風まかせのカヌー旅

風まかせのカヌー旅

#16

イフルック散歩

パラオ→ングルー→ウォレアイイフルック→エラトー→ラモトレック→サタワル→サイパン→グアム
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文と写真・林和代

 

 

 木漏れ日を浴びながら、ヤシ林の小径を二人の少女が歩いて行く。年の頃は14、15歳か。

 色鮮やかなラバラバを腰に巻き、上半身は裸。一人はサンダル履き、もう一人は裸足のままだ。

 時折、顔を寄せ合い、ひそひそとお喋りをしてはくすっと笑い合う。

 滑らかな小麦色の背中で、肩甲骨が不思議な生き物みたいにしなやかに動く。

 そんな、うっとり見とれてしまうような南国少女たちの案内で、私とエリーはイフルックの散歩に出た。

 

DSC06153
[Photo by Osamu Kousuge]

  

 

 写真を撮ろうとビーチに出ると、広大な天然のプールであるラグーンは、エメラルドグリーンに輝きながらピタッと静止。どこもかしこも、まったく動かない。まさに時間が止まっている。
 そのままじっと見ていたら、いつのまにか口が開いていた。

 

 島の先端まで行って引き返した私たちは、今度は村の中を歩き始めた。

 海沿いのカヌー小屋では、伝統的なふんどし姿の若者がカヌーを作っていた。

 何度もなんども手斧を打ち下ろし、少しずつ、少しずつ、舟体を削っていく。

 気が遠くなるほど時間がかかる作業だが、若者は真剣な眼差しで、飽きもせず手斧を振り下ろす。

 彼は動いているのだが、ゆっくりとした同じ動きの繰り返しのせいか、やはりじっと見ていると、私の口は半開きになってしまう。

 

 

IMGP0929カヌー大工の棟梁があらかじめ引いた赤えんぴつの線に沿って削っていく。いわゆる設計図はない。棟梁の頭の中にだけ存在する「設計図」をもとに、棟梁が線を引くそうだ。

 

 しばらく進むと、大きな木のたもとで、少女たちがてんでに座り込み、ヤシの葉でバスケットを編んでいた。ここは学校で「伝統文化」という科目の時間だそうだ。

 ヤシの葉バスケットは、その辺にいくらでもあるヤシの葉をちょいと手折り、10分ほど編むと完成する。これに、ハンカチや、ヤシの実の外皮の繊維を依ったロープを持ち手として括り付けると、かなり丈夫なカゴになる。女たちはこれで、たくさんのタロイモを畑から自宅まで運んでくる。

 しかも、使い終わったらぽいっとその辺に捨ててしまえば良い。だって葉っぱだから。

 究極のエコバッグである。

 島のお母さんたちは簡単に編んでしまうが、実はこれ、なかなか難しい。私も見よう見まねで何度か挑戦してみたが、さっぱり仕組みがわからなかった。じっくり取り組まないと習得できない技なのだ。

 だからこうして、学校できちんと習い練習するのだろう。

 通りがかった学校の先生が、校舎の中へと案内してくれた。

 コンクリートの建物の中では、少年たちが割り箸のようなサイズの木で、カヌー小屋の模型を作成中。

 男子のテリトリーであるカヌーやカヌー小屋の作り方を学ぶのは、男子の必須科目なのだ。

 隣の部屋では、女子がラバラバを織っていた。

 ラバラバは、初潮を迎えた女の子が日常的にはく巻きスカートだが、一方これは財産でもあり、揉め事があった時の慰謝料や、物をもらった時の謝礼として支払われる。さらには、葬式や伝統的な儀式の時にも必ず登場する。

 これが織れないと一人前の女性として見なされない、というほどの女子の必須アイテムである。

 とはいえ、これもかなり難しい。私もほんの少し織り機に座ってやって見たことがあるが、複雑この上なく、ちょっと見物していただけではさっぱり理解できぬ。その上、持ち上げる棒(?)は想像以上に重いので腕がふるふると震え、相当腰にもくる。

 見た目よりはるかに重労働なのだ。

 他にもパンダナスの葉を乾燥させて編むマットレスやビーズ細工、そして航海術も科目にある。

「伝統文化」と言っても、ここでやっていることは離島の暮らしに欠かせぬことばかり。
 若人たちよ、是非とも踏ん張って習得していただきたい。

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写真4-5

 

 学校をお暇して少し歩くと、ラグーンにぽっかり浮かぶカヌー、我がマイスが見えた。

 エメラルドグリーンのラグーンにレモンイエローがくっきりと映って可愛らしい。

「カッツ、泳がない?」

 突然、瞳をキラキラさせながらエリーが言った。

 相当歩いて疲れたし、どうしようかなあ、と愚図っていると、ちょうどマイスにいたミヤーノが手招きするのが見えた。

 マイスに行くには30メートルほど泳がねばならぬ。

 いっちょ、泳ぐか。

 そう腹を決めた私たちは、ガイド役の少女たちに別れを告げて服のまま泳ぎだした。

 マイスに近づくと、ちょうどミヤーノがフィンと水中メガネとスノーケルの3点セットをどこかから引っ張り出したところだった。

 わお!

 水泳はそれほど好きではないが、素潜りは私の大好物だ。

 さっそく3点セットを装着した私は、勇んで泳ぎだした。

 こんなに岸に近いのに、あたりはサンゴだらけ。しかも、想像以上に元気なサンゴ(死んでないもの)が沢山いるではないか。

 私は大きく息を吸うと、大きなサンゴの塊の根元を目指してぐいっと潜ってみた。そしてそっと根元の穴ぐらを覗き込むと、キンメモドキという小魚の小さな群れが佇んでいた。

 その奥では、アカマツカサという体調15センチほどの赤い魚が大きな黒目で私をじっとみている。 

 どちらも南の海にはよくいる魚で珍しいわけじゃないが、素潜り自体が久しぶりだったせいか、俄然興奮してきた私は、キンメモドキの群れに頭を突っ込み、アカマツカサを追い回した。

 その後も私はなんども素潜りを繰り返した。潜るときの水が肌を撫でる感触が好きだったことを思い出し、それを夢中で味わっていたのだ。

 そして、ちょっと深場にアジを発見、追いかけようとしたその時、ぴきっ!

 右足がつった。慌ててフィンごとぐっと折り曲げていると、今度は左足もぴきっ!

 万事休す。

 あっぷあっぷしながらマイスに戻ると、ミヤーノが半笑いで手当てしてくれた。

 

 そろそろ帰ろうと岸に戻ると、突然蚊の大群に襲われた。
 ウォレアイ同様、イフルックも夕方になると、ありえないほどの蚊が発生するのだ。

 慌ててステイ先に戻り、水浴びを済ませると、体が恐ろしく疲れていることに気がついた。

 少女たちの案内を受けて母屋に入ると、そこには4、5人が一度に入れるほど巨大な蚊帳が吊られていた。私は勧められるまま蚊帳にもぐり込み、タオルケットが敷かれた上に寝転んで目を閉じた。

 なんとも懐かしい安心感。蚊帳に守られウトウトし始めたその時、この世のものとは思えぬ心地よい感触が私の足をそっと撫でた。

 重たい瞼をなんとか持ち上げてみると、あの麗しき二人の少女が私の足元に座り、蚊除けのローションを私の足に塗ってくれているではないか!

 まさかの姫扱い。あまりの申し訳なさに慌てて起き上がろうとしたが、彼女たちは天使のように微笑んで私を寝かせ、そのまま私の足と手にローションを塗り続けてくれた。

 その温かく柔らかい手の感触はあまりに心地よく、私はふわふわした気分のまま、幸福な眠りについた。

 

写真6

 


*離島情報コラム フィーマ

 アメリカに、Federal Emergency Management Agency、略称:FEMA(フィーマ)と呼ばれる組織がある。災害が起きた時に対応する機関だ。

 ミクロネシア連邦はアメリカ傘下のため、離島も頻繁にフィーマの援助を受けている。

 例えば台風被害でヤシの実やパンの実、タロイモなどがやられた時、フィーマが米などを支給してくれる。

 また近年、海面上昇によってタロイモ畑に塩が入り込み、タロイモが腐る現象がおこっているが、その被害が大きい時も、フィーマによって援助物資がもたらされる。

 今回本文で記した蚊除けローションも、このところ離島で蚊が大発生していることを受け、フィーマが支給したという。

 ちなみにこのあたりでは、マラリア、デング熱などが多いと聞く。

 


 

イフルック環礁データ


*本連載は月2回(第1週&第3週火曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

*第12回『Festival of pacific arts』公式HPはこちら→https://festpac.visitguam.com/


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林和代(はやし かずよ)

1963年、東京生まれ。ライター。アジアと太平洋の南の島を主なテリトリーとして執筆。この10年は、ミクロネシアの伝統航海カヌーを追いかけている。著書に『1日1000円で遊べる南の島』(双葉社)。

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