広がり、どこからも地中海を一望出来る。アナムリアムは紀元前にはフェニキア人やヒッタイト人、アッシリア人に支配され、その後古代ギリシャや古代ローマの町とされた。そして7世紀のイスラーム教の広がりに伴い、東方から来たアラブ人の襲撃を受け、滅ぼされ、そのまま打ち捨てられた。
 現在ではアナムリウム遺跡は市役所が管理し、入場有料の野外博物館となっているが、塀や囲いがあるわけでないので、地元民は入場料を取られることはない。その上、アナムルには観光客の姿は皆無だ。公衆浴場の床などには貴重なモザイク細工が残されているというが、研究するにも保存するにも予算が足りず、現在、床は土で覆われたままになっている。
 アナムリウムのメイン通りを斜面に沿って、ビーチ側に歩いて戻ると、町の東側には当時の共同墓地である死者の町「ネクロポリス」が広がっていた。ネクロポリスはお墓の上に住居用の建物が何重にも建て増しされていて、古代のアナムリウムは意外と人口密度が高かったことが伝わる。

 

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古代都市アナムリウムの遺跡。地中海が一望できる


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死者の町、ネクロポリス

 

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古代ローマの遺跡群がひっそりと佇んでいる

 

 ネクロポリスからビーチにつながる道に大きなサボテンが立ち、肉厚な葉の先には丸々としたサボテンの実がなっていた。
「あれ、食べごろだよ」とハッカン。
「お墓の横に生えたサボテンの実なんて、死体の栄養を吸ってるみたいじゃないか?」
「大昔の墓だから、もう死体の栄養なんてないよ。それじゃあ家の周りに生えてるサボテンの実を食べよう。でも、細い針のような棘があって、刺さると痛いし、細くてなかなか抜けないから、自分で切ろうとしたらダメだよ。お手伝いのスズカに頼むといい」
 翌日、スズカさんがサボテンの実をたっぷり切りわけてくれた。上下の端を切り落とし、樽型にしてから、皮に縦一本切れ目を入れて、それをベロ~っと剥がしていく。すると中からオレンジイエローの果実が姿を現した。これを冷蔵庫で冷やしてからいただくと、甘くてシャリシャリして美味い! 種が多く、ちょうど西瓜と柿を足したような味がする。ひと泳ぎして、口の中が塩辛い時にピッタリのフルーツだ。

 

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このサボテンの実を食べる

 

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サボテンの実をスズカさんに切ってもらった

 

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サボテンの実は西瓜と柿を足して割ったような味

 

 

アナムルで習った料理3品 

 今回はアナムルで習った残りの料理をまとめて紹介しよう。まずはスズカさん得意の地元のお菓子サムサラ。たっぷりの胡麻と胡桃を、葡萄を煮詰めた糖蜜「ペクメズ」で固めたヌガー状のお菓子。
 作り方は簡単。胡麻3カップとペクメズ2カップ、水1/2カップ、砂糖大さじ1をフライパンに入れ、弱火で30分煮る。胡桃は包丁で軽く砕いておき、火を止めたフライパンに加え、よく混ぜ合わせる。

 

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材料をフライパンで炒める

 

 次にテーブルにオーブンペーパーを敷き、フライパンの中身をオーブンペーパーの上に広げ、大きなスプーンの背を使って平たく薄く延ばしていく。10分ほど冷ましてから包丁で食べやすいサイズに切り分ける。室温に冷めて、固まってから、冷蔵庫に入れて保存する。地元の名産物だけを使った素朴な味でお茶受けに良い。

 

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オーブンペーパーにのせて冷まし、切り分ける


 葡萄を煮詰めた糖蜜であるペクメズは日本ではハラルフード店で売られている。自然食品店やiHerbなどのショッピングサイトではサトウキビ製の糖蜜が健康食品として人気が高い。味はほとんど同じなので、代用しても良いだろう。甘すぎて、一瓶買うとなかなか使い切らないが、僕は練りごまペーストのタヒーニと混ぜ合わせたペーストをパンに塗って食べている。

 

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葡萄を煮詰めた糖蜜のペクメズ


 続いては熱帯気候のアナムルならではの特産物グリーンパパイヤを使ったベジタリアン・カルヌヤルク。カルヌヤルクとは「お腹を割く」という意味で、油を通した長なすの実を縦に割き、そこに挽肉のトマトソース煮を詰めて、オーブンやフライパンで蒸煮にしたもの。本来のカルヌヤルクが肉料理なのに対して、こちらはヌルギュル母さんが肉料理をあまり好まないアイリンのために考案したオリジナル料理だ。
 まずグリーンパパイヤは皮をむき、縦半分に割り、種を取り、5分ほど塩ゆでして、水を切っておく。フライパンで1cmのサイコロ切りにしたトマト、人参、じゃがいも、グリーンピースを炒め、トマトペーストと水を加えて柔らかくなるまで煮る。

 

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パパイヤは縦半分に切って塩茹でに。具の野菜はトマトソースで柔らかく煮る

 

 耐熱皿に切り口を上にしてパパイヤを並べ、切り口に煮た野菜を山盛りにのせる。野菜の上にピザ用のチーズをたっぷりのせ、お皿の隙間に4つ切りのトマトや青唐辛子を並べ、オリーブオイルを回しかけてからオーブンでチーズが焦げるまで焼く。

 

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パパイヤに野菜、チーズなどをのせて、オーブンで焼く


 そして、3品目はトルコ人の子供や男性が大好きな肉団子キョフテを元にした料理ハッサンパシャ・キョフテ。大きめの饅頭型に練ったキョフテの真中にくぼみを作り、マッシュポテトをのせて、耐熱皿に並べ、トマトソースを回しかけてオーブンで焼いたものだ。

 日本で生まれた西洋料理のイタリアン・ハンバーグとよく似ている。肉団子とじゃがいもとチーズとトマトソースという組み合わせはどこの国でも子供や男性の心をとらえて離さないのだろう。

 

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肉団子=キョフテのくぼみにマッシュポテトをのせ、トマトソースをかけて、オーブンで焼く

 

 さて、5回にわたって綴ってきたアナムル編も今回が最後。ヌルギュル母さん、おいしい料理を色々教えてくれてありがとう! また近いうちに会いに行きます!

 

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■サムサラ
【作りやすい量】
白ごま:1と1/2カップ
ペクメズ:1カップ(サトウキビ製の糖蜜で代用可)
水:1カップ
砂糖:大さじ1/2
胡桃:1カップ(食べやすい大きさに刻んでおく)

【作り方】
1.フライパンに白ごま、ペクメズ、水、砂糖を入れ、弱火で30分煮る。
2.胡桃は食べやすい大きさに刻み、火を止めた・のフライパンに加え、よく混ぜ合わせる。
3.テーブルにオーブンペーパーを敷き、・を広げ、スプーンの背を使って、平たく薄く延ばす。
4.10分冷ましてから包丁で食べやすいサイズに切り分ける。十分冷めて固まったら、冷蔵庫に入れて保存する。

 

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■ベジタリアン・カルヌヤルク
【4人分】
グリーンパパイヤ:大2個(なければ大きめのズッキーニで代用可)
オリーブオイル:大さじ1
トマト:1個(1cmのサイコロ切り)
にんじん:1本(1cmのサイコロ切り)
じゃがいも:1個(1cmのサイコロ切り)
グリーンピース:100g(冷凍または生のもの)
トマトペースト:大さじ2
水:1カップ
塩:小さじ1/2
胡椒:少々
ピザ用チーズ:150g
トマト:2個(くし切り)
青唐辛子またはシシトウ:お好み
ExV(エクストラバージン)オリーブオイル:大さじ1
【作り方】
1.グリーンパパイヤは皮をむき、縦半分に割り、種を取る。たっぷり塩を入れたお湯(分量外)で、柔らかくなるまで茹で、ざるにあげて、水気を切っておく。
2.フライパンにオリーブオイルを熱し、サイコロ切りのトマト、人参、じゃがいも、グリーンピースを炒め、しんなりしたらトマトペーストと水を加えて20分煮て、塩、胡椒で調味する。
3.耐熱皿に切り口を上にしたパパイヤを並べ、2.の野菜を山盛りにのせる。さらにピザ用のチーズをたっぷりふりかける。お皿の隙間にくし切りのトマトや青唐辛子を並べ、ExVオリーブオイルを回しかける。200度に熱したオーブンで15分、チーズに焦げ目が付くまで焼く。

 

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■ハッサンパシャ・キョフテ
【4人分】
★キョフテ用
 牛挽肉:300g
 玉ねぎのみじん切り:1個分
 イタリアンパセリのみじん切り:1パック分
 卵:1個
 パン粉:大さじ2
 塩:小さじ1/2
 胡椒:小さじ1/2
 クミン:小さじ1/2
★マッシュポテト用
じゃがいも:2~3個
バター:大さじ1
温めた牛乳:1/3カップ
ピザ用チーズ:50g
塩:小さじ1/2
胡椒:少々
★トマトソース
トマト:大1(皮を湯剥きし、ざく切り)
トマトペースト:大さじ1
水:1カップ
塩:少々

【作り方】
1.じゃがいもは皮をむき、火の通りやすい大きさに切り分ける。たっぷり塩を入れたお湯(分量外)で、柔らかくなるまで茹で、ざるにあげて、水気を切っておく。
2.ボウルに1のじゃがいも、バター、温めた牛乳、ピザ用チーズを入れ、フォークの先でつぶし、ペースト状に仕上げ、塩、胡椒で調味する。
3.別のボウルにキョフテの材料を全て入れて、手でよくこねる。4等分し、いったんボール状にまとめてから、饅頭型につぶし、真ん中にくぼみを作り、オリーブオイルをひいた(分量外)耐熱皿に並べる。
4.200度に温めたオーブンで、3のキョフテを20分焼く。
5.皮を湯剥きしてざく切りにしたトマト、トマトペースト、水を鍋に入れ、トマトが溶けるまで15分煮て、塩で調味する。
6.耐熱皿をオーブンから取り出し、肉のくぼみに2のマッシュポテトをスプーンで山盛りにのせる。耐熱皿の隙間に・のトマトソースを回しかけ、再び200度のオーブンで25分焼く。表面が軽く焦げたら出来上がり。
 

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*次回からはイスラエル編の予定です!

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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