日常にある「非日常系」考古旅

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#14

盗掘散歩――世界遺産から「裏社会」を考える(3)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

日本最大の古墳を前にして思ったこと

 

 

 古市・百舌鳥古墳群のある堺は、織田信長や豊臣秀吉の時代、商人たちによって発展を遂げた日本を代表する都市だった。立地としては、海が近い平野である。西日本と東日本をつなぐ道と瀬戸内海からの海の道がつながった最高の場所といえるだろう。

 天下人だけでなく、そこからさらに遡ること1000年前に、より大きな権力者たちの象徴ともいうべき巨大墳墓が建造されたのも当然のことだったのかもしれない。

 その中でもひと際目立つ大仙陵古墳。またの名を仁徳天皇陵。築造時期は5世紀中頃と推定されている。日本で最も有名な古墳の一つではあるが、仁徳天皇の墓とするには、考古資料や文献資料との食い違いが指摘されており、実際の被葬者は明らかでない。宮内庁により百舌鳥耳原中陵として仁徳天皇の陵墓とされている。

 いたすけ古墳とミサンザイ古墳(履中天皇陵)を後にした私は、百舌鳥・古市古墳群で最大の古墳である、その大仙陵古墳へ向かった。

 先の2つの古墳で、粗方のフィールドワークを終えていたので、半ば観光気分でもあった。そのため、まずはこの古墳群の観光コースの起点ともいえる、JR阪和線の三国ヶ丘駅を目指した。ミサンザイ古墳の最寄り駅である上野芝駅からは2駅4分。“そのくらい歩けよ!”という声も聞こえてきそうだが、この夏の暑さである。そんなことをしたら、日本最大規模の古墳を歩いて回る前にギブアップだ。何しろ、大仙陵古墳の墳丘の全長は約486m、後円部径約249m、高さ約34.8m、前方部幅約307m、高さ約33.9mで壕は三重に巡っている。一つの街がすっぽり入るほどの大きさなのだ。

 

 

 

世界遺産を歩く

 

 

 三国ヶ丘駅の構内には世界遺産になったことを祝う垂れ幕があった……が、それだけ。すでに町おこしの準備OKというには、いささか盛り上がりに欠けた様子である。それもそのはずで、町おこしをするまでもなく、堺は発展した街で、住宅地のため人口も多く、観光資源を主にしなければならないようなエリアという感じもしない。あくまで外野の意見ではあるが。

 地元の盛り上がりの程度とは関係なく、観光資源となるような古墳はある。そのため、古墳をもじった店名など、古墳に引っ掛けた、香ばしい感じのするお店(あくまで個人の感想です)が駅前にいくつか見受けられた。主に食堂やカフェなどではあったが、こうした乗っかる系のお店というのは、個人的にはかなり好きなので、余裕があったら立ち寄りたいなと後ろ髪をひかれる思い(30年ぐらい坊主頭なので、気分的に)だった。

 軽い気持ちで古墳の外周を歩き出したのだが、ほどなくして、

(でかっ!……思ってたよりでかっ!)

 

 そんな気持ちで途方に暮れる羽目になった。一周すると約3キロ。しっかりとした運動をするぐらいの気持ちでないといけなかった。決して甘く見ていたわけではないのだが、この場所に来たのは大学時代以来。記憶がおぼろげだっただけに、あらためてその大きさを実感して、少々面喰ってしまった。

 この時点でもわかることだが、巨大な墳丘を有する古墳は、見て回るだけで時間と体力がかなり奪われる。見学者的にはマイナス要素ではあるが、仮に盗掘する側の視点に立つと、それがメリットとなることもある。規模が大きいということは、それだけ入り込むスキが多いということでもあるからだ。

 実際に、「立入禁止」「動物にエサを与えないで下さい」「魚釣り禁止」などの看板があちこちに設置されていた。「するな」と書かれているということは、裏返してみれば「できる」ということ。履中天皇陵の盗掘事件が起きたことからもわかるように、誰かしら過去に“やらかした”ことがあるということなのである。結局のところ、現代の古墳の管理状況だと、それなりに準備したら入れる可能性がある。このことは過去の事例だけではなく、先ほどのシミュレーションでも、そのように結論が出ていた。

 ただし、入ることはできても盗掘が成功するかと言えば、それは別問題。まず、圧倒的に人の目が多い。世界遺産のメインということもあって観光客が多いのもあるが、履中天皇陵と同じく仁徳天皇陵のまわりも完全なる住宅街。閑静な住宅街という感じである。接する施設は住宅以外にも学校もあり、商店も多く、おまけになぜかラブホテルも点在していて、地元の人の出入りも多い。これでは誰かしらが不審な動きをしたらすぐに気付かれるだろう。

 陵墓の主体部には、誰もが認めるような価値のある副葬品があるだろうが、入り込むリスクは高いし、現実的なターゲットにはなりえないと思った。

 こうなると、日本の古墳を盗掘してビジネスに繋げるのは実質的に不可能なのではないかと結論づけることになる。だが、それで終わってしまってはつまらない。思考が堂々巡りする。

 

 

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外国人観光客の視点

 

 

 こんなふうに取材で行き詰まりがあったときはいつも視点を変えるようにしている。取材対象を変える前に、自分の見方にズレがないか、別の見方はないのかを問いかけるようにしている。

 今回の古墳歩きの最中、そのヒントが舞い降りた。それは、観光客が立ち寄ることが多い前方部を水壕越しに見れる「正面参拝所」まで歩いてきたとき、

 

「ご案内しましょうか」 

観光案内のための老人ボランティアスタッフに声をかけられた。見ると、おそろいの黄色いベストを着用した数名の老人スタッフがいた。

 いかにも案内いたしますの雰囲気をまとっているのに申し訳ないが、古墳の概要などは、さすがに把握しているので、丁寧にお断りした。

 スタッフの老人が、ちょっと寂しそうな空気をだしていたので、「学生時代、考古専攻してまして」と、古墳には興味あるんだよ風のコメントを添えたところ、妙に食いつかれた。

 

「考古学ですか!いや~素晴らしいですね」

(何がだよ……そんなやつ掃いて捨てるほどいるだろうに)

 悪態は心の中だけでとどめて、丁寧な対応に終止しながら、別角度から質問をぶつけてみることにした。

 

「世界遺産になったじゃないですか。なにか変化ってありましたか?」

「ボランティアが3人体制から4人になりましたね。ほかには何も変化なしです」

「やっぱり見に来る人が増えましたか?」

「そうですね。増えたんですが、日本人よりも外国の人のほうが多いです」

「外国ですか?」

「フランス人なんかも来ますよ。彼らはユニークなんですね。どこに埋葬されているのかって聞かれました。日本人とは目の付け所が違います」

 

 たしかに独特な見方にも思える。だが、これではっきりした。外国人であっても文化財に興味を持つ気持ちは同じなのだ。日本人であるからこそ、文化的な価値とか収集家としての喜びだとか、そういう細かいところまで見てしまい、盗掘ビジネス全体を複雑に考えすぎていた。本来、盗掘とはシンプルなビジネスなのである。

 文化財があり、それを盗み、欲しいという客に売る。その構造を掘ることができるのであれば、日本国内にとどまる必要はない。むしろ海外に目を向けることが、考古学と裏社会視点をミックスしたハイブリット考古学的な調査研究としても向いている。なにより、海外取材こそ私の本領発揮場所でもある。

 私は海外に住む知人にコンタクトをとることにした。

 いったいどこを目指したのかは、先々明らかにしていこう。

 

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仁徳天皇陵の正面参拝所。

 

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)、『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中 』(光文社新書)、『危険地帯潜入調査報告書』(丸山 ゴンザレス、 村田 らむ共著/竹書房) が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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