日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

日本一おいしい!沖縄の肉食グルメ旅

#12

ワインバーでセルベルを~『ブーシェ』

文・藤井誠二

 

フレンチの内臓料理とは?

『モツ・キュイジーヌ──レストランの内蔵料理』(柴田書店)という分厚い大判本(内臓料理写真集)を、ぼくはたまに開く。「キュイジーヌ」とはフランス語で厨房とか台所という意味で、フレンチの内臓料理を得意とする名シェフたちが、内臓料理について熱い思いと、レシピを公開している。この写真集におさめられている美しい内臓料理の数々を見ていると、自分も内臓を買ってきて調理に挑戦しようとは思わないけれど、内臓をいかに丁寧に扱い、美味く調理し、余すところなく食い尽くすかという、料理人の気迫や気概がびんびん伝わってくる。一節を引用したい。

《冷凍・冷蔵機器の進歩、流通の発達によって新鮮なものが手にはいるようになったこと。そして、仕入れてすぐに内臓を被う膜を取ったり、血抜きしたり、ブランシールをしておけば、ある程度日もちがすることから、内臓というだけであまた身構えず、もっと自由に使ってもいいのではないかと思います。新鮮なものが手に入れば、一般的に臭いと思われている腎臓などでも、嫌な匂いを感じません。そういったフレッシュな内臓を前にすると、内臓は臭いのではなく、個性的な"香り"があるのだということを実感しますし、その香りを消し過ぎず、上手に生かしながらひと皿をつくりあげることが大切なのだと感じます。》(同書より引用/『ル・ブルギニオン』菊地美升氏コメント)

 ブランシールとは「白くする」という意味で、沸騰したお湯で短時間加熱をすることだ。そうすると半生のような状態になり、肉の色が白っぽく変わる。多くの内臓肉は仕込みの段階で、汚れを落としたり、旨みを閉じ込める方法としてもさっとボイルすることが多い。

 それにしても、「フレンチの内臓料理」について、「内臓の香り」とは粋な言い方をするもんだ。匂いではなく、香り。部位によって異なる味や歯ごたえ。料理人にとって、これほどバラエティにとんだ食材はないのではないかと実感させられる。そして、『大西亭』の大西敏雄氏は、フランス料理は料理人の「攻める」姿勢が大事であると書いている。こんな食わせ方があるのか、という感動を食べる側が与えられる料理はたしかにすばらしく美味い。料理人の技巧が凝らされているからだ。

 

 

那覇・栄町のワインバー『ブーシェ』

 那覇・栄町にあるモツをメインにしたフレンチ『ワイン酒場 BOUCHER(ブーシェ)ブーシェ』は今年(2016)の11月でオープンして3年になる。栄町の路地をはいったところにある、老朽化した、いわゆるスナックビルの中にある。『ブーシェ』も、もとは『峠』という、ベタな郷愁感あふれるスナックだった。そこをリノベーションして、ビルの外観からは想像できない、ハイセンスかつ落ち着きのあるレストランに変貌を遂げた。さきの名シェフが書いたようなフレンチモツの美味さが那覇・栄町で、それも安価で確認することができるのである。

 

okinawa12_01ブーシェ 入り口

『ブーシェ』の入っているビル、表の立て看板が目印

 

okinawa12_02栄町ブーシェ

『ブーシェ』の入口。元はスナックだった

 

 ぼくはオープン当初、この店で豚の脳のパイ包み焼き、セルベルを食べた。初めての経験だった。酸味の効いたトマトソースと濃厚な鱈の白子のような脳が、香ばしく焼き上げたパイ生地と相まった逸品である。行くたびにこの皿はかならずいただくことにしているのだが、豚の脳は業者にとって頭蓋を割って取り出すのが一仕事なので、なかなか確保しにくいのが一般的だ。が、ブーシェは切らしたことがない。そういった仕入れルートを確保しているのもすごいなと思う。一見の客も珍しさからか、セルベルを頼むことが多いという。

 

okinawa12_03セルベルの包み焼き1200

セルベルの包み焼き(豚の脳みそをコーン生地で包み焼きしたもの)、1200円

 

 店を切り盛りするのは、那覇出身の佐渡山力さんと桃原義也さんで、佐渡山さんが接客、桃原さんが調理を担当する。二人は小学校・中学校の同級生。仲良くなったのはじつは二十歳からで、たまたま自動車学校でばったり会い、同じ飲食店でも偶然に一緒に働きだしたのだという。そうこうするうちに、「店やりたいね」と意気投合、プランを本格化させてから3年でオープンできた。桃原さんは肉関係の飲食店で腕を磨き、那覇のフレンチの有名店や内地でも勉強した。佐渡山さんはバーで働いて勉強を積んだ。いま二人は38歳になる。

 どうしてモツフレンチという、どちらかというとマニアックな店をやるに至ったのか佐渡山さんに聞いてみると、

「ぼくらはよくモツをふたりで食べにいきました。歳とってから、ホルモンにうまさがわかるようになったんです。栄町にはいろいろな料理屋さんがありますが、モツのフレンチはなかったんです。(笑) でも、勝算は正直なかったです。豚の脳味噌はフランスのマルシェ(市場)で売られていて、ポビュラーなんですが……」

 と言って笑った。

 

okinawa12_04佐渡山力(左)さん、桃原義也さん(右)

佐渡山力(左)さんと桃原義也さん(右)

 

 席に着くと、お通しのガスパチョ(トマトベースのスペイン風冷製スープ)が小さなグラスに入って供される。沖縄の暑さと湿気で疲れた体に、スパイスが効いたガスパチョが染み入る。ちいさなスプーンがついてくるけど、ぼくは使わずにグラスからグビリと口の中へ流し込んで、冷えたワインをごくっと飲む。さあ、スタートだ。

 

okinawa12_05つきだし(ガスパチョ)

お通しのガスパチョ

 

 数人で行ったら、炙りユッケ、ハツたたき、 ブーダン・ノワールあたりから食べ始めたらいい。ブーダン・ノワール、すなわち豚の血はソーセージスタイルではなく、デリケートなテリーヌだ。すりおろしたリンゴソースをあわせる。炒められた背脂、玉ねぎ、ニンニクがアクセントになっていて、ワインがどんどん進む。

 

okinawa12_06牛ハラミ炙りユッケ680円

牛ハラミの炙りユッケ、680円

 

okinawa12_07牛ハツのローストタタキ仕立880円

牛ハツのロースト タタキ仕立て、880円

 

okinawa12_08ブーシェ ブーダンノワールのテリーヌ仕立て

ブーダン・ノワールのテリーヌ仕立て、500円

 

 熱々のモツグラタン。モツグラタンはアカセンマイ(牛の三番目の胃)を生の状態から丁寧に下処理をして、長時間煮込んでやらかくする。

 そして、アンディエット。豚の直腸の皮に豚の内臓各種を粗く刻んで詰めていく。つなぎをほとんどつかっていないので、ナイフをいれると、肉がぼろぼろと出てくる。それをマッシュポテトといっしょに食べると、内臓の旨みがガツンとくる。

 タブリエ・ド・サプール。牛の第二胃袋(ハチノス)のカツレツだ。リヨンの名物料理だが、その形が城に仕える工兵の皮製エプロンに似ていることに、名前の由来がある。ハチノスの、まさに「香り」と独特の歯ごたえが堪能できる。ハチノスは、トマトで煮込んだトリップ(イタリア語ではトリッパ)で味わうのもいい。

 

okinawa12_09牛モツグラタン580円

熱々がおいしい牛モツグラタン、580円

 

okinawa12_10アンデュイェット 豚直腸に豚の内臓を詰め込んだソーセージ780円

アンデュイェット(豚直腸に豚の内臓を詰め込んだソーセージ)、780円

 

okinawa12_11タブリエ・ド・サプール 牛の第二胃(ハチノス)のカツレツ680円

タブリエ・ド・サプールは牛の第二胃(ハチノス)のカツレツ、680円

 

okinawa12_16トリップのトマト煮込み780円

トリップのトマト煮込み、780円

 

 

栄町は沖縄一のグルメタウン

「栄町の飲食店のネットワークにはほんとうにお世話になりました。30~40歳ぐらいのオーナーさんがやっている個人店の間で、美味いモツフレンチの店ができたよって、お客さんに伝えてくれたんです。口コミです。沖縄ならではのユイマール(相互補助)ですかね。沖縄で受け入れられる自信はなかったから、ほんとうにありがたかった。

 店から店へ人が流れていく動線が栄町にはいくつもあるんです。何軒もまわって、うちに帰ってくるお客さんもいますよ。うちは夕方6時から朝4~5時まであけてますから。ただし、遅い時間はメニューを限定してますけれど」(『ブーシェ』佐渡山さん)

 ぼくもモツ焼きの名店となった『アラコヤ』のオーナー松川英樹さんから『ブーシェ』がオープンしたことを聞き、すぐに駆けつけたクチだ。何を隠そう、アラコヤをことを最初にメディアで取り上げたのはぼくなのだが──ちょっと自慢──栄町の才気あふれる料理人たちのネットワークはほんとうにアタマが下がる。特定の店だけが儲けようとするのではなく、馴染みの客をあちこちの店に紹介して「回す」のである。そのネットワークで紹介された店はどこに行ってもまちがいない美味い。栄町を夕方の早い時間から回遊すると、気づくと4~5軒で飲み食いしている。

 料理人のほうも、栄町のどこかの店で働いて、栄町で独立することが多い。沖縄出身者もいれば、移住者も多い。栄町で店が成功すると、二号店も栄町内で出す。佐渡山さんは「動線」と言ったが、それが無数にできつつあるのだ。料理人のほうも休日は栄町のどこかの店で飲んでいる。町全体に血液が循環していくようなネットワークができあがっているのだ。まさに共栄という理念を堅苦しくなく、さらりと体現している彼らは、栄町を再生させている。ぼくが一度でも顔を出したことがある店だけでも数十軒ある。どの店も個性派で、味も裏切らない。

 ブーシェには肉以外にも、その折々でメニューは変わるけれど、魚のカルパッチョもある。ぼくがいままで食べたのは、シルユー(白鯛)や鰯などだが、ブーシェのどの皿にも料理人の丁寧で繊細なテクニックとセンスが感じられる。ワインもフルボトルで2000円台からあり、安心してガブ飲みできる。グルメタウン、などという言葉はこっぱずかしいので使ったことがなかったが、あえて使おう。栄町は沖縄一のグルメタウンだと断言したい。栄町の夜は味わい深く、長いのだ。

 

okinawa12_13シルユー(白鯛)のカルパッチョ

シルユー(白鯛)のカルパッチョ、680円。ただし、魚のメニューはそのときの仕入れによって変わる

 

okinawa12_12小羊のロースト2本1300円

仔羊のロースト(2本)、1300円

 

okinawa12_15ワインに合うカレーライス780円

こちらもおすすめ。ワインに合うカレーライス、780円

 

*   『ワイン酒場 BOUCHER(ブーシェ)』のフェイスブック→https://www.facebook.com/%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E9%85%92%E5%A0%B4BOUCHER-184837898372338/

 

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落ち着いた内装の『ブーシェ』

 

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お店の前で。筆者と佐渡山さん

 

 

*本連載は、仲村清司、藤井誠二、普久原朝充の3人が交代で執筆します。記事は月2回(第1週&第3週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*本連載の前シリーズ『爆笑鼎談 沖縄ホルモン迷走紀行』のバックナンバーは、 双葉社WEBマガジン『カラフル』でお読みいただけます。

 

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仲村清司(なかむら きよし)

作家、沖縄大学客員教授。1958年、大阪市生まれのウチナーンチュ二世。1996年、那覇市に移住。著書に『本音の沖縄問題』『本音で語る沖縄史』『島猫と歩く那覇スージぐゎー』『沖縄学』『ほんとうは怖い沖縄』『沖縄うまいもん図鑑』、共著に『これが沖縄の生きる道』『沖縄のハ・テ・ナ!?』など多数。現在「沖縄の昭和食」について調査中。

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藤井誠二(ふじい せいじ)

ノンフィクションライター。1965年、愛知県生まれ。8年ほど前から沖縄と東京の往復生活を送っている。『人を殺してみたかった』『体罰はなぜなくならないのか』『アフター・ザ・クライム』など著書や対談本多数。「漫画アクション」連載のホルモン食べ歩きコラムは『三ツ星人生ホルモン』『一生に一度は喰いたいホルモン』の2冊にまとめた。沖縄の壊滅しつつある売買春街の戦後史と内実を描いたノンフィクション作品『沖縄アンダーグラウンド』を2016年内に刊行予定。

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普久原朝充(ふくはら ときみつ)

建築士。1979年、沖縄県那覇市生まれ。アトリエNOA、クロトンなどの県内の設計事務所を転々としつつ、設計・監理などの実務に従事している。街歩き、読書、写真などの趣味の延長で、戦後の沖縄の都市の変遷などを調べている。最近、仲村と藤井との付き合いの中で沖縄の伝統的な豚食文化に疑問を持ち、あらためて沖縄の食文化を学び直している。

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