韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#14

新しい仁寺洞の歩き方

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進む明洞化。仁寺洞、今昔物語

 

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明洞化が進んだ仁寺洞の表通り

 

 長らく骨董品やギャラリーの街として知られてきた仁寺洞。朝鮮王朝時代、この辺りに住んでいた富裕層が、日本植民地時代に生活に困って処分した家屋が料亭としてその姿をとどめていたり、彼らが売り払った家財道具を骨董品として売る店が集まっていたりした。その風流な雰囲気がそのまま残り、伝統美術、やがては現代美術の発表の場となるギャラリーが増え、芸術家たちが個展を開いた後に打ち上げをする場所として、伝統茶店や民俗酒場が次々にでき、ソウルで唯一、昔の韓国らしさを偲ばせる街として残った街だ。

 どちらかというと少々かび臭い街、よく言えば大人っぽい街、セピア色の街だったのだが、2002年のワールドカップ前後から、いつ行っても道路工事や建設工事が行われているという状況で、雰囲気がずいぶん変わってしまった。

 表通り(仁寺洞ギル)は2000年頃までは木造の戸建ての建物がほとんどで、ビルと言えば5階建ての工芸品店くらいだったが、最近は無機質なデザインのビルが目立っている。ワールドカップの少し前にはスターバックスも出店。英語表記の看板を拒否し、ハングル表記のスターバックスの看板を掲げさせたのは、昔ながらの仁寺洞を守ろうとする人たちのささやかな抵抗だったが、今では表通りは洋風のカフェやのコスメ専門店ばかりが目立ち、土日ともなるとカップル、家族連れ、特に子どもの姿が目立つようになった。つまり、明洞(ミョンドン)化が進んだのだ。

 安国駅方向から表通りを150メートルほど歩いて左側にあった書画店『東西』から『スド薬局』の手前までに連なっていたキワチプ(瓦屋根の家)の一角が完全に撤去され、新たに『サムジキル』という4階建ての大型ショッピングモールが建ってしまった。

 

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仁寺洞の雰囲気を変えた『サムジキル』。緑を配して周囲に溶け込もうという努力も。『VOLGA』はこの左の脇道を入ったところ

 

 最近は韓服をレンタルして時代劇の主人公のように歩く若者も目立つ。私の若いころは韓服なんて古臭いとしか思わなかったのだが、時代は変わったのだ。

 仁寺洞にある店をひとつひとつよく見れば、昔からあった古い建物に少しだけ手を加えた、渋味のある個性的な店はあるのだが、この十数年で目立って増えているのが木材をぜいたくに使って“古風”を演出している大型の伝統茶店や民俗酒場。「仁寺洞でこういう店を出すと客が来る」という発想が見え見えで、どうしてもチェーンのファミレスを連想してしまう。

路地裏散歩

 それでも、表通りから南北に無数にのびる路地を歩けば、雰囲気のある店に出合える。たまには仁寺洞付近に宿を取って、路地裏散歩を楽しんでみてはどうだろう。

 この街には電話予約して決まった時間に店に入るような所作は似合わない。日が暮れる頃に路地をほっつき歩き、建物の中から漏れてくる光りが手招きしているような店があったら、ふらりと入るのがいい。

 おすすめの宿は、私の事務所の日本人スタッフがよく利用する『世林ホテル』。3階建ての小さなビルは安価な宿にありがちなラブホテルっぽさがない。部屋はこぢんまりしているが清潔。Wi-Fiも完備。夜眠って、午前中に手持ちのノートPCで仕事をするだけと割り切れば、平日1泊5万ウォン(約4700円)はリーズナブル。内装はけっして洗練されているとは言えないが、随所に80年代風のぬくもりが感じられ、その時代の韓国映画の主人公になったような気分になれる。安国駅6番出口方向から表通りを南下し、左手に『首都薬局(スドヤッグク)』を見ながら通り過ぎたところの最初の路地を右折すると左手。5号線鍾路3街駅5番出口も徒歩5分圏内。

 

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『世林(セリム)ホテル』の部屋。PC、大型テレビ、エアコン完備。ハンディタオル2枚、バスタオル1枚、ミネラルウォーター2本付

 

 近くでお茶を飲むなら、伝統喫茶『チデパン』。表通りにあるが、90年代前半にはすでに営業していたので、仁寺洞では古株。最近の伝統喫茶にありがちな演出された古さではなく、一定の積年が感じられる内装には落ち着がある。安国駅側から南下し、『サムジキル』(大型商業ビル)を過ぎてしばらく行った右手の2階。

酒場めぐり。昼から深夜まで

 近くのバッティングセンターから響く「カキーン!」の音をBGMに昼酒を楽しむなら通称「ワサドゥン(ガス灯)」へ。席に着くと、何も言わなくてもホッケの塩焼きとマッコリが運ばれてくる。店の様子は変わったけれど、女将が健在でなにより。この店、話題のホン・サンス監督の映画『オー!スジョン』(邦題:秘花スジョンの愛)で2000年当時の姿を、2011年の『次の朝は他人』で最近の姿を見ることができる。タプコル公園方向から表通りを北上し、左手にセブンイレブンを見ながら通り過ぎ、最初の路地を左折して道なりに行くと左手に見えてくる。

 

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仁寺洞の路地裏酒場『ワサドゥン』のマッコリ

 

 夜はまさに路地裏酒場という言葉がぴったりの『チャンジャエナビ』へ。お酒にこだわるご主人が醸した自家製マッコリや焼酎はとてもきれいな味。パジョンは卵がたっぷり使われていてふわふわだ。珍味・エイ料理もある。仁寺洞サゴリ(四つ角)から安国駅6番出口方向に歩き、14ギルを右折。左手の『仁寺ホステル』(宿)を通り過ぎたら、最初の細い路地を左折。少し行くと右側に伝統家屋の店舗が見えてくる。

 

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『チャンジャエナビ』の卵たっぷりパジョン

 

 二次会はツタの葉に覆われた洋館『VOLGA』のワインとチーズで気分を変えたい。タプコル公園方向から表通りを北上し、右手の『サムジキル』を通り過ぎたところの路地を右折。少し行くと目に入る。

 

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『VOLGA』のチーズ盛り合わせ。エゴマの葉が敷いてあるところが韓国らしい

 

 夜ふけまでじっくり飲むなら『チョンガンエ・ビジンタル』。2000年にできた店なので、そう古くはないのだが、女将の包容力のあるキャラのせいか、早くも老舗の貫禄が出てきている。ここでは干しタラ(モクテ)でもつまみながら、すがすがしいしい香りの松葉粉入りマッコリを。タプコル公園方向から表通りを北上し、左手の『ネイチャーリパブリック』(コスメ店)を過ぎたら左折、最初の路地を左折した突き当たり。

 

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安国駅6番出口の近くの路地裏。この辺りはマッコリの店が多い

 

 少々迷っても、ひと気のある方向に歩いて行けば、表通りに戻れる仁寺洞の路地裏。みなさんもぜひくまなく歩いてみてほしい。

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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