日常にある「非日常系」考古旅

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#13

盗掘散歩――世界遺産から「裏社会」を考える(2)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

墓を暴いて金になる!?

 

 

 なぜ盗掘が行われるのか、そして、なぜそこに闇社会が形成されるのか。そこには人間の欲望が蠢いている。実際に「いたすけ古墳」を訪れ、盗掘とは少し違うが金のために墓を暴かれそうというその爪痕を目の当たりにし、あらためて人間の貪欲さを再認識した。

 だが、私が今回、百舌鳥・古市古墳群を訪れた目的は、それだけではない。

 もし私がこの古墳を盗掘するとしたら、どのように盗むだろうか。

 世界遺産に認定された、この古墳群を実際に見て、それを頭の中でシミュレーションすること――これが、私が今回ここに来た最大の理由である。

 シミュレーションするにあたって盗掘の陵墓盗掘の歴史を紐解いてみると、前回お話しした狹木之寺間陵(さきのてらまのみささぎ)での盗掘事件のように、大抵の場合、盗掘団が素人だった。食い詰めた農民や歴史マニアの大学生やアマチュア歴史家。彼らには犯罪に関する知識が欠けていたように思う。

 だが、考古学の研究者としての肩書を持ちながらも、長年にわたって世界中の犯罪を追いかけてきたジャーナリストである私としては、これまで蓄積した知識をもとに、盗掘のシミュレーションができるのではないかと思ったわけだ。それも、完璧な盗掘をするための。

 実際に、この古墳群を形成する巨大古墳の一つ、履中天皇陵と呼ばれるミサンザイ古墳でも盗掘が行われた過去がある。事件が起きたのは1986年12月。地元に住む大学生が、知人の高校生と2人で犯行に及んだ。午後にフェンスを乗り越えて同陵に忍び込み、そこでレジャー用のゴムボートを膨らませて乗り込み、周濠を渡って土器片を約50点も拾ったり手で掘ったりするなどして盗掘したのだという。そして、暗くなるのを待って、午後7時頃にボートで再び岸に戻り、その土手をうろついていたところを警察官に職務質問され、逮捕。犯行の動機は「(天皇陵は国が立ち入りを禁止していて未調査であったため)誰も手に入れていない考古資料を入手したかった」「自分の部屋に飾っておきたかった」というもので、考古的な知識欲とコレクター気質が動機であったと思われる。

 ざっと見ただけで雑な計画だとわかる。これでは成功するはずもないが、この“ゴムボート作戦”を成功させるためのシミュレーションを、私なりにしてみたい。

 

 

IMG_6541S履中天皇陵の拝所。見学用のビューポイントというよりも参拝するための厳かな雰囲気が漂う。

 

 

もしも私が盗掘するなら…

 

 

 盗掘を成功させるためには、人と金が不可欠だ。

 

 私がここで盗掘に取り掛かるとしたら、まずメンバーをそろえるだろう。ただの表面採取(表採)ではなく発掘をするとなれば、一人では難しいうえに、見張り役も必要になってくるだろうから、最低でも3人は必要だ。正直、人数は多ければ多いほど、作業は短時間で済むようになるが、そうなると必然的に人数を増やすことになる。頭数が増えれば、露見しやすくなるし、儲けも減ってしまうので、このくらいが限界だろう。

 ただし、現場の周辺は閑静な住宅街。怪しい風体の男を揃えたらすぐに通報されるのは間違いない。そこで、ごく普通の住人を装えるチームにする必要が出てくる。たとえば、女性がいたほうが周囲から奇異な目を向けられることもないだろう。一軒家が多いということは、転勤族の暮らすエリアではないので、もともと住んでいる人が多いはず。ということは、隣近所の顔は把握されている。もし、引っ越してきた新規の住人ということにするのであれば、夫婦や家族を演じたほうが怪しまれない。そして、そこに出入りする人数や回数も制限する必要がある。あまりに多くの出入りがあると住宅地ではそれだけでも目立ってしまうからだ。

 次に資金面だが、これがかなりの金額になる。中でも一番金がかかるのは、なんと言っても拠点づくりだ。拠点は大型トラックでも代用できるが、現場を見渡すと、このような住宅地である。夜中に大型トラックが停まっていたら、すぐに通報されることだろう。また、アパートでも、大掛かりな荷物を運ぶ際に近隣の住人に怪しまれてしまう。そうなると、駐車場付きの一戸建てがベストだ。調べてみると、ここ堺市堺区の一戸建ての賃貸予算は月10万円弱。敷金礼金とあわせて50万円は必要だ。

 それだけではなく、盗掘に使う道具もそろえなければならない。まずは、陸地から濠を渡るゴムボート。履中天皇陵の周囲には大きな濠があるのだが、その幅は目測で約20~30mはあるだろう。水が濁っていて深さは不明だが、これだけの幅の濠なら深さも数mはあるはず。やはりボートは不可欠だ。これは量販店で購入してもいいが、後に発覚した場合に足がつく恐れがあるので、オークションなどで中古品か新古品を買うことにする。できればオールが取り付けられるものがいい。あとは、空気を入れるための電動ポンプも欲しい。どちらもオークションか通販などで購入する。しめて3万円。

 スコップや移植ごてなどの発掘道具もそろえなければならないが、私の場合はとりあえず一通り持っているので、購入する必要があるのは暗視ゴーグルくらいか。夜中に行動するケースも十分に考えられるので、ある程度性能のいいものが欲しい。そうすると3万円前後のものを人数分そろえることになるだろう。

 さらには、飲み水や食料の確保も重要だ。一度古墳に入ったら気軽に戻ることができない。周濠を往復する回数が増えれば、それだけ発見されるリスクが高まるからだ。移動の回数を抑えるために長時間滞在することを想定し、これらを事前に持ち込んでおく必要がある。3人分の水と食料、そのほか諸々の雑品で2~3万円は必要になるかもしれない。

 ここまでが想定できる準備なのだが、準備だけでこれだけ手間がかかり、とにかく近所の目があるので、当然、素人では至難の業。しかし、盗掘作業はそれ以上にハードルが高い。

 作業の手順としては、まず、人目につかない時間を探すための偵察をすることから始めたい。古墳周辺は常に、宮内庁書陵部の職員が巡回している。夜中でも巡回警備がある可能性もあるので、その目を回避するために巡回スケジュールを把握する必要があるのだ。もちろん、警備のすきをつけたとしても、日中は人通りも格段に増えるので、深夜を狙うこととする。

 巡回スケジュールを把握できたら深夜に現場へ移動し、発掘道具や食料などをボートに積み込んでいく。素早く行動するために、拠点でゴムボートに空気を入れてから周濠に入れ、物資を積み込み、ボートで周濠を渡ったらすぐに荷揚げをする。そのあとは、すぐに対岸から見えない位置に物資とボートを運び込み、発掘ポイントに移動。主体部とおぼしき場所の目星をつける。ここまでは、夜が明けるまでの短時間に済ませたいところだ。それが済んだら、いよいよ発掘だ。

 それなりの規模の古墳となると、掘削作業は2~3日はかかる。過去にかなり大きな規模の古墳の調査で土掘りをしたことがあるのだが、その際に深さ2メートルに至るまで掘って遺物を採取するのに、そのぐらいの時間は必要だった。しかも、夜間は目立つ動きはできない。

 周濠から墳墓を見ると、奥の方は見通せない。木々が生い茂っているために視界がきかないのだ。それはアドバンテージではあるものの灯りをつけたら遠くからでも誰かいることだけはわかってしまう。普段暗いところに灯りがあれば、それだけで通報案件である。

 そうなってしまえば、一気に計画は瓦解する。それを避けるためにも夜間はできるだけ休息を取り、また明るくなってから掘り始めるしかない。

 このプロセスを何日か繰り返し、運良く遺物を掘り出せたとしたら、その後、遺物をパッキングしてボートに乗せ、対岸に渡る。万が一にも壊したり、水に落としたりするわけにはいかない。

 あとは、拠点となる家に運び込むのだが、ここで何度か往復するのは、進入時と同様にリスクが高すぎる。そこで、乗せきれなかった分は防水対策を施したパッキングを信じてロープに遺物をくくりつけ、一回目のボートで対岸についたら一気に引っ張るというやり方をする。ここまでくれば、あとは堂々と逃げ切ることができるだろう。

 

 

IMG_6537閑静な住宅街と接する周濠。水位はそれなりに深そうに見える。

IMG_6538S
古墳に隣接する住宅街は一軒家が多く、住人以外が歩くと浮きやすい。

 

 

盗掘ビジネスはどれだけ儲かるか?

 

 

 盗掘シミュレーションはここで終わりではない。金銭が目的ならば、盗掘した遺物をブラック・マーケットに流さなければいけない。盗掘の先は、ブローカーの領域に踏み込むことになるのである。

 

 だが、これまた簡単にはいかない。

 まず、クライアントからの依頼でもない限り、盗掘文化財などの骨董品を取引するマーケットが必要になる。ただし、日本には不特定多数が出入りすることができるようなブラック・マーケット(違法市場)は存在しない。骨董品が取引されるのは専門の業者市、好事家のための骨董市などが代表的なところ。それ以外だと骨董店がメインの販売業者である。

 骨董の世界というのは、目利きがいるので、簡単に盗品を流せないというのが前提だと思ってもらいたい。

 だが、業者や客も素人ではない。ブローカーがこれらに持ち込む際に、「出どころ」を追及される。怪しいと思った品については、警察に通報されたり、業者間で追及されたりすることも珍しくない。

 それゆえ、盗掘品である以上、堂々と履中天皇陵の名前を出せない。必然的に「出土地不明」の出土品となる。そうして販売することはできるのだが、それだと価値は一気に下ってしまう。出土地不明の場合、その埴輪や装飾品などは1点1~2万円というところだろう。かなりの数の遺物を盗み出さないと、大した金額にはならない。

 また、完形の埴輪が出土すればいいが、もし割れていたら、破片をつなぎ合わさねばならない。これは素人にできるものではない。専門の修復家に頼まねば、価値はゼロになりかねない。うまく接合できたとしても、出土地不明の埴輪だと10万円以下に買い叩かれる可能性もある。専門家へのギャラのほうがよほど高額になることだろう。ちなみに破片のままだと、まとめて1000円といったところだ。海洋堂のフィギアといい勝負である。

 

 いかがだろうか。準備資金や手間をざっと考えただけでも、日本の陵墓を盗掘することがいかに非現実的だ。さらに、その後の販売を視野に入れると、現代では盗掘が商売として成り立つものではないということがよくわかる。そう考えると、日本国内の盗掘は、動機が収集欲や考古欲、知的好奇心を満たすためのものでしかあり得ないというのも、自然な流れなのだろう。

 しかし、盗掘品が流通していないかと言うとそうでもないのだ。抜け道というのはどこの業界にもあるもので、文化財とて例外ではない。また先述のように、例外的に「クライアントからの依頼」があった場合、採算が取れることもある。クライアントは金銭的な利益よりも、収集欲を満たすことが目的なので、採算を気にせず金を払うからだ。だからと言って、それを突き止めるのは極度に難しい。日本国内での取材には、正直、手詰まり感がある。

 そこで、私なりに少し視点を変えてみるのも手であるような気がしてきた。

 実はそうした“例外”の、もっと大きな取引先も存在するのだ。それが「海外マーケット」である。

 日本の文化財は、日本人だけが手に入れようとしているわけではない。むしろ、海外にも収集家は存在しているのだ。そういう人に向けて日本の文化財が流されることもある。

 実は、これまでの海外取材で、海外での文化財の違法取引を垣間見たことがある。そのときの感触としては、日本よりも規模も大きく、さらに大胆な盗掘が横行しているように思った。

 つまり、海外には日本人には想像もつかない“真のブラック・マーケット”があると思うのだ。もっとわかりやすく闇を発掘するためには、日本にいただけでは相当難しい。

(やはり、海外へと目を向けるべきだろうか。でも、そこでどれだけの収穫があるのかは未知数……)

そんな考えを頭によぎらせながら、いまひとつ踏み切る気になれないまま、私は履中天皇陵を後にした。 

 

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)、『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中 』(光文社新書)、『危険地帯潜入調査報告書』(丸山 ゴンザレス、 村田 らむ共著/竹書房) が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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