韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#120

「韓国ロス」のみなさんへ〈14〉先日の講座復習編

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 先月のオンライン講座の補講を兼ね、話し切れなかったこと、見せ切れなかった写真や動画をお送りするシリーズ3回目の話題は、鍾路3街の東側、宗廟脇の通りにある立ち飲み屋について。

 

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2軒ある立ち飲み屋のうち、北寄りにあるのが「ドレミ・ジャンスルチプ」。外観と比べ、中は意外とこざっぱりしている中央は筆者と筆者の姪っ子

 

韓国の若者や女性客を見かけない立ち飲み屋 

 日本からの旅行者を何度もこの立ち飲み屋に案内したが、じつは私はそのたびに静かに驚いている。何に驚いているかと言うと、日本の女性がこの店で飲むことを心から楽しんでいることに、である。

 著書やweb記事にこの店のことをさんざん書いておきながら、おかしなことを言うと思われるかもしれない。

 リピートした人は気づいたかもしれないが、この2軒にはいつ来ても男性のお年寄りしかいない。そう、私が連れていく日本からの旅行者以外、この店で女性を見かけることはほぼないのだ。いや、女性だけではない。鍾路3街にごまんといる若者の姿もまず見かけない。

 

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「ドレミ・ジャンスルチプ」の外観。お世辞にも入りやすい雰囲気とは言えない

 

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1000ウォン(約100円)でマッコリを1杯飲むことができ、卓上のつまみを自由に食べることができるのは、もう一軒の立ち飲み屋と同じ。この店の主人(男性)はお年寄りの常連に大変気をつかうので、店内の状況によっては女性や若者の入店は断わられることも

 

 日本では80年代から、当時はまだ全国区ではなかった博多のモツ鍋を若い女性が好んで食べたり、電車が通るとガタガタ揺れるガード下の酒場で飲んだりしていたと聞く。最近では東京や大阪のドヤ街にある大衆酒場で、地元民と軽口を叩き合いながら飲んでいる若者の姿をYouTubeなどでよく見る。立ち飲み屋の数も韓国とは比べものにならないくらい多い。

 

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「ドレミ・ジャンスルチプ」の並び(南寄り)にある立ち飲み屋「トゥンスンイネ」。店先で飲んでいる女性は筆者

 

 日本の人たちは懐古趣味を極めたり、場違いなところで場違いなものを飲み食いしたりすることを楽しむという点において、韓国人のだいぶ先を行っている。

 我が国でレトロ趣味が芽生えたのはこの10年くらいのことだと思う。古臭く、洗練とは無縁だったマッコリがブームになったのが10年ほど前。近代建築を訪ね歩く人のブログが目立ってきたのもその頃だ。このコラムでもよく取り上げている世運商街という年季の入った住商複合ビルがホットスポットになったのはここ2、3年のことである。

 

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「トゥンスンイネ」は店の前面がカウンターのようになっていて、外でサッと飲んで帰ることもできる

 

鍾路3街の光と影 

 鍾路3街にある2軒の立ち飲み屋の客層は、そのまま鍾路3街という街の性格を表している。今はコロナ対策で閉鎖されているタプコル公園を見ればわかるように、このエリアは昼夜通して見れば今もお年寄りの街である。それも、時間はたっぷりあるが、ふところは豊かとは言えない人たちが多い。

 楽園商街のビルの脇にある2000ウォン定食の「ソムンナンチプ」をはじめ、あの辺りに薄利多売の食堂が並んでいるのは、そうした人たちをターゲットにしているからだ。

 鍾路3街駅3番出口の南側には、狭い範囲だがドヤ街も現存する。朝鮮戦争休戦後、我が国が世界最貧国のひとつだった頃にできた私娼街が、のちにドヤ街になったといわれている。

 若者が集まるおしゃれな益善洞(鍾路3街の中央部)を歩くだけでは見えてこない多くの物語が、この街にはある。

 前述の「ソムンナンチプ」も、20年くらい前は飲食店というよりまるで炊き出しのようだった。安くて旨い店には違いないのだが、周辺住民以外は少々利用しにくい雰囲気だったのだ。

 

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「ソムンナンチプ」は店先の大鍋でスープを煮ていて、今でも炊き出し感が残っている

 

 4、5年前、韓国の人気のど自慢番組の現役MCソン・ヘが「ソムンナンチプ」を推薦したり、管轄の鍾路区が鍾路3街のメインストリートである水標路をソン・ヘの道と名付けたりして親しみやすくなったことから、家族連れや女性客の姿も見られるようになった。

 そのうち、宗廟脇の立ち飲み屋にも、若者や女性が出現するかもしれない。

 

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鍾路3街駅5番出口の脇に建てられたソン・ヘの像。ソン・ヘは1927年、黄海道の海州に生まれ、朝鮮戦争のときに南側に渡ってきた苦労人。「ソムンナンチプ」の創業者(女性)もソン・ヘ同様、北側出身者だ

 

*シンポジウムのお知らせ

 11月23日(月・休)14時、本コラムの筆者が「食生活ジャーナリストの会」主催のシンポジウムにオンライン参加し、「コロナ時代の韓国の食文化」について話します。聴講のお申し込みは下記で。

http://www.jfj-net.com/11344?fbclid=IwAR3zIWwrrXH24moVoD4CSNla3z__JG_CIrVhVPfQWnO4WoVMoCGLcH8ndVM

 

*トークイベント&忘年会のお知らせ

 12月16日(金)夜、本コラムの筆者がソウル発のオンライントークライブ&忘年会を行います。お申し込みは21日(土)午前10時から下記のサイトで。

https://apeople.theshop.jp/

 

*講座のお知らせ

 2月7日(日)夕方、名古屋の栄中日文化センターで、本コラムの筆者がオンライン講座を行います。お申し込みは12月1日から下記のサイトで。

https://www.chunichi-culture.com/center/sakae/

 

 

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*筆者の近況はtwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でご覧いただけます。

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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