韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#17

全羅南道の美食〈前編〉 素材+丹精+α

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 半島の南西部に位置する全羅道は、食べものが美味しいことで有名だ。韓国好きの日本人なら、ビビンパなどで有名な全羅北道の全州を思い出すかもしれないが、忘れてはならないのが南半分の全羅南道だ。そこで、今回から数回に渡り、私の日本の事務所のスタッフが南道の美食地帯を食べ歩いたレポートをお送りする。

愛は惜しみなく与う 韓国版“満漢全席”

 韓国料理は主菜にたくさんの副菜(パンチャン)が添えられることでよく知られているが、全羅道はソウルや釜山とは比べものならないくらい副菜が多彩で豪華だ。

 その理由のひとつに食材が豊富なことがある。西側と南側が海に面し、しかも干潟が残っているため滋味深い海産物に恵まれている。そして、土が肥えているため農産物が豊かで、韓国一の穀倉地帯と呼ばれている。

 また、農耕文化が発達していたこの地ではドゥレ(相互扶助組織)やプムアッシ(互いに農作業を手伝う制度)などが盛んだった。こうした共同体文化が、豆ひとつでも分け合って食べるという分かち合い文化を生み、それが後の食による豊かなもてなしにつながったともいわれている。日本で韓国料理店を営んでいる全羅道出身者を何人か知っているが、共通しているのは従業員のまかないにとても気をつかっていることだった。

“南道は惜しみなく与う”。木浦の海鮮料理店で、どれが主菜なのかわからなくなるほどの刺身類を見て、あらためてその思いを強くした。

 

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木浦の海鮮料理店『黄金漁場(ファングム・オジャン)』の刺身フルコース

『黄金漁場』/住所:木浦市上洞1153-9 電話:061-281-3772

慣れることは愛すること

 日本には、韓国料理通を気取っているくせにエイ料理だけは苦手という人が少なくない。そういう人たちの見識を疑ってしまう。隣国とは言え、海の向こうにある食べものだ。ひと口食べただけで良し悪しを判断しようするのは不遜である。横着過ぎる。ファストフード化が進み過ぎた弊害だろうか。

 初めてエイの刺身(ホンオフェ)を食べたとき、驚いたのは噂の発酵臭(アンモニア臭)ではなく、軟骨の通った身の固さ、食べにくさだった。しかし、それは刺身ではなく、蒸し煮(ホンオチム)を選べば解消できる。骨から身を簡単に外すことができるのだ。

 ネットの世界ではこの十数年、エイを世界三大悪臭料理のひとつだと囃し立て、ゲテモノ扱いしている人が目立つが、エイを何度か味わった日本の人の多くが、「きついのは匂いではなく、むせかえるような揮発性の刺激」と言っている。食べなれてくると、この刺激が恋しくなり、刺身や蒸し煮、鍋(ホンオタン)よりも刺激が強い天ぷら(ホンオジョン)を選ぶまでになる。

 過去、エイの本場といわれる黒山島(フクサンド、全羅南道新安郡)で食べたものは、発酵が進み過ぎたものではなく、そのもちっとした食感とともに美味しくいただけたし、今回、木浦や康津で供されたものも匂いや刺激だけでなく、魚としてしっかり味わうことができた。

 どうしてもそのままでは食べにくいという人は、茹でた豚肉と酸っぱいキムチでエイ刺身を挟んでひと口で食べ、そのあとマッコリを飲めば、南道の食の真髄に近づけるだろう。

 

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木浦の人気店『忍冬酒(イントンジュ)マウル』のエイの刺身(ホンオフェ)。左上が茹で豚。左が酸っぱいキムチ。

『忍冬酒マウル』/住所:木浦市玉岩洞1041-7 電話:061-284-4068

カニとエビ、醤油漬けで個性くっきり

 韓国料理になれた日本の人でも目の色を変える食べもののひとつがケジャン。特に醤油で漬けたカンジャンケジャンは嫌いという人に出会ったことがない。木浦の名店『忍冬酒マウル』では、カニだけでなくエビの醤油漬け(カンジャンセウ)もいただくことができた。どちらにも甘味、塩味、苦味、酸味があり、それが入り混じった旨味もある。

 どちらかに軍配を上げるならやはりカニだろう。エビの味噌は苦みが際立つのに対し、黄色とオレンジ色のカニ味噌には濃厚な甘味があり、醤油のたまった甲羅の部分にごはんを入れて食べると、止まらなくなる。

 

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『忍冬酒マウル』のカンジャンケジャン(カニの醤油漬け)

 

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『忍冬酒マウル』のカンジャンセウ(エビの醤油漬け)

マッコリの旨さは味のみにあらず

 韓国全土でマッコリを飲み歩いてきた。

『マッコルリの旅』という本の取材をしていた2006年頃は、半島北部で飲んでも、南部で飲んでも、地酒というには個性が乏しい感があったが、2009年の空前のマッコリブームを経て、マッコリで村おこしのような運動が起きると、用いる素材や味に明確な特徴が出てきた。

 今では首都ソウルに居ながらにして、全国各地のマッコリを楽しめるようになった。最近は鍾路3街にあるような外国人観光客を意識していない酒場でも、各地のマッコリが7、8種類置かれていたりする。

 しかし、その出自が農民の酒、労働者の酒であるマッコリは、酒自体の味よりも「どこで、誰と、どんな雰囲気で飲むかが重要であり、ワインのテイスティングのようなことをするのは野暮」という考えは今も変わらない。

 農民が疲れとノドの渇きを癒し、ほろ酔いのまま畑で昼寝をして体力を回復させるために飲んだのがマッコリだ。これほど自然とともにある酒はない。

 その意味で、海南郡の醸造所『ソン・ウジョン発酵名家』でいただいたマッコリは、酒自体の味もさることながら、背後に山を望む庭先の東屋で、醸造者の話を聞きながら昼酒を楽しむという最高のお膳立てで、忘れられない時間となった。

 

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海南郡の醸造所『ソン・ウジョン発酵名家』のマッコリ。左から紫芋、米、ウコン

『ソン・ウジョン発酵名家』/住所:海南郡玉泉面海南路405 電話:061-532-5578

 

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韓服姿で迎えてくれた『ソン・ウジョン発酵名家』のソン・ウジョン代表(中央)

家族のように迎えられればマクワウリも甘露の極み

 康津郡では農泊(ノンバク)と呼ばれるファームステイを経験した。到着が夜10時近かったにもかかわらず、「アン・ウネ ジャンイヤギ」のホストファミリーは、私たちを久しぶりに会う親戚のようにあたたかく迎えてくれた。

 ショートカットが似合う快活な奥様は、コメディアン顔負けのトークで笑わせてくれ、高校生の娘さんは伝統楽器、伽耶琴(カヤグム)の演奏で歓待してくれた。

 私はすでに食事を済ませていたが、奥様は何かしてあげずにはおれないといった様子で、庭先の畑からもいできたチャメ(マクワウリ)を切って出してくれた。ふだんは水っぽくて甘味を取り除いたメロンのように感じるチャメだが、この夜ばかりは桃やマンゴーにも負けない、甘露な味がした。

 

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ファームステイのホストファミリーで、味噌や醤油の工房でもある『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』の奥様が切ってくれた瑞々しいチャメ
『アン・ウネ ジャンイヤギ(醤物語)』/住所:康津郡城田面ノクヒャンウォルチョンギル281

 

 

*取材協力:全羅南道観光課、全羅南道文化観光財団

 

(文と写真/キーワード)

 

(全羅南道レポート、次回に続く)

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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