東南アジア全鉄道走破の旅

東南アジア全鉄道走破の旅

#17

マレー鉄道完乗への道〈2〉

文と写真・下川裕治

 マレーシアの鉄道の完乗の旅に出た。西海岸路線と東海岸路線という幹線は、一部の区間を除いて乗っていた。未乗車線の多くは支線だった。
 マレーシアはかつて、イギリスの植民地だったから、多くの支線があった。スズやプランテーションでつくられたゴムの搬出路線といったルートだった。支線の多くは西海岸に集まっていた。しかし調べてみると、その多くが貨物専用線になっていた。運行を停止した路線も多い。やはりマレーシアの鉄道には勢いがない。
 支線のなかで運行を続けていたのは、バトゥケーブス支線とポートクラン支線だけだった。ともにクアラルンプールを起点にしていた。
「一気にいけるな」
 これまで支線に乗るために苦労してきた。そこに辿り着くまでに、延々と列車に乗らなくてはいけなかった。そしてやっと乗り潰すことができるのが1支線である。マレーシアの支線では、その労力が省けそうだった。

 

 

支線はKTMコミューターになっていた

 LCCでクアラルンプールの空港に着き、バスでKLセントラル駅まで出た。ここから支線に乗り込むことができるはずだった。
 この駅はいつも混乱する。かつてはクアラルンプール駅という趣のある駅が中心だったが、2001年、ひと駅隣にKLセントラル駅ができた。いってみれば、東京駅の隣に東京セントラル駅をつくったような感覚である。ここにはKTMインターシティ、KTMコミューター、LRT、モノレールが乗り入れている。なかはショッピングモールになっていて、改札口がみつけにくいのだ。
 未乗車区間の2路線は、ともにKTMコミューターになっていた。クアラルンプールと近郊を結ぶ通勤線のような感覚だろうか。
 最初にポートクラン支線に乗ることにした。終点はポートクランだ。距離は45キロほどだろうか。
 ホームは地下にあったが、その途中に、KTMコミューターの路線図があった。それを見ると、ポートクラン支線とバトゥケーブス支線は赤い線で結んであった。
「ひょっとしたら……」
 ふたつの未乗車路線がひとつの路線として運行されているのかもしれない。そうだとしたら、マレーシアはなんという優しい国だろうか。未乗車区間を一気に乗り潰す電車を運行させているのかもしれないのだ。
 終点のポートクランまでは、6.4リンギだった。日本円で約180円ほどだ。車両はロングシートの通勤電車風である。座席はいっぱいで、立つ人も1車両に数人といった混み具合で列車はスタートした。時刻表を見ると、1時間に1~2本という頻度。おそらく通勤時間には本数が増えるのだろう。地方の列車に比べると気合が入っているように映る。 
 アカンサプリ、スティアジャヤ……。車窓には団地が映る。郊外住宅地の趣である。クランで乗客の大半が降りた。駅前にはプラナカン建築風の建物が続いていた。イギリスの植民地時代、クラン港の貿易で栄えたのかもしれなかった。終点のポートクランはそこから10分ほどだった。

 

 

一気に未乗車区間に乗れると思ったが

 ポートクランは寂しい駅だった。駅前にあるのは、ケンタッキー・フライドチキンと雑貨屋が1軒だけ。町の気配がない。タクシーの運転手が暇そうに煙草をくわえている。先には港のクレーンが見渡せた。
 ここから折り返すことになる。タイでこういうことをすると、「なぜまた乗ってくるんだ」といわれるのだが、通勤電車風だから、そういわれる心配もない。だいたい車内に車掌もいない。
「バトゥケーブスまで」
 小さな駅舎の窓口でそう伝えた。7.7リンギ、約216円だったが、駅員はこういった。
「途中で乗り換えてくださいね」
「1本では行かない?」
「ちょっとまでは行ったんですけど、最近、運行路線が変わったんです」
 僕が乗り込んだ電車はラワン行きだった。この駅は西海岸線の駅である。KTMコミューターは、西海岸線と2本の支線をたすきがけのように結んで運行していた。以前は支線2本をつなぐ路線と西海岸線で分けていたが、支線から西海岸線に入っていくルートに変わっていた。
 しかしそれほど難しい乗り換えではなかった。たすきがけの交わる部分には、KLセントラル、クアラルンプール、プトラの3駅があった。そこでバトゥケーブス行きに乗り換えればいい。
 ポートクランからの電車のなかでうとうとしてしまった。車両はロングシートと特急のような座席の混在型だった。特急型座席に座ることができたからだろうか。KLセントラル駅で目が覚めた。帰宅する人々が大挙して乗り込んできた。そこから終点のバトゥケーブスまでは10キロほど。30分もかからなかった。
 バトゥケーブスの駅は、切り立った崖の際につくられていた。崖のなかには、有名なヒンドゥ寺院があるのだという。奇怪な形の崖をぼんやり見あげていた。

 

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ボートクラン線の終着駅に着いた。すぐに折り返すのは完乗旅の宿命?

 

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電車は定時運転。これだけでもマレーシアではすごいこと(バトゥケーブ)

 

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※地図はクリックすると拡大されます

 

*マレーシア鉄道公社ホームページ→http://www.ktmb.com.my/ktmb/

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『タイ語の本音』『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア横断2万キロ』『「裏国境」突破 東南アジア一周大作戦』『週末バンコクでちょっと脱力』『週末台湾でちょっと一息』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」(いまはユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅を連載)、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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