京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#18

ああ、口コミ

文・山田静

 

「口コミお願いしますね」

 さてまたしても1ヶ月穴を開けてしまいまして申し訳ございません……お読みいただいている皆様がご存知かどうか、ワタクシ宿の仕事をしつつ、半年に一度は旅休暇をいただいてましてですね、今回はネパールのカトマンズとポカラ、それとインドのシッキム地方とダージリンに行ってですね、ダージリンはお茶がおいしかったし世界遺産のトイ・トレインに乗ることができて夢がかなった感じで

 ……って、はい、すいません。

 そういう話じゃないです。

 

 もともとが旅好きで趣味も仕事も旅。今も旅の編集・ライターとの兼業ということもあり、日本でも世界でも超高級ホテルからバックパッカー宿までかなりの数の宿に泊まってきたが、宿の仕事を始めてから「よそんち」の事情が透けてみえるようになってきた。特に、自分がひとり旅をするときは予算や安全、総合的に判断して10室程度の小さめの宿に泊まることが多いせいか、多いに参考になる。スタッフの動き、清掃の行き届き具合、運営方法など勉強になることも多いし、逆に反面教師になることもある。

 で、そういう宿に限った話でもないが、近年、多くの宿でチェックアウトのときに言われるようになってきたのがコレ。

「よろしければトリップアドバイザー(ブッキングドットコムなど各種予約サイトのときも)にレビューしてくださいね」

 オンラインで個人旅行者が世界中の宿を好きに予約できるようになったいま、世界津々浦々の宿屋が口コミの重要性と怖さを体感しているのだ。

 自分だって、予約サイトでメジャーな観光地のホテルを選ぶとき、特に目当ての宿がないときは、最初に口コミのポイントと立地で絞る。でないと、ホテルの軒数が多すぎるからだ。そして口コミに「清潔感イマイチ」「夜うるさくて寝られない」なんてあったら、まず選ばない。

 ってことは、逆に考えると、自分の宿の口コミが悪すぎる・少なすぎる場合は選択肢に入れてもらえないことになる。

 もちろん、世界有数のメジャー観光地・京都にある楽遊だって例外ではない。

 

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休暇前に訪れた大河内山荘。

嵐山の竹林を抜けたところに位置し、大河内傳次郎が長い年月をかけて作った庭園で、借景を巧みに取り入れている。

神社仏閣の庭園とはひと味違う、温かみのある日本庭園だ。入園料金1000円には抹茶とお菓子も含まれる。

 

 

朝食で大失敗の巻

 トリップアドバイザーのような口コミサイトはもちろん、各種予約サイト、さらにはグーグルマップにも、日々さまざまな口コミが寄せられる。

「建物は美しいしスタッフも親切。でも、あなたが思っているよりも部屋は小さいわよ」

「バスルームは驚くほど小さい。だが向かいに銭湯があって助かった」

「床に寝るなんて想像もできなかったけど、なんとか眠ることができた」

 嗚呼、本音炸裂である。

 不便ですよね日本家屋……。布団も心配だよね……。

 宿屋を始める前は私もこういう口コミに対して、

「多少のやらせとかあるんでは……?」

 などと薄汚れた心で思っていなくもなかったが、実際始めてみると、口コミのコントロールなんてできるもんじゃない。特に予約サイトは、泊まった人でないと口コミが書けないので、念入りに仕込みでもしない限りはホンモノしか集まらないし、万一仕込みをしていたとしても、いつかは「本当」がばれるだろう。

 当館の場合、規模が小さくスタッフとゲストの距離感が近いせいか、楽しかった思い出を綴ってくださる方が多くありがたいのだが、時には頭を抱えてしまうような口コミをいただく。

「私は乳製品と卵にアレルギーがあるのに、彼らは対応してくれなかった。結局ご飯と味噌汁しか口にできなかった」

 昨年、こう書き込んできたのはヨーロッパからのゲスト。予約時にもチェックイン時にも言われていたのに、朝食できちんと対応をしなかったことを指摘されたのだ。

 ベテランスタッフの不在などいろいろな不運が重なったとはいえ、100%こっちが悪い。命に関わる食事のことを甘く見ていたとしか言いようがない。特にこの方が泊まったのは京都のピークシーズン、部屋代も高く、怒りは倍増だろう。もう、平謝りするしかなかった。

 その後は「ベジタリアン」「アレルギー」といったキーワードが予約のメッセージやチェックイン時の会話に出てくるたびに耳をピキーンと立てヒアリングにつとめ、言葉が通じていなさそうなときはGoogle翻訳の力を借りながら(テクノロジー万歳!)朝食メニューを確認するようにしている。

 そう。クレームだって役にたつことがある……というとアレだけど、詳細に悪口が書いてある口コミは、誤解もあるが、詳細に欠点を指摘してくれている場合が多く、改善のチャンスでもある。きれいごとみたいに聞こえてしまいそうだが、実際そうなのだ。

 

 

楽遊はリンゴかオレンジか

 開業当初、予約サイトで毎回のように減点をくらったのが「ロケーション」と「設備」。

 ロケーションはごもっとも。祇園みたいな観光地に位置していない当館は、写真で見たザ・京都を期待するゲストには確かに期待はずれだろう。といってじゃあ仕方ないね、と諦めるのも芸がない。京都駅と祇園と嵐電の始発駅のちょうど真ん中あたりという立地は、逆にどこにでも行きやすいし、第一ほとんど全方面へのバス停が徒歩3分以内にある。これを分かりやすく伝えればいいのではないだろうか……ってことで、バス停マップやらご近所マップやら各種取り揃え、特に外国人ゲストにはチェックインのときにはレクチャーのように各所へのアクセス方法を伝え、ついでに「ここは京都の観光地っぽくはないが、ダウンタウンであり、あなたは滞在するだけでリアルな京都ライフを体験できるのである!」と言い切ってみる……ええ、ええ、若干無理矢理だけれども、間違ってないよね?

 設備については、詳細コメントが書かれていなくても、だいたい想像はつく。多くの人が、「小さい」「布団がつらい」のだ。2ベッドルームつき、なんて広々した部屋に暮らす外国人にとってはそりゃ狭いだろう。部屋は我々が頑張っても大きくはならないが、「町家建築とは」という説明をできるだけするようにして(当然結論は「だからこんなに小さい」!)、部屋にはほとんど物を置いていない。布団は、希望する人には敷布団を二重にしたりしている。

 それでも感覚は人による。不便だな、と思われることはもちろんあるだろう。まあ、ゲストとコミュニケーションをとりつつ、こんなちまちました工夫を重ねて、試行錯誤を繰り返していくしかない。ともあれ、開業まもない素人の宿にとって、ありがたきは口コミなんである。

 

 だがしかし、ときどき脳天を殴られるような口コミにもぶつかる。

「マゾヒストでもない限り、このようなツーリスト・トラップに注意しなさい。スーツケースも開けられないほど小さく、テレビは日本語チャンネルしか映らない。あと50ドルも出せばあなたは**ホテル(←一流有名どころ)に泊まれる……(以下続く)」

 がーん。

 とあるサイトへの匿名での投稿で、内容も漠然としていてどなたの投稿かわからない。スタッフに聞いても思い当たらないといわれ、まごまごしていたら前述の女性からも「私もそんなにあの宿がいいとは思わない」といった内容の口コミが投稿された。

 ムムム。由々しき事態だが、書かれたものは仕方がない。まずは謝ろうと思うが、謝りゃいいってもんじゃない、という気がする。

 うーんうーんと悩んだ翌日。

 数日滞在していたフィリピン人のお父さんがロビーでくつろいでいたので、

「お茶でもいれましょうか?」

「ありがとう」

 茶葉を用意するためにお父さんに背中を向けていたら、

「ねえ、気にしないでいいよ」と声をかけられた。

「?」

「読んだよ、あのレビュー」

「あ」

「気にしないことだよ。ああいうのってさ、リンゴとオレンジを比べてるだけだよ」

 お父さんは両手に果物を持って、見比べているジェスチャーをしてみせる。

「オレンジが食べたいなと思ってるときに、リンゴを口に入れたら、おや? ってなるだろ? それだけのことだよ。君たちはとってもおいしいリンゴだよ」

 にこにこと笑っている。

 お、お父さーん!

 ……抱きついたりはさすがにしないが、不意の優しい言葉に、ぐっときてしまった。

「じゃあ今日も出かけてくるね。いい1日をね!」

 ありがとうございます。行ってらっしゃい。

 

 厳しいのも優しいのもゲストたち。ほんとうに、ひとつひとつが勉強だ。

「ご意見ありがとうございます。スタッフ一同、問題を解決し向上するよう努力してまいります。またお目にかかれますことを願っております」

 その夜、返信した。うーん、これが今の私にできる精一杯の回答だ。ごめんなさい。頑張ります。

 それから数週間。

「楽遊のスタッフたちは素晴らしい体験をさせてくれた」「いろんな不便はあるけれど、全て楽しかった」「彼らはベジタリアンフードを用意してくれた」

 ぽつぽつと、酷評に対する回答のような口コミが入りはじめた。あのお父さんも投稿してくれていた。

「旅館は西洋式のホテルより高価かもしれないが、理由は経験すればわかるはずだ」

 ありがとう。もっとおいしいリンゴになれるよう精進しますんで、また来てください。

 さあて、また桜の季節がやってきた。いっちょ頑張りますか。

  

 

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京都に桜の季節がやってきた。今年は開花がずいぶん早い。

 

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満開まであとひと息、東寺の不二桜。

 

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染井吉野や枝垂れ桜、東寺の桜は色とりどり。

 

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茶店の前にはこんなかわいい竹細工が。

 


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

 

*本連載は毎月20日に配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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