京都で町家旅館はじめました

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#13

ほんとうのテリヤキ

文・山田静

 

「ほんとうのテリヤキが食べたいんだけど、どこに行けばいい?」

 その日到着した、アメリカ人ゲストのルークに聞かれた。

 ほんとうのテリヤキ……?

 

TERIYAKIとテリヤキ

 体格のいいルークは食べ歩きが趣味で、日本の旅でいちばん楽しみなのが「食」だという。もともと日本料理は好きだというが、でもなんでテリヤキ?

「仕事で東京に行ったとき、築地でスシを食べたんだ。そんなに高い店じゃないよ。でも、信じられないほどおいしかった! いままで僕の食べてたスシは食べ物じゃなかったのかもしれない、と思うくらい」

 うっとりと回想している。炙りや甘いアナゴなど、ネタによって食感が違ったり、複雑な味が楽しめるのにも感動したという。寿司でこれなら、大好物のテリヤキはどれほどのおいしさなのか、と思ったらしい。

「できればチキンがいいな! ヤキトリじゃなくて」

 うーむ、ブリの照り焼きをすすめるのもなんか違うし、テリヤキバーガーというのもアレだし……。

「そんなにシリアスにならなくていいよ」

 私の眉間にシワが寄っていたらしく、ルークは笑って部屋に戻っていった。

 彼が言いたいことは分かる。TERIYAKIはアメリカのカジュアルなレストランで人気のメニューだ。甘辛くて濃い味は私も好きだが、これは肉を市販のTERIYAKIソースで味付けた料理で、日本のブリの照り焼きとは似て非なるものだ。

 じゃあ、日本ではどこに行けばいい、と言われたら、モスバーガーのテリヤキチキンバーガーがいちばん近い……ような気がするけど、そうはいってもなあ……。

 

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当館「楽遊」からほど近い西本願寺では、新しい門主が就任された法要の協賛行事開催中。全国からやってくる信徒で連日大にぎわい。

行事の詳細はこちら→http://www.hongwanji.or.jp/dentou/

 

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見どころはなんといっても国宝・飛雲閣と書院の特別公開。

写真は秀吉が建てた聚楽第の一部ともいわれる飛雲閣。見学は無料!(熊本地震への復興支援募金所あり)

 

 

緑茶はマッチャなのか

 和食は世界遺産、なんて息巻いてるのは日本人だけで、実のところ、こちらが思っている以上に外国人の多くは日本の食と文化についてそんなに詳しくない。

 たとえば、チェックインのときに当館は緑茶とお菓子を提供しているが、湯飲みの底に少しだけある緑の粉(茶こしも通過した細かい茶葉)を見て、

「マッチャ? これマッチャ?」

 と身を乗り出して聞いてくるゲストがいる。

「これはかりがね緑茶といって、マッチャとは違います。しかし、ルーツは同じです。マッチャは茶葉をクラッシュしたパウダーです」

 というと、困惑したような表情が返ってくる。

「スシはどこで食べられる?」

 これもよく聞かれるけれど、「リーズナブルでおいしいの」と言われると、案外難しい。

 回答例>山に囲まれた京都シティでは手ごろなスシレストランは意外と見つけにくく、うっかりすると高額です。これから日本海方面に行くならそちらでご検討されてはいかがでしょう。スシもサシミもリーズナブルかつデリシャスですよ。ふむ、お子さまがアボカドロールを召し上がりたい? ならコンベア・ベルト・スシのほうがいいかもしれません。

 あるいはこんな質問も。

「ゲイシャガールはギオンにいる?」

 回答例>彼女たちのビジネスエリア・たとえばポントチョー界隈ではたまに遭遇しますが、ビジネス途中なので邪魔してはいけません。ディナーを一緒にしたい? それは可能ですがエクスペンシブですし、ましてチェリーブラッサムのシーズンにはインポッシブルです。

 

 もちろんこのへんの事情に詳しい外国人ツーリストも多い。本を読んで勉強してくる人もいるし、あるいは到着の何ヶ月も前から、懐石・湯葉・天ぷら・焼き肉と、選りすぐりの京都の名店の予約手配を依頼してくるような用意周到タイプもいる。

 だがこれはわりと一部の話で、21世紀に入って20年近くたった現在でも、多くの外国人にとっては、日本茶=マッチャ、日本食=テリヤキとスシ、テンプラなのである。

 

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西本願寺は、夜もライトアップ&飛雲閣や書院の特別公開を実施中。書院のふすま絵や庭は夜はひときわ幻想的

 

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西本願寺の国宝・唐門。ライトアップされるといちだんとゴージャス

 

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熊本地震の復興支援として被災地の竹による「竹あかり」も展示

 

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西本願寺散索は、細部のチェックが楽しい

 

 

先斗町とルークのゴール

 さて、そんな外国人ツーリストがポントチョー(先斗町)に行くとどうなるか。

 夕方、ウキウキしながら先斗町に繰り出したゲストふたりがしょんぼりして戻って来たので感想を聞くと、

「いやあもう、ひどいめに遭ったよ」

 いきなりの愚痴。

 店の多さに迷いに迷ったあげく、雰囲気がよさそうだし、すぐに座れるからと店員に声をかけられ入った和食店で、いやな思いをしたという。

「注文してから1時間以上待って」

「出てきたのがこーんなに小さいサシミとベジタブル」

「写真と違ってて」

「しかもおいしくない」

「しかも高い。8000円だよ?」

 ふたりは掛け合い漫才のように訴えてくる。とりあえずレモングラスやローズヒップをブレンドしたハーブティ「ストレス解消!ほっこり」(私がつけた名前ではない、念のため)と冷蔵庫にあったリンゴを出して、ロビーで彼らの話にしばし耳を傾けた。

 なんでもその店は、英語メニューもいいかげんで、「ツナ」と書かれたメニューで握りセットが出てきたりもしたという。

「だまされているとは思わないけど、なんだかね」

「京都じゃないけど、外国人メニューで値段が違うところもあった」

「あと、絶対ついてくる前菜(お通し)のシステムも、知らないと外国人はびっくりするよ」

 全部はきだしてすっきりしたのか、「ストレス解消! ほっこり」ティーが効いたのか、暖房であったまってきたのか、「もう寝るね」と彼らは部屋に引き上げた。

「ツーリスト向けの店はもういいや。明日、どこかおいしいお店教えて」

「今日食べたなかでリンゴがいちばんおいしかったよ、ありがとう」

 いえいえ、どういたしまして。

 それにしても許せないのは先斗町の高くて不味い店だ。先斗町散策をすすめたのが自分なだけに、腹立たしさは夜中まで続いた。

 

 テリヤキが食べたかったルークが去る日がきた。

 けっきょくお店を紹介できなくてすいません、と謝ると、

「いいんだ。あのね、僕は分かったよ」

 ルークは大きなスマイルを返してきた。

「リアルなジャパニーズフードと、僕の思ってたジャパニーズフードはちょっと違うんだ」

 昨日はお寺の帰り道で、今回の旅でいちばんのレストランを見つけたよ、とスマホを見せてくれた。

 画面に写っていたのは、きれいな器に盛りつけられたオムライスとコロッケ、エビフライの写真。おお、洋食レストランではないか。古い建物やアンティーク調のインテリアもおしゃれな店舗で、あとで検索したら隠れ家レストランとして知られた人気店だった。

「あんまりおいしかったから、シェフを呼んでお礼を言ったんだ」

 最後の写真は、シェフとルークの笑顔のツーショット。

 なんだか、ほっとした(いや、私はなにもしてないんだけれども)。

 京都の旅だからといって、懐石料理にこだわる必要も、テリヤキを探す必要もない。私も経験があるけれど、旅先で、自分の嗅覚で見つけた店がおいしかったり、素敵だったりするときほどうれしいことはない。それが名物料理とは関係なくても、自分にとっては旅先での最高の美味で、最高の思い出になったりするのだ。

 うらやましいな。素敵な旅だったねルーク。

 

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桜の季節のにぎわいが去り、京都はもうすぐ初夏。生花店からはさっそく山ツツジが到着

 

 

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『紅茶専門店 京都セレクトショップ』→http://www.verygoodtea.com

 

 

*本文中の人名や事実関係はプライバシー保護のため修正を加えています。


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は月1回(第1週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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