京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#16

京都いけず語り

文・山田静

 

京都の話法は難しい

「あの、日本語について質問があります」

 ある日、台湾人スタッフが真面目な顔で聞いてきた。

 ちょっと話しただけでは日本人としか思えないくらい、日本語および英語堪能なトライリンガルが、いまさらどんな質問があるというのか。

「いつものお店で『楽遊さん、紅葉の今はお忙しいでしょうねえ』と聞かれました」

「ふむふむ」

「『はい、忙しいです』と答えました」

「なるほど(……おっ?)」

「そしたら『あら羨ましいですねぇ』と言われました」

「なるほど(ははーん)」

「何か変な感じです。日本語が間違っていましたか」

 もちろん間違っていない。

 間違っていないけれども「空気が変でした」とモヤる彼女の推測も当たっている。京都では、こういうときに真っ直ぐ返事してはいけないのだ。「自慢してる」と受け取られてしまう。

 実際上記の質問はよく受けるのだが、私の場合は、

「いやあ、他の旅館さんのおこぼれで、まあちょぼちょぼ……」(語尾を濁し後ずさりしながら退場)

 京都人のスタッフが考えた正解は、こんな感じ。

「もうね、私だけが仕事遅くて忙しいんです、困ってます(ニコッ)」(己の仕事の出来なさに話をすり替える)

 他のスタッフからもさまざまな意見が出たが、

「おかげさまで……」(できるだけ控えめに)

 これが最も無難だろう、と結論づいた。

 もちろんここでは元気いっぱいの「ぼちぼちでんな!」は論外である。

 直接の指摘や物言いを避け、ふんわりとした言い方、遠回しな表現で意図を伝えるいわば「京都話法」は、鈍感力には自信がある私も暮らして1年あまりが過ぎ、さすがに少しは読み取れるようになってきたが、難しい。「直接言わないのが京都人の優しさ」とか言われても、途方に暮れるばかりだ。

 

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天候が不規則で、今年の紅葉は見ごろが短かったような印象。いくつかご紹介しよう

 

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今年の「そうだ 京都、行こう」キャンペーンに登場した東寺。ライトアップも力が入っていた

 

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回遊式庭園のカエデがみごとな圓光寺。竹林も美しい

 

 

肝を冷やした駐輪事件

「京都ってやっぱりいけずなの?」

「なんか意地悪なことされた?」

 全京都民が憤慨しそうだが、知人友人たちは東京に戻るたびに私に期待を込めて聞いてくる。

 うーん、難しい。

 ダイレクトに嫌な思いをすることはまずない。少なくとも私の周りの方々は、ヨソモノに親切だし、教えたがりだ。ただ、前述の「京都話法」への回答に失敗したり、軽いイヤミのジャブにあとで気がついて頭を抱えたり、あるいは東京では考えられない展開に首もとがヒンヤリするようなことは何度かある。

 なかでも肝を冷やしたのが「駐輪間違っちゃった事件」だ。

 暑さも和らいだころ、元気いっぱいの英国人カップルが自転車をレンタルして街に繰り出した。祇園周辺に自転車通行禁止の道があること、違法駐輪はすぐに撤去されることなどを、駐輪場マーク入りのサイクルマップを見せながら説明する。

「分かった! まかせて!」

 マップ片手に張り切って出て行ってから数時間後、ランチタイムに電話が鳴った。

「はい、京町家らくゆ……」

「あんたんとこは何屋さん?」

 名乗る前に遮られた。

 む、穏やかではない。

「楽しく遊ぶ、と書くお店さんですかな。自転車とか貸してますの? 外人さんに?」

「旅館です。そうです楽遊と申します。外国人の方にもお貸し出ししています。失礼ですがどちら様でしょうか?」

「あんたんとこのお客さんやと思うけど、お店の名前が貼ってある自転車が、うちの駐車場に停めてあるんやけどな」

 うへえ、やっちまった。

 あの2人だ。「P」の字だけ見て、はじっこならいいかなと個人の駐車場に停めちゃったのかもしれない。ちょうどご飯どきだしランチに行ったのかもしれぬ。

「誠に申し訳ございません。すぐ引き取りに参りますので。場所とお名前をうかがえますでしょうか」

「危ないから、鍵抜いときましたから」

「は?」

「自転車の鍵がささったままでしてな。とりあえず駐車場の外に出して、鍵は抜いときました」

「は?」

「お客さんが戻られたら困らはるでしょうな」

「ええそりゃあ……?」

「きっと、お宅さんに電話するでしょう」

「はい……?」

「そしたら、今から言う携帯に連絡ください。鍵をお返ししますし」

 うわわ。

 予想の斜め上。

 早口で携帯電話番号を言い電話を切ろうとする相手に、「なにかあったらご連絡したいですしお詫びにも行きたいですし申し訳ないですし」としつこく食い下がり、ようやく相手の名前と場所が聞けた。東山にある高級料理店のご主人だった。

 なんとまあ。

 テキトウな場所に鍵をさしたまま自転車を置いとくのもどうかと思うが(しかしうちの大らかなゲストたちを見ていると、さもありなん)、わざわざ鍵を抜くとは予想以上の手厚い(?)怒りかたである。前にも同様のことがあったのかもしれない。

 ともあれこちらの落ち度だ、ご迷惑かけて申し訳ない。急いでそのゲストたちの宿帳に記載された英国の携帯番号に電話をしてみると、運よくつながった。すぐになんのことか分かったようで、

「わー、ごめん! ちょっとだからいいかなと思って。いま注文したとこだから、食べ終わったらそっちに電話するね」

 恐縮しつつもご飯が先。

 やはりのんきなのであった。

 そして1時間後。指示されたとおりに電話をして現場でゲストに自転車の鍵を返してもらい、翌日私が菓子折り持参でお詫びに行き、この件は落着。店舗の思った以上の高級感にびびったが、対応に出てきてくださった女将さんの必要以上に見える愛想のよさにも若干びびった。

 お菓子、安かったかしら……。

 ちなみに本人たちはまったくびびっておらず、翌日もその翌日も自転車で朝から夜中まで走り回って京都を満喫していたのだった。

 たまたまそういうタイプの人だったのでは、と京都人からは言われそうだが、この出来事が東京で起きたなら、やられた側はブツクサいいながら自転車を駐車場の外に出し、盗られちゃっても知らん顔、だろう。必要以上に他人とは関わらないのが東京流だ。なんというか、鍵を抜く「ひと手間」に京都を感じたのだった。

 

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四季折々の美が楽しめる詩仙堂

 

観光客向けのサービス話法

 京都には観光客向けの「サービス話法」もある。

 秋の特別公開を目当てに、庭園が有名なとある寺院を訪れたときのこと。

 緑・黄・赤のみごとなグラデーションの紅葉に見とれていると、通りかかったご住職に声をかけられた。

「お参りご苦労さまです。どちらからですか?」

「京都に住んでいますが、東京から越してきました」

「それはまた東の田舎からようこそ都にいらっしゃいました」

 おお、これぞリップサービス。観光客がよくかまされる、分かりやすい「京都のいやみ」である。

「どうぞ」とポケットから出した飴を私に渡すと、ご住職はしばし庭の解説をしてくださり、ゆったりと歩み去った。その夜、「飴ちゃんもらったよ」と見せびらかしていると、知人が、

「ねえ、その飴ってもしかして’ぶぶ漬け’的なやつじゃ……」

 ひぃ。

 早く帰れ、ってことだったか。

 いや違うか。いやでも分からない。

 誠にもって油断ならない都歩き・都暮らしなのである。

 

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カラフルに色づいた大徳寺の黄梅院

 

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永観堂。ピーク時のライトアップはこの人出!

 

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西本願寺の銀杏も葉を落とし始めた。もうすぐ冬だ

 

*本文中の事実・人名などはプライバシー保護のため変更を加えています。


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

 

*本連載は毎月20日に配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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