旅とメイハネと音楽と

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#17

トルコ最南端の町アナムルの旅〈4〉

文と写真・サラーム海上

 

町の青空市場へ 

 2016年7月30日土曜、アナムル郊外にある地中海のビーチ沿いのサマーハウスに滞在して4日が過ぎた。ビーチには一日四回も足を運んでいたが、アナムルの町にはまだ足を踏み入れていなかった。ちょうど土曜日はアナムルの中心地で地元の農家や酪農家たちによる青空市場が開かれる日だ。町の様子も知りたいし、お土産も買いたいので、レジェップ父さんに頼んで市場につれて行ってもらうことにした。 

 午後のひと泳ぎをすませた午後3時、僕はアイリン、ハッカン、そしてアイリンの従兄弟のジャンとともにレジェップ父さんが運転するオンボロの小型車に乗り込み、アナムルの町へと向かった。

 トルコ最南端の町アナムルの7月の平均最高気温は32.8度。公式に記録されている最高気温は42.0度! 僕たちのサマーハウスは町の中心から10kmほど離れた海岸沿いなので、朝夕に海風が吹き、気温はそこまで高くはならない。だが、小さな車に詰め込まれて、町に近づくにつれ、車内の気温は急速に上がっていった。窓を全開にしていても入ってくる風は熱風。モロッコやインドではおなじみの暑さだが、トルコでこんなに暑いのは初めてだ。

「チョク・スジャック!(超暑い!)これは35度じゃすまない。40度くらいあるんじゃない?」

「エヴェット(はい)。だから町には来たくないのよ」とアイリン。

 町外れの駐車場に自動車を停め、あまりの暑さに人が歩いていない少ない繁華街を抜け、簡素な造りの薄緑色のモスクを目指すと、モスクの奥に青いビニールの屋根が付いた巨大な仮設市場が見えてきた。

 

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奥の青いビニール屋根が市場

 

 カメラを提げて市場に入ろうとすると、市場の手前の路上で「フォト・チェキン!(写真撮れ!)」と甲高い声で呼びかけられた。振り向くと道端のベンチに腰掛けた地元のオバチャンがニコニコしながら杖を片手にポーズを決めていた。

オバチャンの後ろの柵には「(高圧電流)死ぬぞ、危険」と書かれたドクロマークの標識が張られているのに、全く気にせずに頭陀袋や日傘などの荷物を辺り構わずに散らかしていた。その組み合わせがおかしくてついついシャッターを押してしまった。

 

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オバチャンに呼び止められた

 

 市場に足を踏み入れると、閑散とした繁華街とは異なり、ここにはあふれるほどの人が集まっていた。老夫婦や子供連れの若夫婦がはちきれそうなビニール袋を両手に提げて買い物に勤しんでいる。トルコの地方都市の青空市場はいつ訪れても楽しい!

 真夏だけあって、やはり一番目立つ野菜はトマト。一つ300g以上ありそうな大きなトマトが1kgでなんと2TL=80円からと安い! イスタンブルなら300~400円はするし、東京なら一個で300円近くしそうだ。

 様々な大きさや形をした茄子や赤や緑の唐辛子も目立つ。巨大なキュウリやズッキーニも夏のトルコらしい野菜だろう。ラグビーボール型の西瓜は、それを売っているオヤジの出っ腹よりも大きい。西瓜は表面が冷たいので、枕代わりにして昼寝しながら店番している少年もいた。

 

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活気にあふれる市場

 

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真夏はやっぱりトマト!

 

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西瓜を枕代わりに昼寝をきめこむ少年

 

 野菜の他にはチーズやオリーブ類も目立つ。かつては羊の皮に詰めて発酵させていたトゥリュム・チーズも、現代ではビニール袋の中で発酵させたものが売られている。アーモンドや胡桃の屋台も多いが、ピーナッツこそがアナムルの名産らしい。

 

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様々なオリーブ

 

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トゥリュム・チーズ

 

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ナッツも豊富

 

 レジェップ父さんはヌルギュル母さんから渡された買い物リストを片手に、品物の状態を確かめながら、慎重に野菜やハーブ、チーズを買っていた。自身でも家庭菜園で野菜を作っているだけに、野菜の質にはこだわりがあるのだ。

 

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買い物中のレジェップ父さん

 

 僕は自分へのお土産として、ドマテス・サルチャス(トマトペースト)、ビベール・サルチャス(赤パプリカのペースト)、緑オリーブ、乾燥のザータルやケキッキ(タイムやオレガノの一種)、そしてナール・エキスィシ(ざくろビネガー)を買った……と言うか、恥ずかしいのだが、ハッカンに買ってもらった。

 #14アナムル編1回目にも書いたが、僕はちょっとしたミスが重なり銀行のキャッシュカードもクレジットカードも持たないまま、ロンドンからトルコへと飛んできていた。それでもサマーハウスから出ることがなかったので、お金を両替する機会も、使う機会もないまま4日間を過ごしていた。結局一週間のトルコ・アナムル滞在中、最後まで両替所に行くことはなかったのだ。彼らへのお礼は半年後の2017年1月、彼らが東京に来た際にたっぷり行ったのでご安心下さい。

 

市場で自分のお土産を購入

 

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乾燥ハーブもいろいろ

 

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ざくろビネガー(ペットボトルの容器)もお土産には欠かせない

 

 

温室のバナナ園 

 青空市場で買い物をすませた後、次にレジェップ父さんが案内してくれたのは、友人たちと共同で所有しているバナナの温室だった。アナムルは温暖な気候によってトルコで唯一のバナナの産地となっている。郊外にはバナナの森が広がり、巨大な温室がいくつも並んでいるが、緑のジャングルのような風景は乾燥した砂色をしたトルコの地中海地域の他の場所とは随分異なって見える。

 レジェップ父さんは町外れの道沿いに並ぶ大きな温室の前で自動車を停めた。そして、目の前の温室の入り口の鍵を開けた。一歩中に入ると、ムワ~っと猛烈な湿度が襲ってきた。スプリンクラーが回り、温室内は東南アジアのジャングルのようにムシムシしている。そこに高さ3mほどのバナナの木が1m間隔で並び立ち、茎の上から巨大な房が垂れ下がり、緑のバナナがたわわに実っていた。これなら数日後には大量のバナナが収穫出来るはずだ。

 だだっ広い温室の中ではバナナだけでなく、パパイヤとマンゴー、パッションフルーツまで栽培していた。僕たちのサマーハウスにある冷蔵庫の野菜室には大量のパッションフルーツが無造作に放り込まれている。そのパッションフルーツにフォークの先で小さな穴を開け、口を付けて中の実を「チュー」と吸い出して食べるのが、僕にはアナムルの朝の贅沢な過ごし方となっていた。

「パッションフルーツまで栽培してたとは驚いた! 日本では高級フルーツなんだよ」

「イスタンブルでも高級フルーツだよ。僕はアナムルに来るまで食べたことなかったんだ」とハッカン。

 どうやら、トルコ広しと言えど、アナムルは他と異なる特殊な唯一無二の場所らしい。

 

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温室ではバナナがたわわに実っていた

 

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バナナ以外にいろいろ栽培している

 

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サマーハウスの冷蔵庫には高級果物の大量のパッションフルーツが!

 

 

トルコ南東部地中海地方の料理2品を教わる 

 さて、今回は僕も今回初めて知った料理、バナナと並んでアナムル名産であるピーナッツを夏野菜やゴマとともにたっぷりと使ったトルコ南東部地中海地方の料理、スクマとバトゥルックの2品を紹介しよう。作ってくれたのはアナムル出身のお手伝いさん、スズカさん。

 スクマとバトゥルック、2品とも僕は名前すら初めて聞いたが、途中までの調理工程は同じなので、一度に2つの料理が作れる。暑くて、料理が面倒な夏の日に一石二鳥の料理である。

 まずブルグルを大きなボウルに入れ熱湯で戻す。スクマとバトゥルック両方でブルグルをカップ1杯が一人前。そこにドマテス・サルチャス、ビベール・サルチャス、みじん切りの玉ねぎ、ミキサーでつぶしたトマト、パセリのみじん切り、ミキサーで砕いたピーナッツとゴマを大量に加え(一人分はそれぞれ1/4カップずつ)、粘り気が出るまでよく練る。

今はフードプロセッサーを使ってこねることも出来るが、昔は手でこねずに足を使ってこねていたという。足でこねた料理なんてあまり食欲がわかないなあ。現代人で良かったよ。

 

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今回の料理担当はアナムル出身のスズカさん

 

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ブルグルにペースト2種と玉ねぎ、つぶしたトマト、大量の砕いたピーナッツとゴマ、最後にパセリを加えて、よく練る

 

 ここで練った具材を半量ずつに分けておく。

 スクマはトルコ語で「絞る、強く握る」を意味する。その名のとおり、練った具材を掌に取り、握り寿司状にこねたら出来上がり。以前、僕が千葉在住のトルコ人女性、大場ユスラさんから習ったガジアンテップの料理「ヤランジュ・チー・キョフテ(嘘付き生肉団子)」とよく似ているが、大量のピーナッツとゴマが加わることで、さらなるスタミナ料理となっている。

 

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練った具材を握ったら、スクマの出来上がり

 

 一方のバトゥルックは、スクマの具材をたっぷりの冷水とレモン汁でのばし、刻んだトマトとキュウリを加え、塩胡椒で味付けし、冷たいスープとして仕上げたもの。こちらは「トルコ版ガスパッチョ」、またはゴマ入りなので「トルコ版冷汁」とでも呼びたい。

 

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スクマの具材を水とレモン汁でのばし、野菜を加えて味付けしたら、バトゥルックの完成!

 

 食卓ではスクマにはさらにレモン汁をしぼったり、プル・ビベール(赤唐辛子粉フレーク)をふりかけたり、バトゥルックにはトマトやきゅうりのみじん切りを加えたり、スクマを浸しながらいただいた。 

 スクマとバトゥルック、どちらも火を使わずに作れるから、今流行りのローフードでもあり、暑い夏を少しでも涼しく乗り越えて、しかも栄養抜群、地中海発のパワーフードとも言えそうだ。この夏の日本でも流行らせたいな。

 

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スクマとバトゥルックは、ローフードで栄養抜群。真夏にぴったりのメニューだ

 

 

スクマとバトゥルックの作り方 

■スクマとバトゥルック

【材料:4人分】

ブルグル(小粒):4カップ

熱湯:2カップ

玉ねぎ:1個

ドマテス・サルチャス:大さじ1

ビベール・サルチャス:小さじ2(なければ、少量の豆板醤かマッサ・デ・ピメンタオンで代用)

塩:小さじ1/2

完熟トマトまたはトマトの水煮:1個

白ゴマ:1カップ

生ピーナッツ:1カップ

 

冷水:500cc

トマト:2個

きゅうり:2本

塩:少々

 

レモン汁:少々

プル・ビベール:少々(韓国の赤唐辛子粉で代用可)

 

【作り方】

1.ボウルにブルグルを入れ、熱湯を注ぐ。玉ねぎはみじん切りにし、ドマテス・サルチャス、ビベール・サルチャス、塩とともにボウルに加え、よく練る。

2.完熟トマトはジューサーにかけて、ジュース状にする。白ゴマと生ピーナッツはフードプロセッサーにかけて小さな粒状にする。

3.1に2を加え、粘り気が出るまでよく手でこねる。半量ずつにボウルに分けておく。

4.掌に取り、つくね状にこねる。スクマの出来上がり。

5.3の残り半量に冷水を少しずつ足し、スープ状にのばす。

6.トマトは5mm角、きゅうりは皮をむいてから5mm角に切り、5に加え、塩で調味する。バトゥルックの出来上がり。

7.お好みでレモン汁やピル・ビベールをかけていただく。

 

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スクマにはお好みでレモン汁やペーストなどをかけて

 

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バトゥルックに野菜を足したり、スクマを浸しても美味しい

 

*トルコ・アナムル編、次回も続きます!

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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