京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#15

LUCK-YOU歳時記

文・山田静

 

 気がつけば開業から1年が経っていた。

 ……いや、昨年6月開業なんで1年半くらい経ってるんですけれども、いやそのですね、宿はおかげさまで忙しいわ編集ライター仕事も忙しいわその合間に台湾や中央アジアを旅したりしててですね……。

 誰に向かって言い訳してるのかよく分からないが、ともあれ本連載、久々の再開である。よろしくお願いいたします。

 

 さて、世の中のことの多くはやってみないと分からない。当館の場合むしろそんなことばっかりだ(それもどうかと思うが)。

 中のひとつが、「シーズナリティ」=季節による市場変動、つまり「1年のうち客が多いのはいつか」である。楽遊のようなちびっちゃい宿だとそうでもないが、大型ホテルはこれにあわせて客室単価を調整したり、ピークの時期はいったん売り止めるなど戦略的に動くことが利益を大きく左右する。

 ではいつが京都のピークなのか?

 ・桜

 ・紅葉

 ・ゴールデンウィーク

 ・お盆

 ・年末年始

 ・お祭りの時期

 日本人的にはこれじゃないですか。 

 確かにそうなんである。

 そうなんだけれども、世界の人はもっといろんなタイミングでお休みをとっている、というのは開業してから実感した。ここでちょっと、楽遊の管理人室から見た1年の動きをご紹介してみたい。

 

 

【1月~2月】お正月

 てっきりカウントダウンで大盛り上がりかと思った大晦日だったが、いざ当日になってみると、夜半すぎても人っ子ひとりいない。

 考えてみりゃそうである。なんのために京都で年越しかというと、除夜の鐘に初詣だ。宿直に入った私は、ゲスト用夜食に用意していた年越し蕎麦のカップ麵をひとりすすりながら、「ゆく年くる年」を眺めつつ、開業初めての新年を迎えたのだった。

 冬休み&初詣の季節が終わるころ、春節がやってきた。

 この時期のことは本連載12回で書いたが、とにかく漢字圏(と、ベトナム圏)の人たち、およびその地域で暮らす外国人が全世界からやってくる。元気いっぱい、好奇心旺盛だが意外と日本のことを知らない中国人はなにかと質問攻めにしてきて面白いし、日本人より京都の最新情報に詳しかったりする台湾人は、朝から晩まで観光に忙しそうで、いま注目のスポットや美味しいお店なんかを教えてくれて勉強になる(おい)。

 びっくりしたのは珍しく京都に雪が積もった日のこと。3時ごろ宿を出て金閣寺に向かったアメリカ人ゲストが「着いたらもう閉門だった」と嘆きながら帰ってきた。雪の金閣寺をひと目観ようと詰めかけた観光客で周辺は大渋滞、路線バスは大幅遅延だったらしい。みんな考えることは同じなんである。

 ちなみにその翌日の朝、彼がリベンジとして金閣寺を再訪したら拍子抜けするほど人がいなかったとか。

 

1-IMG_2810

2-IMG_2825

当館の手作りすぎるクリスマスミニツリーと年越し蕎麦。どん兵衛はゲストよりむしろ夜勤スタッフに好評だったかも

 

 

【3月~4月】桜

 瞬殺で予約が埋まるのが桜と紅葉の季節。特に桜の季節は春休みの国も多く、家族連れも増える。

 この時期に限らないが、外国人の予約は早い。1年近く前から1週間ぶんくらい部屋を押さえ、開花予想を観ながらキャンセル料がかかるぎりぎりのタイミングで日にちを変更してくるツワモノもいる。キャンセルが入ってもすぐに埋まるので、パソコンの予約管理画面を見ていると目まぐるしくてくらくらしてくる。

 宿泊施設へのクレームが増えるのもこの季節。当館もいくつか手厳しい評価をいただき頭を抱えたが、自分が旅行者だったら言いたくもなるよな、とは思う。

 宿の価格はオフシーズンの倍近くまで跳ね上がり、どこに行っても人でいっぱい、観光地ではバスに乗るのも行列覚悟、タクシーもなかなか来ない。レストランも有名どころは予約すら困難になる。

 宿代が高い上に空室も少ないので結果的にいつもより短期滞在の人が多くなり、観光を詰め込むために早朝出発・深夜チェックインなど動きは慌ただしくなる。宿からすると忘れ物処理やレストラン予約、宅配便、荷物預かりなど雑務もぐんと増えて事故やミスも起こりやすい。移動にも疲れるこんな時期に旅していたら、誰かのちょっとのミスにも腹が立つだろう。こちらの不慣れや不手際で迷惑かけたゲストたちには申し訳ないなあといまも反省しきりだ。

「大変ですなあ」

「ええまったく」

「あと少しで散ります」

「散るまでがんばりましょう」

 料理店、タクシードライバー、観光ガイド。観光系の仕事に就く人たちと顔を合わせるたびに、なにやら同志的な連帯感を感じる時期でもあるのだった。

 

3-IMG_3023

4-IMG_4155

5-IMG_4516

梅、桜、紫陽花と季節の花が次々と街を彩る。花が多い街だな、と京都に暮らして改めて思った

 

 

【4月~5月】ゴールデンウィーク

 ゴールデンウィークの先触れとなるのは4月半ばにやってくる東南アジアのゲストたち。水かけ祭りとしても知られる、タイやミャンマーのお正月がこの時期で、東南アジアからのゲストが増える。桜のピークを息を切らせて乗り越えたあと、のんびりした響きのタイ語が館内に響いていると、ちょっとほっこりするのだった。

 ほっこりの1週間後にはゴールデンウィーク突入だ。日本人はもちろん、中国・香港・韓国も祝日で、館内は再び慌ただしい空気に包まれる。

 気の毒なのは何も知らずこのタイミングでやってくる欧米人たちで、

「……桜が終わったからすいてると思ったのに……」

 新幹線に乗るのもひと苦労だった、とぐったりとロビーでのびている彼らを励ますのも仕事の一部である。

 

 

【6月】夏至

 梅雨の6月はオフシーズン。

 なんとなくそう思うじゃないですか。

 ところが、6月半ばぐらいからじゃんじゃんとヨーロッパ人がやってくる。それも北欧の人が多い。

 なんだなんだ? バカンスには早くない?

「夏至祭の前からバカンスが始まるんだよ」

 教えてくれたのはスウエーデンのゲスト。夏至にいちばん近い土曜日に行われるのが夏至祭で、北ヨーロッパではそこから8月か9月半ばまでがバカンスシーズンになるらしい。そのゲストの会社では、シーズンを前半と後半に分けて、社員は前半か後半どちらかに1カ月ちょい休むことになってるそうな。

「僕が勤めてるのはドイツの会社なんだけど、スウエーデンや北欧のスタッフは前半、ドイツ人は後半に休むことが多いかな。いま僕の会社、ドイツ人ばっかりだよ」

 なるほどそういうことなのか。

 ヨーロッパ人を中心に満室が続いているのを見て悔しがったのは予約担当者である。オフシーズンのはずだったので、部屋単価をぐっと下げてあるのだ。当館だけでなく、恐らくどこの宿も同じだろう。

 北欧人、お得な日本旅を満喫しているのである。

 

6-IMG_4349

開業1年も経つと町家の扱いにスタッフも慣れてきた。格子を外して窓拭きの作業。

 

 

【7月・8月】夏休み

 7月半ばに京都に来る人は祇園祭目当て。

 と、思っていたらこれも違った。

「道に人が多いし音楽もやってるけど、あれなに?」

 7月に入ってから外国人ゲストによく聞かれた。

「京都で最大のお祭り、祇園祭です。週末はパレードがありますよ。音楽はその練習です」

「へえー!!だから部屋代が高くなってたんだ。僕ら、そのせいで週末は京都を出て熊野に行くんだよ」

 話はそれで終わり。京都のお祭り、知ってるようで案外知られていないんである。

 というわけで祇園祭の時期を除いて、夏休みの間はヨーロッパ勢が途切れることなくやってくる。面白いのは日が経つにつれて、だんだんとお国が南下していくような感じがしたことだ。6月の北欧からはじまってドイツ、オランダ、ベルギー、イギリス、スイス、そして8月後半ともなるとスペイン、イタリア勢が増える。バカンスの時期が南下していくのだろうか。

 スタッフにとっては暑い夏は掃除がいちばんしんどい季節。だが家族連れが多いこの季節は、各国の子どもたちのかわいい笑顔に会うのも楽しみのひとつだ。

 

7-IMG_4607

8-IMG_4901

 

 

【9月】

 そして9月。まだまだバカンスは続き、シルバーウィークまではヨーロッパ勢が多い。だが雰囲気はがらりと変わる。

 とにかく滞在が長い。

 3日、4日は当たり前、1週間や10日間滞在するゲストも出てくる。バカンスも終盤に近づいているためか、観光に精を出すよりも、ロビーでのんびり過ごす人も多い。われわれも真夏の慌ただしさから開放されてのんびり接客するせいか、1週間もいるとちょっとした家族みたいな感じになる。チェックアウトの日、見送るときはいつもよりしんみりしてしまうのだった。

 

9-IMG_5061

 

 

【9月半ば~10月】

 シルバーウィークから10月上旬にかけては再びアジアン・ウィークである。日本、中国、台湾、韓国でそれぞれ大型連休の季節。紅葉のシーズン前、まだ宿代が高くなりきっていないこの季節を狙って京都を訪れる海外の旅行者も多い。

(具体的に説明したいのだが実はこの時期筆者も1カ月旅に出ているので知らないのであった……)

 

 

【11月、12月】

 紅葉の季節は、桜の季節と似ている。というかいままさにそうなのだが、毎日、忙しくて目が回りそうである(涙)。

 ただ、桜の季節もそうだが、この季節は文化財の特別公開や神社仏閣の夜間ライトアップなど、見どころも倍増。夜の娯楽が少ない、としばしば批判される日本の観光地だが、京都のこの季節だけは別。庭園や建造物をどう見せるのが効果的か知り尽くしたライトアップは、目にするとやはり感動してしまう。「お寺さんは昼も夜もで、ええ商売やねえ」などと一般市民にうっすら陰口をたたかれているのもまた京都らしさだ(たぶん)。

 そして紅葉が散る12月中旬、当館は再び長逗留組が増えてくる。ゆったりとした空気のなか、年末の支度に入るのだ。

 

10-IMG_6849

11-IMG_6819

市内での本格的な紅葉は11月半ばすぎから。写真は11月上旬、木々が色づき始めた東福寺と、ライトアップされた知恩院

 

 と、まあ、こんな風に1年が巡り、各国のお休み事情にあわせてゲストの顔ぶれは動いていくのだが(あくまで私が見た感じの話なのでご了解を)、この流れとは全然関係なくいつでも来ている人たちがいる。

 フランス人だ。

 しかも長逗留が多い。バカンス時期でもないのに何日も滞在していたりする。

「なんでフランス人はこんなに旅できるのですか?」

 一度フランス人ゲストに聞いたことがある。       

 教師をしているという彼女はふふっ、と笑い、

「職場だけじゃなく、学校の休みもあるのよ」

 会社のバカンス休暇は当然として、学校には夏休み・春休みのほかに10月や12月に休みがあり、それにあわせて親が休暇をとることもあるという。彼女は、学校の休みについでに自分も旅に出てきたという。

「ま、私たちフランス人は休みたいときに休むのよ」

 はー、かっこよすぎる……。

 賞賛のまなざしで見つめる私に、

「まあ、だから経済がイマイチってのもあるんだけど」

 いたずらっぽい笑顔で返してきた。

 決めた。生まれ変わるならフランスにしよう。

 

 

*本文中の事実・人名などはプライバシー保護のため変更を加えています。

 


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は月1回(第3水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

kyoto_profile_P1020563

山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

ISBN978-4-575-30372-8

決定版 女ひとり旅読本

ISBN978-4-575-30585-2

女子バンコク

   

京都で町家旅館はじめました
バックナンバー

その他のCULTURE

ページトップへ戻る

ページトップへ戻る