台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#13

夏へ! 外気を感じながら台湾ビール

文・光瀬憲子

   

 気温と湿度が高くなるこの季節、不快指数が上がるなかで、唯一うれしいことと言えばビールが旨くなること。まだ明るいうちからグイッと喉を潤す爽快さ。蒸し暑さに感謝する瞬間だ。

 飲酒人口が少ない台湾だが、やはり夏場は不動の人気を誇る台湾ビールの出番が多くなる。今回は台北で台湾らしい酒肴を楽しみながらサクッとビールを飲める居酒屋をご紹介したい。

おそれ多くも廟前で背徳の昼ビール

 朝から暑い台湾では起き抜けに飲みたい。そんな飲兵衛は台北の下町、艋舺(万華)の清水祖師廟境内にある『祖師廟口自助餐』へ。朝9時からオープンしている。自助餐は庶民的なバイキング式食堂のことだが、ここは地元中高年が集まる肩の力が抜けた居酒屋。お昼前後を狙って訪れると、常連客が年季の入ったカウンターを囲んでいる。ちょいわるオヤジ風のご主人と肝っ玉かあちゃん風の女将さんが笑顔で飲兵衛たちを出迎える。

 肉汁たっぷりの豚の角煮やピリ辛大根キムチなど、女将さんのお手製の品はどれも小皿料理でビールにぴったり。自助餐とは名ばかりなので、料理もビールもご主人や女将さんがちゃんと出してくれる。

 

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艋舺、清水祖師廟に向かって右に『祖師廟口自助餐』と『沙茶牛肉大王』並ぶ

 

『祖師廟口自助餐』のすぐ向かいにあるのは『沙茶牛肉大王』。こちらも古びたテーブルと椅子が並べられただけの簡素な店内で、主役は常に赤ら顔の常連たち。辛味の効いた濃い味付けの牛肉炒めが数十年来のファンを惹きつける。

 気のいい艋舺のオヤジたちとお酌をし合いながら時間が過ぎていく。旨いつまみとビール、そして昼間から廟の境内で飲むという背徳感が、台湾の旅を特別なものにしてくれる。

 

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『沙茶牛肉大王』の牛肉炒め

 

ガジュマルの木に見守られながら

 同じく廟の境内で飲める場所が台北にはもう一カ所ある。こちらは大きな廟に大きな境内、そして大きなガジュマルの木に囲まれた神宿る昼酒天国、大稻埕の慈聖宮だ。樹齢数百年のガジュマルの木が都会に降り注ぐ強い日差しを遮り、卓上に置かれたビールに木陰を作ってくれている。週末は家族連れや観光客で混雑するので狙い目は平日の昼過ぎ。

 

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大稻埕・慈聖宮の廟前酒場

 

 こちらも中高年たちが境内の涼しそうな席を陣取っている。廟前にずらりと並んだ屋台で好みのつまみを選び、屋台の後ろの空いているテーブルに座る。イカと刻みショウガとパクチーの和え物や魚の唐揚げの甘酢ソースかけなど、台湾らしいつまみに舌鼓を打つ。

 

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イカと刻みショウガとパクチーの組み合わせは絶妙

 

サメと豚、台湾式チューハイ

 慈聖宮のすぐ近くに、ちょっと変わった食堂『阿華鯊魚烟』がある。この店の看板は鯊魚烟(サーユーイェン/サメの燻製)。サメと聞くとちょっと驚くが、日本でもはんぺんなどの加工食品にはよく使われている。台湾人に人気の食べ方はスモーク。脂ののったサメの燻製は身の部分が白くてふわふわ、皮や脂身の部分はしっとりとして歯ごたえがあり、なんとも香ばしい。サメの燻製を甘口醤油とわさびでいただく。ビールに合わないわけがない。いや、日本人なら日本酒がほしくなるかもしれない。

 

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『阿華鯊魚烟』のサメの燻製と焼酎の維大力割り

 

 この店にはもう1つ看板メニューがある。醬骨頭(ジャングートウ)という骨付き豚肉。大皿に載った豪快な肉のかたまりは、運ばれてきた瞬間「お~!」と叫びたくなるほど。箸で触れるとホロリと骨から肉が剥がれ落ちるほど柔らかく煮込んである。甘過ぎない醤油味がビールにぴったりだ。

 

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『阿華鯊魚烟』の豪快骨付き豚肉

 

 また、この店に来たら是非試したいのが維大力加米酒(焼酎の炭酸飲料割り)である。維大力とは黄色いオロナミンCのような炭酸飲料。これを米酒(台湾焼酎)に一対一で混ぜた下町風カクテルだ。店主の息子とおぼしき体格のいい高校生くらいの男の子が、大きなヤカンに焼酎の大瓶2本、炭酸飲料のペットボトル2本を逆さまに突っ込んで、豪快にカクテルを調合している。「サメの燻製にはやっぱりコレだよ」と店主が笑う。喉越しが爽やかで、蒸し暑い台湾にはぴったり。この店は台湾には珍しく、日本酒、高粱酒、紹興酒などビール以外の酒の品ぞろえが充実している。

 

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酒が充実している『阿華鯊魚烟』

観光夜市も捨てたもんじゃない

 下町、艋舺にはまだまだビールの似合う下町酒場がある。90年代に絶大な人気を誇った台北きっての観光名所、「華西街観光夜市」は今も健在だ。一時期ほどの人だかりはなく、全盛期は過ぎた感じは否めないが、気取らない雰囲気が逆に訪れる人を誰でも歓迎しているようでホッとする。アーケードになっているので雨天でも楽しめる。

 屋台が軒を連ねる華西街に、フルーツスタンドと隣合わせで立つ目当ての店は、カウンターの前にテーブルと椅子が並べてあるだけのシンプルな店構えだ。どちらかと言うと屋台に近い。ガラスケースに入った海鮮を自分で選び、炒めたり焼いたりしてもらうのだが、ビールを飲むなら殻付きエビ炒めがいい。濃い目の味付けが酒によく合う。店頭のオープン席で行き交う人々を眺めながら海老の殻を剥き、台湾ビールをすすっていると、地元にすっかり溶け込んだ気分だ。

 

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「華西街観光夜市」で出合ったシンプルなエビ炒め

温泉→ビール→牛肉麺

 もうひとつ、かつて大いに賑わった台北の繁華街がある。北投だ。全盛期は70年代、その後はやや廃れたものの、ここ数年でMRT新北投駅はふたたび垢抜けしたオシャレな高級温泉街へと再生を遂げた。熱海に引けをとらない豪華な宿の数々、大きくて水圧もじゅうぶんな温泉風呂。日帰り利用できる温泉もたくさんあるので、真夏の深い緑に囲まれて硫黄の湯につかるのも楽しい。

 温泉で汗をかいたら夕暮れの散歩がてら、お隣の北投駅周辺まで歩いてみるといい。こちらはまだ古びた温泉街のような雰囲気が漂い、朝市や夜市の賑わいぶりから庶民の暮らしがうかがえる。そんな北投駅のすぐそばに牛肉麺の名店が2店ある。だが目当ては麺ではなく酒のつまみ。麺なら『志明牛肉拉麺』、つまみなら『呉家牛肉麺』と覚えておこう。

 呉家牛肉麺の名物は100元の絶品つまみプレート。もちろん、牛肉麺店としても繁盛しているので麺を頼む客はたくさんいるが、それに惑わされずに台湾ビールとつまみプレートを頼もう。丸いプラスチックのプレートには茹でピーナッツ、昆布、煮込み卵、鶏肉の醤油煮などがぎっしりと盛られている。ほどよく甘辛い醤油味のつまみを頬張り、よく冷えた台湾ビールを流し込む。温泉で汗をかいた身体に冷たいアルコールが染みわたる快感。暑い夏に感謝したい気分になる。

 

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北投『呉家牛肉麺』のおつまみプレート

 

 〆は『志明』がいいだろう。紅燒(醤油煮込み)と清燉(牛だしスープ)と好みの分かれるところだが、個人的にはさっぱりとした白スープの清燉で夏の台北酒場めぐりをしめくくりたい。日本の梅雨空に気持ちがくさくさしたら、台湾ビールを飲みに週末の台湾旅行などいかがだろうか。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『ビジネス指さし会話帳 台湾華語』『スピリチュアル紀行 台湾』他。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「翻訳女」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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