日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#16

『我那覇焼肉店』で天使のはらわたに悶絶する

文・藤井誠二

 

我那覇畜産の黒い豚と白い豚 

 白い豚と黒い豚が入り口で出迎えてくれる。両方とも当店を手がけている、沖縄のいわば豚肉の一大コンツェルンともいうべき、豚の畜産から、卸し、販売、料理店、そしてアグー牧場なる「動物園」まで幅広く展開する『我那覇畜産』グループが、丹精込めて育てているのがじつはこの黒い豚と白い豚なのである。

 黒いのが、「島黒(しまくるー)」と「やんばる島豚」、白いほうが「琉美豚」(りゅうびとん)だ。前者は原産種アグーがベースになっていて、後者はランドレースと大ヨークシャーの雌がベースになっている。詳しくは、我那覇畜産のWEBサイト→http://www.shimakuru.jp/mein.htmlを見てほしい。

 我那覇畜産が沖縄の豚食についていかに重要なポジションを担っているかは、シリーズ前連載「沖縄ホルモン迷走紀行」第3回を参照してほしい。那覇・久茂地の『我那覇焼肉店』で肉を食すときは、まず、この二頭の豚の頭をなぜて、動物の命をいだだくことに感謝をしてからにすべし。

 私が初めて我那覇焼肉店に入ったのは、お店のオープンは2010年2月だから、その数カ月あとのことである。沖縄で暮らしている食いしん坊の友人たちの間で話題になっていて、すでに人気店になりつつあった。最近まで、豚ホルモンはすべて298円でその種類も目を見張るものがあった。数えたら、21種類もあったのである。

 現在(2016年9月取材時点)は、メニューと料金体系が変わり、298円・398円498円の三ランクがある。 円安等の原因により飼料価格の高騰が原因で、そのように変更したのだという。

 店の表記どおりに列挙していくと、はつ、ひも(小腸)、ればー、しろ(大腸)、どーなつ(のど元)、はくもと(大動脈)、まめ(腎臓)、がつ(胃袋)、ちれ、(脾臓)、こぶくろ(子宮)。これらがすべて298円。

 たん(舌)、はらみ(横隔膜)、しろころ(丸腸)、しきん(食道)、のどぶえ(声帯)、こめかみ(頬肉)、ナンコツ(気管)、カシラ(頭肉)、てっぽう(直腸)、てーる(尾尻)、がつ芯、あみはつ、あみれば、あみちれ。これらが全部398円。「あみれば」と「あみチレ」は内臓を被う網脂という網でレバーとチレを巻いて、味に深みが出る。

 ぶれんず、てびち、とんとろ、ういんなー、豚かるび、豚ろーす、おっぱい、自家製ベーコン。こちらは498円となっている。

 現在はホルモン以外の部位もラインナップに組み込まれているが、この部位の多様さは今でも沖縄随一だろう。

 

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値段の安さとメニューの多様さに驚く

 

 ぼくは当時、『漫画アクション』(双葉社)という漫画雑誌で、ホルモンの食べ歩きコラムを持っていて、この店も取り上げた。きっかけは、沖縄は豚肉王国と呼ばれ、鳴き声以外は全部食べるというのがある種のキャッチフレーズになっているのに、ステーキや皮つき三枚肉の煮つけ(ラフテー)、ソーキの煮つけ、テビチの煮物等は普通に見かけるのに、その他の臓物類をほとんどお目にかかれない。看板に偽りありじゃないのかなと思っていたので、この店との出会いはどこか安心感を覚えたものである。

 沖縄に来るとこの店には通うようになったが、最初の頃は、腸類は中身汁の具にそのまま使えそうな、脂をそぎ落とし、完全にボイルをした状態のものが供された。それが少々ぼくには不満だった。

  また、沖縄では「中身」で使う腸以外の大半の内臓は、処理した食肉センターから県外に出してしまったり、化粧品や樹脂の原料をつくる業者に出していると聞いた。食肉業者の知り合いに聞いても、やはり同じ答えで、沖縄ではシロ(大腸)、ヒモ(小腸)、テッポウ(直腸)だけを使って他の部位は食肉工場の段階ではねられてしまうと言っていた。だから、当店で腸や胃袋以外にも、ブレンズ(脳味噌)やチレ(脾臓)やハツ(心臓)などがあったことにぼくはいたく感動したのだ。

  つきだしは、さっぱりとした味の山原豚のガーリックソーセージとソーセージが二本(一人前)出てくる。これをコースター式のガスコンロで焦げ目をつけて食べると、プリッと音がして強い肉の旨みが口いっぱいに広がり、ビールが何杯でも飲めてしまう。このソーセージはつきだしレベルを越えた逸品だ。もちろん単品で注文することができる。当店は、何時までに入店するとビール(発泡酒)が100円とか、入店一時間以内はハイボール等が199円とか、いろいろなイベントみたいなサービスもあり、ソーセージをがしがし食いながら、バーベキュー気分を味わったりもできるのである。

 豚のぶれんず(脳)はアルミホイルに包まれて出てきて、数分間、鉄板の上に置く。アルミホイルの中で胡麻油が熱せられると、豚の脳味噌がタラの白子のような味と食感になる。脳味噌は仕入れの数が限られているそうだが、たいてい売れ切れるという。ウチナーンチュの女子グループが脳味噌をつついている光景をたまに見かけると、ちょっとした感動を覚えたものである。

 

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ソーセージとぶれんず(脳)

 

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ソーセージだけでもビールが何杯も飲めてしまう

 

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嬉しそうに、ぶれんず(脳)を頂く仲村清司さん

 

 ところで、『我那覇焼肉店』のテッポウは、いまはかるくボイルした脂をたっぷりつけたものを供しているが、「漫画アクション」で取材した時は中身汁用の、きれいに脂を落とし、きっちりとボイルした腸を出していた、と先ほど書いた。それを焼肉用のコンロで焼いても脂の旨みがなく残念に思えた。直腸は柔らかく下ごしらえをしつつも、脂を落とすと独特の「旨臭み」が逃げてしまう。そういうことをコラムで遠回しに書いたら、テッポウに脂がついているようになった。その記事(5回も書いた)は店のトイレにいまも貼ってもらっているから、ぼくのおせっかいが届いたのかなあ。

 

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テッポウは脂の旨みが格別

 

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ちれ

 

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のどぶえ

 

 我那覇畜産では麦を主体に泡盛粕や糖蜜、与那国産の化石サンゴ等を配合した餌を与え、山原の自然の中でじっくり時間をかけて育てられている。夏場は6カ月、冬場は7カ月の豚を使う。体重は120~130キロ。それぐらいの月齢のほうが脂もおいしくなるとか。夏と冬で期間が違うのは成長のスピードに差があるという。

 純血アグーは普通の豚より小型で、大人の豚で200~300キロなのに、アグーは110~120キロぐらい。小さいのに通常の倍ぐらいの成長期間を要するそうだ。豚をかけあわせるのは養豚に適したように成長が早い種をつくるためだ。もらろん肉質も良くなければならない。けれど、アグーはその基準に比較すると、成長が遅い品種ということになる。

 通常、経済動物である豚は無菌状態のところに閉じ込められて飼料を与えられ、5カ月で自動的に出荷されていく。温度や衛生面などを徹底管理した「工場」でつくられる大量生産される「工業製品」のように。

 我那覇焼肉店では、アグーの精肉ももちろん食べられる。「あぐーのしゃぶしゃぶ」は同グループで専門店もあるが、ここでも味わうことができる。ロース、バラ、モモ肉がセットのしゃぶしゃぶセットは安価で満足感が高い。

 また、「あぐー一頭盛り」という、やんばる島豚のバラ、肩ロースなどをがっつり食えるメニューもある。あぐーの特上テンダーロインやロース、カルビも安価で、あぐーの旨みを堪能できる。やんばる豚の精肉ももちろん揃っている。

 

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やんばる島豚・あぐーの焼肉メニューなども多数

 

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あぐーの煮込みもとろける旨さ

 

 それから、県産和牛の精肉やホルモンも充実している。中でも、さいきんメニューに加わった「マルチョウ一本焼き」はかなりイケる。

 一本焼きで有名なのは有名人御用達の東京・四谷の「焼肉 名門」で、「スーパーホルモン」という1メートルもあるマルチョウを、主のヤッキー中村さんが口上付きで焼いてくれたりするパフォーマンンスが知られている。

 我那覇の「一本焼き」もその半分以上はあり、迫力は負けてはいない。もちろん焼けば縮むけれど。コンロの上に置き、ちょっと膨らんできたらすぐにハサミでカットしないと破裂するので、「焼き手」の責任は大きい。時間勝負だ。裏返しにされた腸に閉じ込められた脂が炎をまとえば、いやおうなくテンションも上がるというものである。

 

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和牛ホルモン、マルチョウ一本焼き。果たして、巧く焼けるのか

 

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コンロの上に置いて、ちょっと膨らんできたら……

 

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すぐにハサミでカット

 

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ファイヤー! テンション上がる!!

 

 何皿頼んだだろう。アルミ製の小振りな皿にホルモンが盛られてくると、それを一気に網の上に広げる。部位によって食べ時の頃合いがあるので、それを見計らって、全員が一斉に箸をのばす。焼き手はだいたいぼくがやることが多いので、ときにはぼくがトングで全員の取り皿に運ぶ。口に放り込んだ瞬間、皆の顔がほころぶ。

 うまいホルモンを食べて、相好を崩す。沖縄の夜の至福の一時だ。

 

*豚ホルモン「我那覇焼肉店」 那覇市久茂地2-11-16花ビル2F TEL:098-861-2990

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『爆笑鼎談 沖縄ホルモン迷走紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

*三人の共著による、新刊『沖縄オトナの社会見学 R18』(亜紀書房)が好評発売中です。ぜひ、そちらもお読みください。詳細はこちら→http://www.akishobo.com/book/detail.html?id=764

 

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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