ステファン・ダントンの茶国漫遊記

ステファン・ダントンの茶国漫遊記

#14

屋久島–ゆっくり味わう船の旅で一服の大事さを思う

ステファン・ダントン

 

                                                                                         

 

 

屋久島へ向かう

 

 

 

   

 

   これまで私の日本茶ファンをつくる試みを、旅を通して振り返ってきたから、随分古い記憶を掘り起こすような作業も多かった。今回はかなり最近行ってきたフレッシュな旅の話をしようと思う。
 私は人と話すのが好きだ。先日、あるインタビュアーに「忙しい日々の中での一番のストレス発散方法は?」と聞かれた。私はしばらく考えて「人と話すことだな。自分の楽しいと思うこと、興味のあることを伝え合うことで新しい展開が生まれる。それが楽しい。だから、店に立ってお客様と話しているとストレスなんてなくなるよ」と答えた。
 実際、店先でのふとした会話が今回の屋久島への旅を呼びこんだのだ。

 2017年4月、私は鹿児島港にいた。屋久島へ向かうフェリーを待っていた。縄文杉で有名なこの島の自然には日ごろから惹きつけられていたけれど、今回の訪問は、例によってお茶をめぐるビジネスの旅だった。
 ある日、店に訪れた女性客。熱心にフレーバー茶について質問を繰り返してくれることがうれしくて、私もブレンドの方法、茶産地への思いから日本の農業の現状まで、ずいぶんいろんな話をしていた。ふと気になって「どんな仕事をしているの?」と聞くと屋久島のホテルで働いているという。
「じゃあ、支配人やホテルのみんなに飲ませてよ」
彼女自身も気に入ったいくつかのお茶を購入していたのだが、お土産として何種類かのフレーバー茶を持っていってもらった。
 しばらくすると屋久島の彼女から電話がかかってきた。
「支配人が、オリジナルフレーバー茶の開発について相談したいと言っているの。我々のホテルや周辺の環境も見ながら考えてほしいから、一度屋久島に来てもらえないかしら?」
 あっという間の展開で、私は屋久島に向かっていた。
 

 


 

 

 

 

屋久島2号にて

 

   

 

 東京から屋久島へ行くには、いったん鹿児島まで飛行機で向かう必要がある。鹿児島からは飛行機、高速船、フェリー、3種類の交通手段が選択できる。飛行機の乗り継ぎなら運賃は高いが、時間は40分しかかからない。ビジネスマンなら普通これを選択するだろう。でも、私は迷わずフェリーを選択した。所用時間は4時間。しかも定刻どおりに動くとは限らない海の旅。運賃が5000円かからないという安さに惹かれなかったといえば嘘になるが、そんなことよりも、私は余裕(経済的なものではなく)さえあれば、旅はゆっくり時間をかけて味わいたいのだ。人間である私の歩くスピード、考えるスピードと現代の乗り物のスピードには大きなズレがあるように感じるから、なるべく自分の中の時計と合う乗り物で移動をしたいといつも思っている。
 さて、鹿児島港から屋久島へ向かう屋久島2号の出発は朝8時半。鹿児島での前泊が必要だ。できれば鹿児島までだって鈍行で向かいたいくらいだが、さすがにそれは許されないから妥協したが、少なくとも東京からの長距離移動からいったんとどまって、その場所の空気に体と心をなじませることができた。
 屋久島2号に乗り込んで鹿児島港とその反対側に広がる海を見渡し、胸いっぱいに潮の香りを吸い込むと、大航海にでかける船乗りのようにワクワクしてくる。船のエンジン独特の音とともに港から離れていく船と私。遠ざかる陸地と広がる海。桜島を横目に船は進む。船内を散策するとどんな催しが行われるのか劇場があったり、ウミガメの展示室があったり、展望デッキがあったり。表の空気を吸おうとデッキに出ると、午前中の日差しの海をトビウオが横切っていく。キリキリと波に反射する光が心地よくて、少しまどろんだりもした。こんな時間が私にこれまでのことやこれからのことを考えさせてくれる。
 「『ここらで一服』っていう日本語っていいな」
 それまで進めてきた時間を意識的に止めて小休止することの大切さを船上で実感しながら、「こんな時間を『お茶の一服でつくれる』ことをみんなが実感できるようなお茶がつくりたい」なんて考えながら、屋久島のホテルでどんなお茶のアイディアが出てくるか想像していた。
 

 

 

 

 

鹿児島港出港(船上に私がいます)

 

屋久島2号

 

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船上で風に吹かれる

 

船上での昼寝

 

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鹿児島港を出発し、船旅を堪能する。写真上から:鹿児島港出港(船上に私がいます)/屋久島2号/桜島/船上で風に吹かれる/船上での昼寝/宮之浦港。

 

 

 

 

屋久島の茶畑へ

 

 

 

 8時半に出発した屋久島2号は、お昼すぎに屋久島の宮之浦港に到着した。
 実は、屋久島に来るにあたってどうしても行ってみたいところがあった。茶畑だ。実は屋久島は日本最南端の茶産地、しかも有機無農薬で栽培されているという。縄文杉は見なくても、その現場を確かめないまま帰れない。愛子岳のふもとの八万寿園という農園を訪ねてみると、まだ4月というのにすっかり茶葉が生えそろっている。主人に話をきくと「高低差のある地形と湿度の高さ、昼夜の寒暖差、清らかな水が良質な茶葉をつくるんです。さらに丁寧な手作業で手入れをし、完全有機無農薬で最高のお茶をつくる努力をしています」と控えめながら凛とした口調で説明してくれた。いれてもらった茶のデリケートな味わいに感服したのは言うまでもない。
 

 

 

 

屋久島の茶葉

 

屋久島の茶農家と

屋久島の茶葉と茶農家。


 

 

 

ホテル・サンカラ
 

 

   

   

 茶畑からホテルに着くころにはすっかり夕方になっていた。もちろん事前に下調べはしていたが、海沿いの高台にたたずむホテル・サンカラは別天地のリゾート。客室に通されると、目の前のベランダからはジャングルの向こうの夕暮れの海。月並みだが「日本とは思えない!」

 

 

 

 ホテルのプールから海を眺める

 

ホテルの客室

 

ホテルの客室ベランダから

ホテルから眺める景観。

           

 

 

             

 客室のしつらえも館内のインテリアもサービスも食事もすばらしかった。とくに感嘆したのは客室アメニティとして用意されていたお茶セットだ。美しい箱に、ビーカーに入れた屋久島茶、屋久島紅茶、ルイボスティー、さらにレモングラスやハイビスカスといった八種類の茶とコーヒーがセットされている。見た目にも美しく、遊び心もくすぐられる。
 私は出張でホテルに泊まると、必ずアメニティの飲み物を観察する。旅先でたどりついてほっと一息したいとき、日本の旅館ならば緑茶をいれてくれる。まさにその場の空気に自分をそわせる最初の一服を提供してくれる日本的な最高のサービスだと感じる。ホテルでは、セルフサービスで入れるためのお茶やコーヒーとポットが置いてある。このとき、どんなお茶やコーヒーが用意されているのか。ほっと豊かな時間を過ごせるような選択がされているとうれしくなるし、そうでないとげんなりする。間に合わせのように感じるようなしろものを飲むと、ホテルでの休息の時間があわただしい仕事の延長のように感じるから。
 このホテル・サンカラの全体からも、アメニティのような細部からも、日常から完全に自分を切り離せる最高の一服を提供しようという心構えが感じられた。さらに最高の一服を考案する会議に出席できたことは喜びだった。
 

 

 

 

ホテルのアメニティ・お茶セット

 

ホテルでの朝食

ホテルで用意されていたお茶と朝食の光景。

 

 

帰路にて

 

 

 2日後の午後、宮之浦港を出る屋久島2号は、私のような来訪者だけでなく、この島から旅立つ若者もたくさん乗せて出発した。4月のはじめ、高校を卒業した彼らが、就職や進学のため島を離れていく。写真を撮れなかったことが残念だが、送る人と送られる人を結び合う色とりどりのテープが交錯した光景に、「今は別れるけれど、新しい道をお互いたどるうちに、いつかまた会うことができるよう」という願いを見たように思う。
 船の出発は少し遅れた。
 でもいいんだ。待つということを、待つという時間を、予定通りにいかないことを楽しみながら味わいながら旅をする。
 旅をしながら、いったん意識的に一服することも必要だ。前進する。一服する。振り返る。それからまた前進すること。
「旅のような人生の、日常の一服に、日本茶で、香りでさらに貢献しよう」と改めて決意した旅になった。
 

 

 

 

帰路の船上

帰路、船上で想う。

 

 

 

 

 

*この連載は毎月第1・第3月曜日(月2回)の更新連載となります。次回公開は11月6日(月)です。お楽しみに! 

 

 

写真/ステファン・ダントン    編集協力/田村広子、スタジオポルト

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ステファン・ダントン

1964年フランス・リヨン生まれ。リセ・テクニック・ホテリア・グルノーブル卒業。ソムリエ。1992年来日。日本茶に魅せられ、全国各地の茶産地を巡る。2005年日本茶専門店「おちゃらか」開業。目・鼻・口で愉しめるフレーバー茶を提案し、日本茶を世界のソフトドリンクにすべく奮闘中。2014年日本橋コレド室町店オープン。2015年シンガポールに「ocharaka international」設立。2017年路面店オープン予定。著書に『フレーバー茶で暮らしを変える』(文化出版局)。「おちゃらか」http://www.ocharaka.co.jp/

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