究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

#17

意外に見落としがちな「旅先でのケガ」対策

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 海外旅行の不安といえば、まず治安、それに病気ではないだろうか。さらに編集部では「ケガにも気をつけて」とつけ加えたい。バックパッカーのようなアクティブな旅をしていると、けっこう負傷するものなのである。保険加入はもちろんのこと、予防接種や薬の持参など、ケガ対策を考える。

 

 

旅では思わぬケガをすることがある 

 これ、大丈夫かな、と思った。
 島に接岸した渡し舟の船頭は、板っぺらを陸地との間にかけて「ほれ、行け」と、あごで合図した。バイクにまたがっているのである。エンジンをかけて、慎重にアクセルを回す。バイクが方向転換をするにも危なっかしいほどに、舟は小さい。そろそろと細い板の上を、バイクに乗りながらサーカスみたいに渡って、島に上陸しようとした、そのとき。
「ああっ!」
 バランスを乱し、ふらふらとバイクごと河に転落してしまったのだ。すぐに船頭が助け起こしてくれたが、全身ずぶ濡れだった。島の船つき場にいた欧米人バックパッカーたちが失笑していた。
 なんとかエンジンをかけなおして、逃げるように船つき場をあとにしたのだが……右足の先っぽが、じんじんと痛むのを感じた。泊まっている安宿までさっさと帰ろうとバイクのスピードを上げる。しかし右足の爪先はなにやらぬるぬるとした感触につつまれ、気持ちが悪い。バイクを停めてみた。サンダルからつきだした右足の親指と薬指から、けっこうな出血があった。コケた拍子にぶつけたか、切ったかしたらしい。

 

01
木の板をテキトーに張り合わせてエンジンをつけただけの渡し舟。ここから島に上陸するときに転倒してしまった

 

小さな島に病院はなかった

 うーん、コレかなり深いなあ……。
 宿に戻って、シャワーで傷を洗ってみたが、血はまだ止まらない。薬指はたいしたことはないが、親指がどうにも痛い。爪が一部でつぶれていて、赤黒く腫れあがっていた。とりあえず、そこらの病院でも行くか。親指にティッシュを巻きつけ、輪ゴムでしばる。手持ちのアイテムではそれしかできなかった。
 ここはメコン河の中州の島である。ラオス南部デット島。目の前はもうカンボジアだ。広大なメコン流域に無数の島が浮かんでいる。その数4000ともいわれる。だからこのエリアはシーパンドン(4000の島)と呼ばれている。そんな島々を巡り、メコンの流れにたゆたい、滝やらローカルな村を見物し、のんびりした日々を送ろうとやってくるバックパッカーは多い。
 拠点のひとつが、ここデット島だ。島の外周に沿ってぐるりとゲストハウスが並んでいる。外国人向けの食堂や旅行会社、両替屋にバイクや自転車のレンタル屋もある。島を走る人もいれば、バイクごとメコンを渡って河岸をかっ飛ばすのも人気だ。そんな帰路に、この有様というわけだった。
 しかしデット島は小さい。島の各所にささやかな村が点在しているだけなのである。何人かのラオス人に聞いてみたが、病院はないのだという。渡し舟で対岸の街ナカサンに行けばクリニックがあるそうだが、すでに夕刻、メコンに日は落ち込みつつある。もう渡し舟の営業は終わってしまっていた。まじか……。
 河に落ちて傷を負ったのだ。せめて消毒はしたい。なにかないか、なにか……歩きにくい右足を引きずるように島の中心部をうろうろすると、薬局を見つけた。ここならどうにかしてくれるのではないか。
 ラオス語はもちろん英語でもどう説明したらいいのかわからないので、店員のおじさんに右足を差し出してみる。
「オウ」
 顔をしかめたおじさんは、すぐにバケツに水を汲んできてくれた。そこに右足を入れてよく洗い、消毒薬を塗りたくり、絆創膏を貼って包帯を巻く。
「これも飲むといいよ」
 抗生物質のようだ。とりあえずは、ひとつ安心できた。

 

02
バックパッカー・ビレッジともいえるデット島。シーパンドンについては、いずれ詳しくお伝えしたい

 

 

旅先でのケガ防止&治療のために

 バックパッカー旅行はアスレチックみたいな一面もある。毎日のように荷物を持って街を歩き回り、遺跡を探検し、ときにトレッキングをし、ときにバイクや自転車を借りて疾走する。だから、ケガのリスクが意外にあるのだ。転んだり、足をひねったり、どこかにぶつけたり。ちょっとした切り傷や擦り傷は日常茶飯事だ。暑い国では短パンとサンダル姿で、足先が無防備だったりすることも一因だろう。海外旅行というと病気が気になるものだが、ケガを負う可能性も考えておいたほうがいいかもしれない。
 こちらが気をつけていても、防げない危険もある。交通事故だ。交通マナーもルールもへったくれもない国はいくらでもある。信号を守らないクルマ、歩道をぶっ飛ばしてくるバイク、白バイが逆走してくることだってあるのだ。途上国ではバイクタクシーが便利だが、運転が荒かったり、当たり前のように酔っていたりする。バイクタクシーに乗っていて事故に巻き込まれる外国人旅行者もいるのだ。
 なので、簡単な治療ができるものを持っていくといいだろう。絆創膏、ガーゼ、消毒や殺菌に使えるマキロンやケンエーシロチンといった傷薬、包帯……なかなかの荷物にはなってしまうが、持っていると安心感はある。とくに絆創膏は多用するだろう。ケガでなくてもテープの代用品にもなる。傷薬は虫刺されなどにも使える。いずれも旅先でも買える品々でもある。
 ケガでいちばん怖いのは破傷風だ。傷口から破傷風菌に感染し、4日~3週間ほどの潜伏期間ののちに、発症すると神経がマヒする。筋肉の痙攣や呼吸困難などを引き起こし、死に至ることだってある。だから負傷したら、いち早く消毒する必要があるのだ。この菌は土壌や河川など世界中のどこにでも分布している。道路の舗装が進んでいない地域では危険がある。
 破傷風は予防接種で防げるので、出発前に受けておく手もある。とくに旅行期間が長く、途上国を中心に旅するなら、あらかじめ予防接種したほうが安心だろう。10年間は免疫が機能するが、そのためには最低2度は接種したほうがいいとされる。

 

03
こんなゴキゲンなバーもあちこちに点在しているデット島は、バックパッカーの楽園のような場所だった

 

海外旅行保険には必ず入っておこう

 万が一に備えて海外旅行保険に入っておくのは必須だろう。デット島では結局、翌日に対岸の病院に行き、あらためて治療を受けた。縫うようなものでもなかったが、いちおうレントゲンを撮るなどして、日本円にして5000円ほどの費用がかかった。これはバックパッカー旅行なら2、3日は過ごせるほどの額かもしれない。保険に入っていてよかった、と思った。
 今回のように近くに病院が見当たらなかったら、薬局に行くのも手だ。途上国でもかなり夜遅く、11時くらいまで開いていることがある。薬局は小さな村でもたいていあるものだし、カンタンな英語が通じる可能性も高い。

 

04
シーパンドンの見どころのひとつコーンパペーンの滝に迫るバックパッカー。気をつけて……

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

紀行エッセイガイド好評発売中!!

okinawa00_book01

最新改訂版 バックパッカーズ読本

究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー