ブーツの国の街角で

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#18

コーニュ : 手つかずの大自然に囲まれた小さな山の避暑地

文と写真・田島麻美

 

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  イタリア全土で記録的な猛暑が続いている夏、爽やかな空気と目に涼しい風景を求めてローマを脱出することにした。向かったのはもちろんアルプス! ローマから高速列車 italo(イタロ)でトリノまで約4時間。レンタカーをピックアップして、イタリア屈指の夏の避暑地コーニュを目指す。トリノから高速道路を使いコーニュまで約2時間のドライヴ。アオスタまで鉄道でアクセスしてそこからバスで来ることも出来るのだが、幾つも乗り継ぎをしなければならないことと、現地での利便性を考えて今回はレンタカーを選んだ。高速を降りる頃には、雪を頂いた山々の勇姿がフロントガラスに見えて来た。どんな風景が待っているのだろう。想像するだけで、ワクワクする気持ちを抑えられなくなって来た。
 

 

 

 

 

 

世界中のアルピニストも憧れるグラン・パラディーゾ国立公園

 

 

   モンブラン、マッターホルンといった名山が連なるアルプス山脈の中に位置するヴァッレ・ダオスタ州は、スイス、フランスと国境を接している。コーニュはその小さな州の南、ピエモンテとの州境の山間にある小さな村だ。荘厳な山々の渓谷にあるこの小さな村が夏の避暑地として有名になった理由は、この村が世界中のアルピニストも憧れるイタリア・アルプスの最高峰グラン・パラディーゾがある「グラン・パラディーゾ国立公園」の拠点となっているから。グリゼンシュ渓谷、レーム渓谷、サヴァランシュ渓谷、コーニュ渓谷という4つの大きな渓谷から成るグラン・パラディーゾ国立公園は野生動物や植物の宝庫で、その名の通り「大いなるパラダイス」として自然を愛する人々に親しまれている。
 

 

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国境をまたがず完全にイタリア国内にあるグライエ・アルプスの最高峰グラン・パラディーゾは標高4061m。モンブラン、マッターホルン、モンテ・ローザと並び、アルピニスト憧れの名峰。
 

 

 

 

  到着するや否や、早速村の中心の広場に出かけてみた。通りや広場の名前は全てフランス語表記で、馴染みがない私にはなかなか覚えにくい。とはいえ、徒歩で10分もあれば中心地をぐるっと回れるほどの規模なので、標識がわからなくても困ることはないだろう。
ツーリスト・インフォメーション、市庁舎、郵便局が集まる広場に着くと、目の前にサントルソ草原とその背後にそびえるグラン・パラディーゾの勇姿が広がっていた。なんと爽快な気分だろう。子ども連れの家族や犬を連れたカップル、杖をつきながらのんびり散歩を楽しむ高齢のご夫婦、誰もかれもが時間を忘れてゆったりと大自然を満喫している。
 

 

 

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コーニュの村自体が標高1550mの高地にあり、空気はとても涼しい。 色とりどりの花で飾られたバルコニーも美しく、避暑地の爽やかな雰囲気を演出している(上)。村の中心ボウルジェオイス通り。レストランやカフェ、ミニ・マーケットや山岳用品、お土産やさんなどが集まっている(下)

 

 

 

 

初心者でも楽しめるリッラズの滝へのハイキング

 

   
 「高い山に登りたい!」と逸る気持ちを抑えながら目覚めた翌朝は、生憎の曇り空。山頂で雷雨にでもあったら困ると思い、その日は登山を諦めて足慣らしのハイキングに行くことにした。B&Bのオーナーはこの土地のアルピニストと聞いていたので、彼に「雨でも歩けるようなルートはある?」と尋ねると、「いっぱいあるよ。一番楽チンなのは隣のリッラズの村まで40分ぐらいのネイチャートレイルだな。村に入ればすぐにリッラズの滝まで行けるよ」と教えてくれた。
コーニュの村はずれからネイチャートレイルは始まっていた。舗装道路と山道が、川を挟んで分かれている。しっとりと濡れた土を踏みしめながら、森林浴を楽しみつつのんびり歩く。予想に反し、ところどころ急な登り坂が現れたり、石ころだらけの細い道が出てきたり。簡単なハイキングコースと言われたが、地元のアルピニストならいざ知らず、私の足ではとても40分ではたどり着けず、結局1時間半ほど歩くことになった。
 

 

 

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コーニュの村はずれから始まるネイチャートレイル。左に川や渓谷、右手に山の緑を楽しみつつ歩く(上)。リッラズの滝へ向かう自然公園の遊歩道(下)。ハイキングコースは自然のままの道なので、念のためトレッキングシューズで行く方が安心。
 

 

 

 

 

  リッラズの村に入るとすぐ『Cascate(カスカーテ=滝)』という標識が見えて来たので、矢印にしたがって進むともれなく自然公園の中に入った。ここから滝まで、さらに10分ほど歩く。心配していたお天気もいつの間にか回復し、頭上には燦々と太陽が輝いている。程なく、滝の轟音が聞こえてきた。緑の木立がさっと開け、太陽の光を受けて輝く水飛沫が岩に砕け散る様子が目に飛び込んできた。「やっと着いた〜! 水がすごくきれい!」と歓声をあげた直後、「ハイ、チーズ!」という日本語が背後から聞こえてきた。
振り返ると、本格的な山歩きスタイルの日本人中高年カップルが滝をバックに記念撮影の真っ最中。ガイドさんが引率しているところを見ると、どうやらツアーのグループらしい。こんな山奥まで連れてきてくれるツアーがあるなんて、すごい! と内心密かに感激しつつ、イタリアの大自然を求めてここまで来てくれたグループに感謝した。

 

 

 

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氷河の溶け水の透明度が素晴らしい滝は全部で3つ。一番下の滝までは、簡単にアクセス出来る(上)。3つ目の滝までは急な登りが続く(中)。3つの滝の周囲をぐるっと巡るトレッキングコースもある。健脚ならトライしてみて欲しい。渓谷も一望出来る(下)。

 

 

 

 

 

アルプスの野趣溢れる味覚に舌鼓
 

 

   朝から歩けば当然お腹が空く。お昼はほとんど毎日、プロシュットのパニーノとりんごで済ませ、お楽しみは夜の食事にとっておくようにした。
ヴァッレ・ダオスタの名物料理といえば、真っ先に思い浮かぶのがチーズフォンデュとポレンタ。どちらもカロリーたっぷりでチーズ好きにはたまらない料理だが、いくら涼しいとはいえ真夏にこのメニューが続くのは正直言ってキツい。幸いコーニュの村には本格的な郷土料理のレストランを始め、手軽に食事ができるカフェやビストロ、ピッツェリアも揃っていたので、毎晩お腹の空き具合によって決めることができた。
ポレンタよりはパスタが好みの私を感動させてくれたのが「ラグー」。ラグー(=ミートソース)はパスタだけではなく、ピッツァの上にもこのラグーが乗っているものがある。他の街ではお目にかかれないメニューだ。通常イタリアで「ラグー」といえば牛肉か豚肉のひき肉を使うが、ヴァッレ・ダオスタのラグーはノロジカやアカシカ、シャモアなどジビエ肉を使っている。ジビエと聞くと独特の臭みや味を想像してしまう人も多いだろうが、コーニュで食べたラグーはとても繊細でやさしい味。野生のハーブと一緒に丁寧に煮込んであるので、臭みも全くなく、むしろ牛肉より軽い口当たりで大いに気に入った。
もう一つ、コーニュで発見したのが「マス」。お隣のリッラズはマスが有名らしく、アルプスの澄んだ川で育った新鮮なマスをハーブと一緒に包み焼きした料理は、シンプル・イズ・ベストを実感させてくれる味だった。山奥で魚が食べられるだけでもありがたいのに、これは嬉しい驚き。
アルプスで育った牛の濃厚な牛乳を素材にしたクリームやヨーグルト、バターをふんだんに使ったデザートも欠かせない。本来は甘いものが苦手の私だが、野生の巨大ブルーベリーやラズベリーがたっぷり乗ったデザートは疲れた体にとても美味しく、ついついお菓子屋さんに通うようになってしまった。摂取したカロリーは、翌日の山歩きで消費すればいい。という言い訳が、コーニュ滞在中、私の頭の中を常に回っていた。
 

 

 

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チェルヴォ(=アカシカ)のラグーと手打ちパスタ・タリアテッレ。ボリュームも山奥ならでは(上)。コーニュ名物リッラズのマス料理(中)。ブルーベリー、ラズベリーなどをたっぷり使ったデザートも見逃せない。お菓子屋さんでは欲しい量だけ量り売りで買うことができる(下)。

 

 

 

 

 

絶景ポイント満載のトレイルの数々

 

   
   コーニュの周辺は、初心者からプロの登山家まで満足させてくれる「歩くコース」に事欠かない。山の天気は変わりやすいので、毎朝天気予報を見てその日にあったコースを決め、村の食材店でパニーノを買って歩き始める。本格的なトレッキングコースは一日がかりになるが、簡単なハイキングコースでも見事な景観が楽しめるため、結局3〜4時間は歩いてしまう。いくつものトレイルを歩きつつ、グラン・パラディーゾ国立公園の雄大さとバラエティの多彩さを改めて実感する毎日が続いた。
お天気が今一つの日は、アップダウンが少ないネイチャートレイルを選び、リッラズの滝や、グラン・パラディーゾの入り口であるヴァルノンテイ渓谷の風景を楽しむ。晴れたら、往復9時間ほどかけて絶景ポイントであるロイエ湖まで足を伸ばし、湖面の先にそびえるモンブランの勇姿を堪能したり、ロープウエイでコーニュの上にある山の展望台に登ってアルプス連峰の数々を見晴らしたり。どこへ行っても、思わず「うわぁ〜!」と声をあげてしまうような風景に出会えることこそ、人々がこの小さな村へ押し寄せる最大の理由なのだと実感する。スマホもネットも、この壮大な大自然の前では存在感が薄くなる。今、目の前にある「生きている世界」を五感で体感できる貴重な時間を過ごすことができた。
 

 

 

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コーニュを拠点にして歩けるコースの数々。上から:ヴァンルノンテイ渓谷へのネイチャートレイル、ロープウエイの展望台から見下ろすコーニュ渓谷、モンツェルク山頂で出会った野生動物「スタンベッコ」の家族、ロイエ湖から望むモンブラン山頂。

 

 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

レンタカーで:トリノから高速道路〜SR47経由で約2時間、アオスタからSR47経由約40分。
バスで:アオスタのバスターミナルを拠点にヴァッレ・ダオスタの各街へのバスが発着している。アオスタからコーニュまでは27km、約50分。
 

 

 

 

<参考サイト>

・ヴァッレ・ダオスタ自治州観光局オフィシャルサイト(日本語)
http://valledaosta.jp/areaguide/granparadiso.html

 

・ヴァッレ・ダオスタ行きバスの予約サイト(イタリア語のみ)
https://www.svap.it/it/orari.php

 

・ヴァッレ・ダオスタ行きバスの予約サイト(英語)
http://www.savda.it/en/index.php

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は8月24日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

 

 

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