旬の地魚を味わう全国漁港めぐり

旬の地魚を味わう全国漁港めぐり

#14

魚の楽園「門川町」で神秘の漁師体験

「本当に旨い魚を現地でいただく!」をテーマにお届けする「全国漁港めぐり」。
今回は宮崎県の北東部の日向灘沿岸に位置し、魚の街として知られる門川町から。
春の旬魚満載、「定置網漁体験」ドキュメントをお届けします。

 

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MIYAZAKI
――KADOGAWA
【宮崎県東臼杵郡門川町】
https://ja-jp.facebook.com/kankoukadogawa/

 

 

 

 

 

 古来より、日本人と海は切っても切れない深い繋がりがあります。

 生命の源でもあり、我々日本人に多くの恵みを与えてくれる海。島国である日本にとって、海は最も身近な自然とも言えます。

 一言で「海」といっても、場所や地域によって沿岸の港には様々な顔があります。漁港、貿易港、海水浴場、断崖絶壁、干拓、マリーナ、湾岸都市。日本列島の海は人の生活、国の施策によって様々な色を持っています。

 なかでも今回特集する海は人の生活と自然が絶妙にマッチし、さらに古代から脈々と受け継がれた神秘性を今も残している希少な場所です。

 

 そこは宮崎県の門川町にあります。

 

 門川町は古くから漁業の町として栄え、海にまつわる様々な不思議な伝承が残っています。そもそも宮崎県自体が、かの有名な『古事記』の発祥の地。何もないほうがおかしいのです。

 例えば、そのひとつが岬権現。この権現様は海上から全貌を臨むことができるのですが、陸から訪れることが困難な場所にあります。伝承によると昔、孫右衛門という人が釣りをしていると木箱が流れてきたので引き上げてみると中に金の仏像が入っており、その夜、夢に出てきた仏像のお告げにより、断崖の洞に社を作ったと言われています。

 同じように海に面した洞に作られた祠に「おみくらさん」があり、海上の安全を見守っています。

 

 

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岬権現。遠見山直下の海面の近くの洞に社が祭ってあり、海上からも陸上からも豊漁祈願に訪れる人がいるという。

 

おみくらさん
「おみくらさん」。遠見半島南西の「亀の首」とよばれる岬の突端に海蝕洞があり、かつて不作に苦しむ村人の為に、上人が五穀豊穣と海上の安全を祈祷し、そこに祠を建て虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)を祭った。

 

 

 また、門川町にはいくつかの隣接する島があるのですが、そもそもこの島自体が神秘的なのです。

 そのひとつが枇榔島(びろうじま)。カンムリウミスズメという非常に珍しい鳥が棲息しています。実は枇榔島は、カンムリウミスズメの世界一の繁殖地であり、約三千羽が棲息しています。

 ちなみにこのカンムリウミスズメは、なんとも愛らしい見てくれをしており、『カドッピー』という門川町のマスコットキャラクターにもなっています。また、枇榔島にはカラスバトというこれまたとても珍しい鳥が棲息しています。

 

ビロウ島
「批榔島(びろうじま)」は、釣りのメッカとして知られる。最も近い陸地まで3kmの距離があり、火山活動によってできた島は、柱状節理の切り立った断崖絶壁が特徴的。

 

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カンムリウミスズメの親子。批榔島を最大の繁殖地とするカンムリウミスズメは、昭和50年6月26日に国の天然記念物に指定され、平成17年10月1日に町の鳥に制定された。

 

 

 しかし、ここで悲しいお知らせがあります。

 

 近年では、釣り客の増加により、これらの野生動物が釣り糸に絡まって死亡するなどの事例も増えているのです。町の人々が枇榔島の美化と保護活動に務めていますが、マナー違反はその土地の生態系に深刻な被害を与えるので絶対にしてはなりません。

 特に神々に守られた門川町ではお天道様だけでなく、様々な神がそのような愚行を見ています。この世のものとは思えないほど悲惨なバチが当たりますので注意が必要です。

 

 もうひとつ、門川町を代表する島に「乙島」があります。女性が仰向けに寝ているようにも見える、なんともセクシーなこの島は東の海岸は磯で岩や石がゴロゴロしていますが、西側は砂浜になっており、南側はというと切り立った岩が高くそびえています。島には海水に削られて自然にできた洞穴が大小8つあり、大きいものだと深さが20メートルにも達し、島の上まで吹き抜けている穴からは潮風が吹き抜けています。この穴を地元の人々は「竜宮のぞき」と呼んでいるのですが、女性と同じくなんとも神秘的です。

 また乙島ではトレッキングを楽しむことができ、全長およそ3.2キロの遊歩道を散策しながら手つかずの自然を楽しむことができます(事前に島に渡るための船の予約が必要)。

 

 

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門川湾に浮かぶ乙島。周囲約4km、高さ80mの無人島で暖地性植物が群生しており、野生の動物だけが密かに棲んでいる。キャンプや島内探検、バードウォッチングと様々な体験もできます。

 

 

 様々な海の自然に恵まれた門川町ですが、人が作ったイベントも圧巻です。そのひとつが8月下旬に行われる「かどがわ納涼花火大会」です。海上から上がる数千発の花火は迫力満点。文字通り門川の漆黒の夜に色とりどりの火で彩られた美しい花々が咲き乱れます。

 

 海に生き、海とともに生活する門川町の人々。そんな門川の町民と海を通して触れ合える特別なイベントもあります。

 それが「漁師体験」です。

 この度、記者は勇猛果敢にも、この漁師体験に挑戦してきました。

 

 朝の5時、門川町庵川にある漁港に到着。辺りはまだ真っ暗です。

 出迎えてくれたのは家族で漁を営む濱田さん一家。ベテラン漁師のお父様とお母様、そして長男と次男の方が3時間に渡る「定置網漁」をナビゲートしてくれます。

出発の予定時間は6時。ドラム缶で焚き火をしながら出航の時を待ちます。すると焚き火の明かりに照らされて何かが高速で記者の前を横切るではありませんか。

 

「なんじゃらほい」

 

 すわ未確認生物か、それとも門川に棲む精霊か。

 しかも、こともあろうにその生物ときたら、静かにこちらに近寄ってくるのです。

 

「にゃぁ」

 

 生物の正体は、なんとも可愛らしい大猫でした。

 お父様にお伺いすると漁港に住み着いた猫とのこと。

 それにしても慣れてますなぁ。人を全く警戒する様子も見えません。

 しばらく猫をこねくり回していると、いよいよ出発の時間です。それまでのんびりと焚き火にあたっていた濱田さん一家が急に慌ただしく動き始めます。ひとつも無駄な動きがなく、息もぴったり。さすが家族です。しかも、明け方のこの出航シーンがなんともカッコイイ。このシーンだけでも動画で撮って何度も繰り返し見たくなります。

 

 さて、ついに漁船に乗り込むのですが、正直な話、ちょっとした恐怖を感じます。

 なぜなら、海面と自分がいる位置があまりにも近いのです。漁船なので当たり前といえば当たり前なのですが、漁と聞いて梅宮辰夫兄ぃが乗っているクルーザー的な船を想像していた記者は、その荒々しい船体に早くも及び腰。乗り込んでもビビって立つことができません。

 

 

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門川町庵川にある漁港で出航を待つ漁船。冬の早朝​5時、まだ真っ暗です。

 

 

 そんな記者を尻目に濱田さん一家はまるで軽業師のように船内を動き回っています。見ているこっちは今にも海に落ちるんじゃないかと気が気じゃありませんが、さすがプロの漁師さん。決して広いとはいえない船内で効率よく働いています。

 そうこうしているうちに、ちょっとしたGがかかって船が出発。

 

「おおおおっ! は、早い」

 

 意外にもパワフルなスピードに思わず船のヘリにしがみつきます。船といえばボートレースのペアボートにしか乗ったことがない記者ですが、これがスリリングでめちゃくちゃ楽しいのです。まだ朝モヤが立ち込める暗い海の沖に向かう冒険心も混じり、勝手に笑みがこぼれてきてしまいます。

 

「あれが乙島だよ」

 

 お父様に言われてふと横を見ると、なんとも美しい光景が。乙島と月が絶妙なコラボレーションで暗闇に浮かび上がっていたのです。これはたまりません。

 さらに船が進んでいくと、今度ははるか遠くに煌びやかな光が浮かんできます。いったいあれはなんの光かと目を凝らすと、向こう岸に見える日向の工場地帯の明かりでした。

 

 

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日向にある工場地帯の夜景(朝だけど)。

 

 

「すげぇ~」

 

 思わず声を上げてしまう記者。全国の「工場萌え」が見たら涎が出るほど興奮してしまう光景です。

 

 さて、そうこうしているうちに最初の定置網に到着。

 船をブイのそばにつけて網を引っ張ります。

 最初は機械で網を引き上げ、最後に人の手で引っ張りあげるのですが、これが思いのほか重い! 運動不足の記者は早くも腰が抜けそうです。

 

 

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定置網を引っぱるスタッフ。なかなかの重労働だが、これも漁師体験の醍醐味。


 

 

「ぐおおおおっ」

 

 珍妙な奇声を発しながら網をたぐる記者。ふと横を見ると、濵田さんのお母さんがまるで納豆の糸でもたぐるように軽々と網を引き寄せているではありませんか。

 

「そんなバカな」

 

 もはや匠の域。素人の記者から見ると、超人にしか見えません。

 そのうち、網の中でバチャバチャとしぶきが上がり始めます。

 

「おわっち。こりゃすごい」

 

 ついに大量の魚が現れました。それを次から次へとタモですくって大きなバケツに入れていきます。

 

 

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いよいよ網にかかった魚たちの姿が…。嬉しい瞬間。
 

 

「大漁じゃ、大漁じゃ。大漁旗はどこですかのぅ?」

 

 一人で興奮していた記者ですが、お父様が一言。

 

「今日は月夜だから少ねえな」

 

 ええっ! これで少ないんですか。そうなるといつもはどんなことになっているんでしょう。想像すらできません。

 お父様に聞くと、満月や月の明るい夜は魚の入りが少ないのだとか。これも自然の神秘です。

 

 定置網の魚をあらかた引き上げたあとは海に作った養殖場に向かいます。その頃には周囲がうっすらと明るくなり始め、なんともいえぬ美しい光景が輪郭を現します。今まで暗くて見えなかった海面も次第に見えてきます。

 

 養殖場に着くと、海の中のちょっとした池。どうやって魚をとるのかと不思議に思っていましたら、その池の細い囲いの細~い鉄製の棒に濵田家のお父様や息子さんたちがおもむろに飛び移るではありませんか。しかもお母様まで!

 

 

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養殖場の魚も活きが良く、生簀の中で元気に泳ぎ回る。
 

 絶句です。濵田家の人々は飄々とタモを使って魚をすくい上げていますが、素人には到底できない芸当です。これだけでも一見の価値ありです。

 

 

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細い棒の上をスイスイ歩く濵田さん。もはや達人の技。
 

 

 いくつかの養殖場を回り、漁を終えた船は岸に向かって動き始めました。すでに朝日が昇る寸前で辺りは幻想的な空間に包まれています。

 

 何もしていないのに一仕事をしたベテランの漁師を気取りながら岸に船を向かわせていると、お母様が小魚がいっぱい詰まった大きな木箱を船のお尻に運んできます。いつの間にこんな折詰を作っていたのでしょう。

 すると次の瞬間、とんでもない光景が目の前に繰り広げられました。

 

「ドシー! なんなんですか、これはっ!」

 

 あまりの凄まじい光景に腰が抜けそうです。

 なんと、海鳥の大群が船を追いかけてくるのです。

 

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「ヒーーーっ! 食われる!」

 

 海鳥の大群はまさに目と鼻の先。手が届きそうな距離です。

 するとどうでしょう。さらに目を疑いたくなるようなことが始まりました。

 お母様が海鳥に手渡しで小魚を与え始めているではありませんか!

 

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「アンビリーバブル!」

 

 まるで自由の女神のようなポーズで魚を与えるお母さん。なんとも神々しい姿です。あまりのありがたい光景に手を合わせて拝んでいると、お母様ったら、記者にもやれと小魚を進めます。

 上空からは海鳥たちが、この見慣れない珍客を見下すように見ています。

 

「ニャロ~。なめんなよ」

 

 口から出た言葉は威勢がいいですが、すっかり腰が引けている記者。手渡しで巨大な海鳥に魚を与えるなんて恐ろしくてできるはずもありません。

 ということで、節分のように上空に向かって小魚を巻くことに。

 

「そ~れ」

 

 その瞬間にものすごい数の海鳥が記者をめがけて突っ込んできます。

 

「ギャオス! お、お助けっ」

 

 情けない悲鳴をあげる記者ですが、海鳥たちはいたって冷静。争いながらも空中上がったお魚さんをパクッと空中でキャッチします。

 

 

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「な、なんと! ういやつ。ういやつ。もっと与えてたも」

 

 こうなると面白くて仕方がありません。完全に妖怪鳥使いになった記者は興奮して涎を垂らしながら海鳥と戯れる始末。あっというまに魚を入れた木箱は空になってしまいました。

 興奮して気がつきませんでしたが、岸に着いた時にはすっかり朝日が上がり、周囲は暖かい日差しに包まれています。

 振り向くと乙島から溢れる来光が美しいったらありません。

 

 

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乙島からのご来光。美しすぎる絶景に漁の疲れも吹き飛ぶ。

 

 

 岸に上がって魚を下ろし、最初にドラム缶で焚き火をしたところに戻ると、あまりにも可愛らしいお出迎えが。

 

 朝のニャンコです。海鳥同様、濵田さんに食べ物をもらったのか、ゴロゴロしながらすり寄ってきます。

 

「ういやつ。ういやつ」

 

 出かける時と同じように猫をこねくり回していると、濵田さんの息子さんが今朝獲ってきた魚を市場に持っていくというので、同行させていただくことに。

 

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 市場に入ると圧巻。他の漁師さんが獲ってきた魚も含め、ものすごい種類の魚が整列しています。いったい門川町の海には何種類の魚が棲息しているというのでしょう。まるで水族館です。

 

 

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 しばらくすると、にわかに市場が活気付いてきました。セリの始まりです。威勢のいい言葉が飛び交い次々と仲買人さんが魚を競り落としていきます。

 

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 濵田さん一家と獲ってきた魚もどんどん買われていきます。自分たちが獲ってきたものが目の前で取り引きされるなんて、感動以外のナニモノでもありません。こんな体験ができるのも、町民が温和で懐が広い門川ならではでしょう。絶対に体験することをオススメします。

 

門川漁体験

お問い合わせ:門川町観光協会

 

取材&文責:原田秀司

 

 

 

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