アジアは今日も薄曇り

アジアは今日も薄曇り

#12

沖縄の離島、路線バスの旅〈2〉久米島

文と写真・下川裕治 

久米島のバス2路線

 久米島行きのフェリーは、3時間ほどで久米島の兼城港に着いた。風は強かったが波は低く、穏やかな航海だった。僕は船酔いに弱い。船に乗るときは、いつも過去に乗った船の揺れを起こし不安になる。しかしその日の船は快適だった。乗客は20人ほど。絨毯を敷いた部屋で、毛布をかぶって寝る人が多かった。僕もそれに倣う。いつの間にか寝入ってしまった。

 沖縄の離島を走る路線バスにすべて乗る──。手はじめに渡った久米島のバス路線を見て、これは楽勝だと思った。

 久米島はそれほど大きな島ではない。島を一周する道路があり、そこを走るバスは40分ほどでまわってしまう。それと久米島空港に向かうバス。久米島のバスの路線は、この2路線である。もう1路線、島尻線という短い路線はあったが。

 

フェリーが久米島に近づいていく。島旅の気分、味わってください

 

 まず港から空港線に乗ることにした。バス停は港のターミナルから歩いて2分ほどのところにあった。

 やってきたバスには、数人の観光客が乗っていた。バスは港の周りに広がる古い集落を抜け、10分ほどで空港に着いた。そのバスが折り返すことになる。それに乗れば、空港線は乗りつぶすことができた。

 バスは久米島の町営だった。発車前、車両を見ると、「有償運送車両 自家用」と扉脇に書かれていた。沖縄の離島ではときどき目にするバスだった。これはもっと正確に表現すると、公共交通空白地有償運送という。つまり一般のバス会社は運行していないエリアに町や村がバスを運行させることをいう。この場合、自家用車も許されていた。運転手の免許にも特例があった。どことなく沖縄のゆるさとシンクロしてくる。運転手も私服でハンドルを握っていた。

 バスは再び、港の前を通り、何軒ものリゾートホテルがある一帯へと進んでいく。これに乗れば、距離では、久米島の路線の半分ほどに乗ったことになる。

 このバスは観光客向けに、何軒かのリゾートホテルをまわるルートを走った。そのため、同じ道を往復する区間も出てくる。そこにはバス停もある。そこでは往路でも復路でも乗り降りすることができた。

 このリゾートホテルエリアの入り口のような位置に、バスの営業所があった。時刻表では、この営業所が終点になっていた。しかし地図を見ると、リゾートエリアに行くには、この営業所の前を通る。

 運転手のおじさんに訊いてみた。

「このバスは営業所を通って、リゾートエリアに行くんですよね」

「そう、前を通る」

「そこで降りてもいいんですか」

「いいよー。停めますか?」

 僕は時刻表に視線を落とした。往路では停まらないことになっていた。こういうことは田舎のバスではあることだろう。しかし僕はその運賃で悩んでしまった。同じ道を往復するバスの運賃が、運賃表を見てもよくわからないのだ。久米島の乗客たちはそれを気にしないのだろうか。運賃が高いわけではないが。

 代金で悩むとき、いつも一軒の沖縄そば屋を思い出す。その店は自動販売機で食券を買うシステムだった。そこに「ふーちばそば」があった。普通のそばより50円高かった。「ふーちば」とはヨモギのことだ。ところが席につくと、テーブルの上には、食べ放題の「ふーちば」が置かれているのだ。こういうことに沖縄の人は悩まないのだろうか。

 

DSCN2530

久米島のバスを制覇する旅は、このホテルガーデンヒルズ前というバス停からはじまった

 

 なんとなくすっきりしないまま、翌朝、短い路線である島尻線に乗った。1日に3便の路線である。朝の7時半に営業所を発車する。発車時刻を5分ほどすぎたとき、軽自動車が現れた。そのハンドルを握っていたのがバスの運転手だった。鮮やかなオレンジ色のナイキのシューズを履いたおじさんだった。

 乗客は僕と中田浩資カメラマンだけだった。10分ほど走ると終点の島尻集落。そこでランドセル姿の男子小学生が乗ってきた。彼のために運行しているバスに映る。そこから迷走がはじまる。いや、久米島のバスはいろいろと考えて路線を決めているのかもしれないが、僕の頭のなかは混乱するばかりだった。

 小学生を仲里小学校で降ろした。そこからバスは島を右まわりで進みはじめた。バスには左まわりと書いてある。途中、3人が乗ってきた。8時に真謝公民館に着いた。と、バスはここでUターン。来た道を戻りはじめる。このまま乗っていれば、右まわりで島を一周できると思っていた僕は慌てた。運転手に訊いてみる。

「これは左まわりで島をまわるバスになったんです」

「じゃあ、営業所で降ろしてください」

「いや、営業所はもう停まりません」

 仲里庁舎前で降ろしてもらい、サトウキビ畑のなかの農道を歩いて営業所に戻った。30分近く待った。すると、朝、乗ったバスがやってきた。運転手も同じだ。

「今度は右まわりで走るよー」

 こうして久米島の全バス路線を制覇したのだった。

 

DSCN2536

何回となくバスをまった営業所。職員は誰もいません。運転手の休憩所のようなもの

 

久米島バス路線

 

(次回に続きます)

 

 

●好評発売中!

双葉文庫『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』

発行:双葉社 定価:本体657円+税

 

東南アジア全鉄道2書影

 

*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

se-asia00_writer

著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

紀行エッセイガイド好評発売中!!

東南アジア全鉄道制覇1cover

東南アジア全鉄道制覇の旅

タイ・ミャンマー迷走編

se-asia00_book01

鈍行列車のアジア旅

se-asia00_book02

不思議列車がアジアを走る

se-asia00_book03

一両列車のゆるり旅

アジアは今日も薄曇り
バックナンバー

その他の辺境・秘境の旅

ページトップアンカー