韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#16

茹で豚肉+大根キムチで一杯、〆は冷麺

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途中下車してまで食べたかったもの

 蒸し暑い夏の午後、私は鍾路3街に用事があって地下鉄5号線に乗ったが、どうしてもあるものが食べたくなって踏十里駅で降りてしまった。駅から10分ほど歩いて、外観はごくごく平凡な店にたどりつく。

 看板料理は店名の一部にもなっているマッククス(そば粉の冷麺)なのだが、私のような酒好きはその前に頼まなければならないものがある。豚肉を茹でたジェユクだ。いかにもつまみといった感じで、小さめにカットされ、白い皿にきれいに並べられて出てくる。

 

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茹で豚肉は写真のハンチョプシ(ハーフ)が5000ウォン

汁気をきった大根の水キムチに辛味ダレをからめる

 韓国では、茹でた豚肉にはアミの塩辛が添えられることが多いが、自家製のトンチミ(大根の水キムチ)の薄切りを真っ赤な唐辛子ダレで和えたものといっしょに食べるのがこの店の流儀。

 トンチミにはほのかな塩味と酸味があり、そのまま食べてもおいしい。固すぎずやわらかすぎない食感もいい。私の母は半島北部の出身なので、子供のころトンチミを甕に仕込んで、冬のあいだ地中に埋めて熟成させていたことを思い出す。

 

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茹で豚肉に添えられる大根の水キムチと唐辛子ダレ(タデギ)

 

 トンチミはそのままだと酒のつまみとしては淡泊すぎる。そこで卓上に常備された唐辛子ダレの出番。小さな匙で2杯くらいすくってトンチミにかけ、よくかきまぜる。

 いけない! 自然とニヤけてしまう。チャジャン麺をかき混ぜるときと同じくらい幸せだ。最初から唐辛子ダレを加えたトンチミを出すのではなく、二通りの食べ方が楽しめるようにしているところがすばらしい。

 

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唐辛子ダレと混ぜた大根の水キムチ

赤く染まったトンチミを茹で豚肉にのせる、そして…

 茹で豚肉をひとつつまみ、そこにタレをまとって赤くなったトンチミを1切れか2切れのせる。口に運び、ひと口でパクリ。豚肉は脂が抜けているが、ほどよく水気と旨味が残っている。口中でトンチミの塩辛酸っぱさと混じり合う。サムギョプサルやポッサムなどの豚肉料理では経験できない味の境地だ。あっさりしたものが好きな日本の人の口にも合うだろう。

 唐辛子ダレで和えたトンチミをのせた茹で豚肉は、焼酎でも生マッコリでもいけるはず。だが、まだ陽が高いのでマッコリにするのが大人のたしなみというものだろう。アルコール度数は6度。茹で豚肉をつまみに飲み始めると、あっという間に1本空いてしまう。

 

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赤くなった大根の水キムチを豚肉にのせ……。これがマッコリに合う

水冷麺で〆るか、ピビム冷麺で〆るか

 冷えたマッコリで涼をとることができ、気分もよくなった。だが、小さな豚肉を7、8切れ食べただけなので、まだ胃袋には余裕がある。これが夜ならさらにマッコリを1本ということになるが、まだ用事も済んでいない。

 そんなとき、この店では冷麺をいただくのが基本だ。麺は水そば(ムルマッククス)と混ぜそば(ピビムマッククス)の2種類。ここはお酒の抜けをよくする水そばを選ぶ。

 マッコリが注がれた胃が少し落ち着いた頃、水そばが出てきた。拍手で迎えたい気持ちだ。私はこの店の水そばを勝手に“冷麺美の極致”と呼んでいる。ステンレスの容器に日本の田舎そばのような黒っぽい麺と半分凍った透明な汁。具はひとつものっていないので、殺風景に見えるが、日本の人ならこれを粋ととらえるのではないだろうか。

 汁はさっき食べたトンチミの漬け汁。そばをずるずるとすすり、器を両手で持って汁を飲む。見た目通り、そば粉が力強く香る麺。汁は日本のざるそばの黒いつけ汁になれた人が拍子抜けしそうな薄味。やさしい酸味と塩味、そしてほのかに発酵味が感じられる。野趣あふれる麺と繊細な汁がひとつになった洗練された韓国料理だ。いや、半島の北側にルーツをもつ食べ物なので、ここは古風に朝鮮料理と呼びたいところだ。

 

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〆はシンプルなムルマッククス(水そば)、5500ウォン

 

 日本の人の韓国料理観をガラッと変えてしまいそうなこの食べ物については、今年の10月に双葉社から発売される予定の新刊で、さらに詳しく述べたいと思う。楽しみに待っていてもらいたい。

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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