ブーツの国の街角で

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#17

チンクエテッレ:イタリアの魅惑のビーチリゾート(後編)

文と写真・田島麻美

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  イタリアの海と聞くと、シチリア島やカプリ島といった南の島々がすぐに思い浮かぶが、イタリア本島の北西部にも魅惑的な夏のリゾート地がひしめいている。世界の大富豪が集結する高級リゾート地ポルトフィーノをはじめ、南フランスのニースからイタリアのラ・スペツィアへと続くリグーリア海岸線上には、美しい海とダイナミックな自然風景のコントラストが魅力のリゾート地が点在している。
 その中でも私が個人的にオススメしたいのが、世界遺産にも登録されている北イタリアきっての景勝地「チンクエテッレ」。険しい海岸線の崖の上に集まる5つの小さな村を船で巡る旅は、何度もリピートしたくなるほどの楽しさに満ちている。
  

 

 

 

ジェノヴァから鉄道で難攻不落の村へ

 

 

  チンクエテッレはイタリア語で「5つの大地」という意味があり、リグーリア海岸の断崖の上に立つ5つの村の総称である。かつては海から小舟でしかアクセスできず、”難攻不落”というイメージが強かったが、1997年にユネスコの世界遺産に登録されて以来、交通の便がぐっと良くなった。
 私は今までに二回チンクエテッレを訪れているが、最初はラ・スペツィアから船で入り、二回目はジェノヴァから鉄道で入るルートを選んだ。船旅の情緒を味わいたいなら船でアクセスする方がいいが、荷物を考えると情緒は欠けても鉄道で村に入る方が便利だ。
ジェノヴァからの各駅電車はツーリスト狙いのスリが多いことで悪名が高かったのだが、それも最近では直通のインターシティが停車するようになったり、2016年に開通した『チンクエテッレ・エクスプレス』という周遊列車の登場で快適にアクセスできるようになったのは嬉しい限りだ。
 荷物を持ってあの急な坂道を上り下りしたくない人や時間が限られている人は、ジェノヴァかラ・スペツィアからの日帰り観光も可能。しかし、やはりできることなら5つの村のどこかに宿をとって、のんびりとした漁村の日常風景を是非とも堪能してみて欲しい。
 

 

 

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 海岸線を走る列車からの眺めも素晴らしい(上)。『チンクエテッレ・エクスプレス』は6月初旬から10月末の期間限定で、ラ・スペッツィアとレヴァント間を30分間隔で運行する。ラ・スペツィアを拠点に5つの村々を回る周遊船も夏季のみ運行している(下)。海から眺める断崖に張り付いて建つカラフルな街並みは必見。但し、コルニリア村だけは港がないので鉄道でしかアクセスできない。

 

 

 

 

モンテロッソのプチ・ビーチで気ままに海水浴

 

 

  ジェノヴァから急行列車で約1時間20分、チンクエテッレ滞在の拠点に選んだのはモンテロッソ・アル・マーレ。チンクエテッレには、他にもヴェルナッツァ、コルニリア、マナローラ、リオマッジョーレという4つの村があるが、いずれの村も小さく、素朴でとても可愛らしい。どの村も細い坂の通りが入り組み、村の高台からは真っ青なリグーリア海が見渡せる。以前チンクエテッレを訪れた時もやはりモンテロッソに宿をとった。その理由は、5つの村で唯一、小さいながらもビーチがあること。駅からすぐのところに無料のビーチがあり、太陽をたっぷり浴びながら好きなだけ昼寝を楽しめるのだ。小さな村にはカラフルな水着やリゾート向けの衣料品店、お土産屋さん、おしゃれなレストランやカフェもあり、長く滞在しても飽きることはない。
 村ではB&Bに泊まった。いずれの村もとても小さいので大型のリゾートホテルなどはなく、B&Bや民宿、バカンス用貸しアパートなどがメインの宿泊施設になる。すぐ近くには大型クルーザーが大量に停泊している大富豪のリゾート地ポルトフィーノもあるのだが、ここチンクエテッレはいたって質素で庶民的。同じ海でありながら、体験するバカンスの内容は別世界だ。私自身は庶民的でのどかなバカンスがしたかった(というか、豪華クルーザーでのバカンスなど想像もできない)ので、小さな村のプチ・ビーチに寝そべって本を読んだり、真っ青な海に飛び込んだりするだけで十分パラダイス気分を味わえる。
 

 

 

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モンテロッソ・アル・マーレの小さなビーチ。チンクエテッレは岩場がほとんどなので、ビーチがあるのはこの村だけ(上)。海の青さ、海水の透明さは特筆モノ。岩場で気ままに寝そべって肌を焼く人もいれば、崖から突然海に飛び込む若者も。誰もが自由気ままに海を楽しんでいる(下)。

 


 

 

 

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カフェやレストラン、お土産屋さんなどが軒を連ねるモンテロッソの中心街(上)。のどかな雰囲気が溢れる村では、犬も店先でのんびり午後の昼寝を満喫中(下)。

 

 

 

 

どうしても再訪したかったモンテロッソの名店

 

 

   二度目のチンクエテッレでモンテロッソを拠点にした理由が、実はもう一つある。前回の訪問時、どこか安くて美味しい地元料理の店はないかと探していたところ、道端で出会って世間話をした地元の漁師のおじさんが、「ここへ行け!」と強制的に指定した(その場で予約まで取ってくれたのだ)レストラン『チャック』。この店こそ、私をモンテロッソにつなぎとめた最大の理由と言っても過言ではない。
  漁師のおじさんの話では、「オーナーシェフのチャックはモンテロッソの海も山も知り尽くしている。食材も自分で収穫したり、厳選したものしか使わない。値段も良心的だよ。俺はしょっちゅう行ってるけど外したことはないね」とのことだった。地元の漁師のイチオシなら間違い無いだろうと従ったのだが、ここの料理がとにかく美味しかったのだ。 
 記憶を蘇らせながら、「どうか味が変わっていませんように」と祈りつつレストランを再訪。店先にたどり着くと、名物シェフ・チャック本人が今夜の食材を厳しい目つきでチェックしている真っ最中だった。よかった、この様子ならきっと大丈夫だろう。 
 案の定、味は落ちるどころかさらに磨きがかかっていた。シーフードはどれも捕れたれ新鮮そのもので、手長海老のカルパッチョなど、思わず気絶しそうになったほどの美味しさ。そして名物のテラコッタの鍋に入ったパスタ『Spaghetti Ciak』は、アサリとムール貝の出汁がたっぷり染み込み、特産の白ワイン『Cinqueterre』との相性も最高。私をこの村に再び導いたあの味をもう一度体験できたことで、満足度は頂点に達した。
 

 

 

 

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店頭で食材のチェックに没頭中のオーナー・シェフ「チャック」(上)。悶絶するほど美味しかった手長海老のカルパッチョ(中)。この店の名物のパスタはテラコッタの鍋にたっぷり入ってサーヴされる。特産の白ワイン『cinqueterre』と一緒に、思う存分海の幸を堪能できる(下)。

 

 


 

5つの村を回る定期船で海上から絶景を堪能

 

 

   ビーチでリラックスし、レストランでお腹を満足させた後は、いよいよメイン・イベントの「5つの村巡り」を楽しむことにしよう。夏のバカンスシーズンが始まる毎年4月から10月の間のみ運行している定期船で、爽やかな潮風に吹かれながら海上から風光明媚なチンクエテッレの景勝を堪能することができるのだ。
 モンテロッソの港で定期船の時刻とルートを調べ、到着を待って早速乗り込む。コルニリアだけは船が着ける港がないので海上からは近づけないが、それ以外の村はどこでも気に入ったところで降りられる。時刻表によると、だいたい1時間に1本のペースで村々を往復しているので、特に目的も持たず、気の向くまま船に乗って降りたくなったところで降りてみることにした。
 

 

 

 

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ラ・スペツィア発着の定期船MAP。5つの村をはじめ、ポルトヴェネレ、ポルトフィーノ、サン・フルットゥオーゾといった絶景の名所を網羅するルートもある(上)。どの景勝地も港がとても小さいため、定期船も小型のボート(下)。潮風に吹かれながら、アイランド・ホッピングをしているような気分を楽しめる。

 

 

 

 

  モンテロッソから海を走ること15分、隣村ヴァルナッツァの港が見えてきた。海の青さに馴染んだ目には、カラフルな家並みがひときわ可愛らしく映える。その家並みを、ぶどうの段々畑の緑がぐるりと取り囲んでまるで額に入った絵のよう。小さな港では大人も子どもも一緒になって、水しぶきを上げてはしゃいでいた。
 その次は、港がないため海からは立ち入れないというコルニリア村を通り過ぎた。こちらは段々畑の崖の上に村があるようだ。海から見るとまるで要塞のような険しい崖の上に、おとぎの家のようなキュートな家並みが集まっている。この村へはバス、列車で行けると聞いたので、次の機会にはぜひ足を伸ばしてみたい。
  リグーリアの険しい海岸線、段々畑の緑、そしてカラフルでキュートな家並み。その3つが真っ青な海の上に突如現れては消えていく。この崖の向こうには、どんな景色が待っているんだろう? そんなワクワクした気持ちを胸に、船での5つの村巡りは続く。最終地点のリオマッジョーレで下船し、そこでまた、忘れられないトラットリアに出会ってしまった。チンクエテッレを三度訪れる日もそう遠くないだろう、と思いながら、手長海老とムール貝のスパゲッティを噛み締めた。
 

 

 

 

 

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海からのチンクエテッレの村々の景観。上からヴェルナッツァ、コルニリア、マナローラ、リオマッジョーレ。
 

 

 

 

 

★ MAP ★

 

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<アクセス>

ジェノヴァから急行列車インターシティ(IC)でモンテロッソまで1時間18分。もしくは、ラ・スペツィアからチンクエテッレ・エクスプレス利用で30分弱。ピサからも列車でのアクセスが可能、約1時間半。
 

 

<参考サイト>

・チンクエテッレ観光サイト(英語)
http://www.cinqueterre.it/en

 

・チンクエテッレ・エクスプレス(英語)
http://www.cinqueterre.eu.com/en/cinque-terre-timetable

 

・チンクエ・テッレ周遊船(英語)
http://www.navigazionegolfodeipoeti.it/en/

 

・リストランテ「Ciak」(英語)
http://www.ristoranteciak.net/
 

 

 

*この連載は毎月第2・第4木曜日(月2回)の連載となります。次回は8月10日(木)掲載予定です。お楽しみに! 

 

 

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田島麻美 (たじま・あさみ)

千葉県生まれ。大学卒業後、出版社、広告代理店勤務を経て旅をメインとするフリーランスのライター&編集者として独立。2000年9月、単身渡伊。言葉もわからず知り合いもいないローマでのサバイバル生活が始まる。半年だけのつもりで暮らし始めたローマにそのまま居座ること17年、イタリアの生活・食文化、歴史と人に魅せられ今日に至る。国立ローマ・トレ大学マスターコース宗教社会学のディプロマ取得。旅、暮らし、料理をメインテーマに執筆活動を続ける一方、撮影コーディネイター、通訳・翻訳者としても活躍中。著書に『南イタリアに行こう』『ミラノから行く北イタリアの街』『ローマから行くトスカーナと周辺の街』『イタリア中毒』『イタリア人はピッツァ一切れでも盛り上がれる』他。

 

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