アジアは今日も薄曇り

アジアは今日も薄曇り

#15

沖縄の離島、路線バスの旅〈5〉宮古島(3)

文と写真・下川裕治 

路線バスの運賃問題〈前編〉

 なんだかすっきりしない気分で、一応、宮古島の路線バスを乗り終えた。伊良部島の伊良部高校に寄る1区間が残っている。しかしその区間は、通学する高校生が乗ってくれないとバスは走らない。

 伊良部島の佐良浜の集落を歩き、伊良部高校に通う学生を探し出し、

「明日はなんとかバス通学してくれないだろうか」

 と頼み込むことも考えた。廃校が決まった伊良部高校の学生はいま、20人しかいない。バス通学に同意してくれる学生がいるかどうか。そもそも、そういうやりかたはルール違反だろう。

 宮古島の空港で那覇に向かう飛行機を待ちながら、もうひとつのわだかまりに悩んでいた。

 路線バスの運賃である。

 宮古島のバス路線は、始発バス停と終点バス停を単純往復するのではなく、途中からそのエリアを一周する路線になっていた。おそらく昔は、単純往復路線が多かったのかもしれないが、利用客が減り、一周路線が多くなってきた気がする。

 これが宮古島の路線バス制覇を面倒なものにしている一因でもあったのだが、乗りつぶすという発想で眺めると気楽でもあった。

 バスに乗り、どこで降りるということを考えずに、ただ乗っていれば、乗り込んだバス停に戻ってくるのだ。

 しかしこんな乗り方をする人はまずいない。宮古島のバス制覇などという酔狂な旗を揚げてしまった僕らしかいないはずだった。

 宮古島という離島に、バス好きという人種はいない気がする。そもそもバスの存在が限りなく薄い。

 あれは十数年前だったろうか。僕の一家は夏休みに宮古島にいた。毎年の恒例だった。その頃はレンタカーを借りることもしなかった。そもそも僕は運転免許をもっていないから、妻がその気になってくれないと、車には縁のない島滞在になる。

 ある日、うえのドイツ文化村に行くことになった。泊まっていた民宿に遊びに来ていた中学生と小学生の姉妹に訊くと、こんな答えが返ってきた。

「バス? 社会科見学で乗ったことがあるぅ」

 これはダメだと思った。どこからバスが発車するのか……などと訊くレベルではなかった。

 宮古島には鉄道がないから、鉄道オタクの少年はたぶんいない。となると飛行機かバスになるのだが、少年だったらバスだろうか。しかし宮古島の少年にとってバスは身近な存在ではなかった。

 おそらく宮古島のバスの運転手の間では、僕らは話題になっていたはずだ。始発からずっと乗っている本土から来た老人とカメラマン……。

 

平良港結節地点。与那覇嘉手刈線のバスがやってきた。このバス停は、どの路線バスも必ず停車する

 

 で、運賃なのだ。僕らが払った主だった路線の運賃を列挙してみる。

 (新里宮国線)空港ターミナル前→平良港結節地点 240円

 (与那覇嘉手刈線)平良港結節地点→平良 920円

 (新城吉野保良線)北給油所前→平良港結節地点 140円

 (友利線)平良港結節地点→平良 920円

 (池間一周線)平良→平良港結節地点 550円

(新里宮国線)東ツンマー→平良港結節地点290円

(長北山北線)平良→平良港結節地点 780円

(新城吉野保良線)平良港結節地点→平良 1000円

 運賃をチェックしながら、地図を眺めてほしい。それぞれの路線は途中で降りたりせず、ほぼ乗り続けていると思っていい。

 たしかに距離は違う。しかし、空港ターミナル前から宮国、新里とシラギビーチの方までぐるりとまわり、平良港結節地点まで戻ってくる新里宮国線が240円。やはり平良市内から友利までまわって戻ってくる友利線が920円というのは、どう考えてもおかしい気がする。距離はさして変わらないはずなのだ。

 

DSCN2541

平良港結節地点。宮古島のバスの事実上のターミナル

 

 宮古島のバスは宮古協栄バス、八千代バス、中央交通の3社が運行させている。八千代バスは池間島方面、中央交通はみやこ下地島空港の路線しかない。宮古島島内路線の多くは宮古協栄バスに乗ることになる。

 宮古協栄バスの運転席脇には、料金箱があった。しかしどのバスも、硬貨の投入口がガムテープでしっかりふさがれていた。

 おそらくしばらく前まで、宮古協栄バスは、本土のバスのようなシステムだった気がする。乗車時に整理券を受けとる。車内には走った距離によって運賃が表示される電光掲示板がある。それで運賃を確認し、整理券と一緒に料金箱に運賃を投入する。しかし宮古協栄バスにはそれがなくなっていた。

 

DSCN2545

栗間大橋をバスが渡る。この車窓風景を見ただけで宮古島にきてよかったと思う

 

宮古島地図

※地図はクリックすると別ウインドウで開きます

 

(次回に続きます)

 

 

●好評発売中!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』

発行:双葉社 定価:本体657円+税

 

東南アジア全鉄道2書影

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

アジアは今日も薄曇り
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー