日常にある「非日常系」考古旅

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#12

盗掘散歩――世界遺産から「裏社会」を考える(1)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

古墳に群がる人間の欲望

 

 

 今年の8月の終わり頃、私は大阪でトークイベントを開催していた。新刊の自著が発売されたタイミングでは恒例の行事となっていることなのだが、イベントは3日間連続で、さすがに疲労困憊。いつもは終わったらその足で東京に帰るのだが、私はそのまま延泊して “ハイブリッド考古学”のためのフィールドワークを行うことにしていた。

 この調査のために、ちょいちょい登場する編集Sさんに無理を言って本連載の更新を遅らせてもらっていたこともあって、体力云々を理由に調査を延期するわけにもいかなかったのだ。

 

 無理やり体を叩き起こして向かったのは、この年の7月、世界文化遺産に正式登録された「百舌鳥・古市古墳群」である。これは、大阪府堺市、羽曳野市、藤井寺市にある45件49基の古墳群の総称で、その中には、エジプトのクフ王のピラミッド、中国の秦の始皇帝陵と並んで「世界三大墳墓」の一つといわれる日本最大の古墳・大仙陵古墳(仁徳天皇陵)も含まれている。

 前回お話しした私の目的のために、なぜ百舌鳥・古市古墳群を訪れることにしたのか――。そのキーワードとなるのは、前回お伝えした通り、「盗掘」に関係している。まずは、その理由にたどり着くまでのことをお話したい。

 

 

陵墓に群がる黒い影

 

 

 考古学と裏社会――。一見、交わることのないこの二つの分野を融合させ、ハイブリッドな視点で考古学にアプローチしたい。そんなことを考えたとき、真っ先に思い浮かんだ両者の接点が、「盗掘」だった。

 

 学生時代、発掘調査の現場で実際に盗掘の跡を目の当たりにしたときに感じたアンダーグラウンドな匂い。それが忘れられなかった私は、考古学を専攻していながら、科学的な年代測定でもなければ、土器の編年研究でも、古墳の墳丘の研究をするわけでもなく、本来なら研究対象として主流とはいえないような分野であるはずの盗掘に心を惹かれ続けたのだ。

 そんな感情は現在も変わらない。今になってみると、盗掘にこそ、私のやろうとすることのヒントが潜むと考えるようになっている。だが、これはただ単に直感だけで思い至ったわけではない。そこには長年、裏社会を取材してきた私なりのロジックがあるのだ。

 なぜ盗掘がされるのか、つまり、盗掘者たちは何を狙って盗掘をするのか。その目的は、もちろん副葬品である。盗掘の歴史を紐解いていくと、古鏡、玉類、太刀などの武具、装身具といったものが盗み出されていることがわかる。

 ここで重要なのは、盗み出す動機や目的だ。考えられるのは、

 

(1)研究・コレクションのため

(2)金銭目的で売るため

 

 この2つだろう。

 

 このうち、(1)の場合は、自分の収集欲や学問的な好奇心から入手するのだから、その後、世に出ることはまずないだろう。その目的は持ち主が満足するためのものであるため、コレクションを誰かに見せびらかす必要もなければ、手放す必要もないからだ。道徳的な観点からすれば決して許されることではないが、これだけではそこに裏社会は発生しない。ただし、これは(1)が自分で盗掘した場合の話。(1)が自分で掘らずに、第三者が持ってきたものを買う場合には、そこに商売が生まれる。それを食い物にするのが(2)の連中だ。(1)がいるから、(2)が盗掘する。そういう関係が成り立っているのだ。

 

【盗掘者→ブローカー→コレクター】=【古美術品のブラック・マーケット】

 

 これこそが最小規模のブラック・マーケット(違法市場)なのである。この構造は時代も場所も問わずに成り立つと私は考えている。考古学や古美術の専門などから異論反論が出るかもしれないが、取引が公明正大にできないものであればあるほど、闇の商売というのは活発にもなるし、その取引は大きなものになっていく。それが、裏社会を取材し続けてきた私なりの持論である。

 国内でも実際に、そんな事例がある。1917年、大正時代の奈良県で起きた大規模な盗掘事件だ。垂仁天皇の皇后であった日葉酢媛命(ひばすめのみこと)の陵墓といわれる狹木之寺間陵(さきのてらまのみささぎ)で、大量の遺物が盗掘されたうえに、骨董商へと売却されていたというもの。この事件には10人以上もの盗掘団が暗躍していたことから、当時の新聞に大々的に取り上げられ、裁判記録も残っている。

 盗掘という観点からは興味深い事件だ。この事件からも、考古学と裏社会を結びつける存在が見て取れる。

 

 盗掘団と骨董商。ブローカーとなる骨董商がいるのだから、顧客がその向こうにいるのは言うまでもない。と同時に、わが国では昔から盗掘が商売として成り立っていたこともわかる。この事件は今から100年以上も前のことだ。非常にシンプルながら、さきほど示したブラック・マーケットがすでに存在していたということになる。

 このほかにも各種文献から、さらに古い時代であっても盗掘されていたということがわかっている。古代遺跡を狙った盗掘は、規模の大小に関係なく無数に行われてきた。存在を知られる前に盗掘されてしまったり、学術調査がなされるはるか前に盗掘されてしまったりすることも珍しくはない。そういった盗掘の痕跡は各地に残っている。

 そして、もう一つ興味深いことがある。それは、この事件の起きた古墳が陵墓、つまり、皇族の墓所であるということだ。収集家たちにとってコレクションの価値基準は、その遺物がどこから出土したかということが大きい。つまり、どれだけ付加価値の高い墳墓から盗掘するかによって盗掘品の値段も変わってくる。そうなると、前出(2)の盗掘者が陵墓を狙うのは自然な流れだろう。そこに埋葬された人物が生前に特別であればあるほど、盗掘者に狙われるのだ。実際に、江戸時代やそれ以前の時代の文献にも、陵墓にまつわる盗掘の詳細な記録はいくつも残っている。

 

 考古学と裏社会の接点、そして、古代から続く裏社会の実態を知るためには、まず陵墓を見て回ることが、私の目指すハイブリッド考古学の第一歩なのである。

 

 

先人への畏敬なき爪痕

 

 

 そして、人間は、お金のためだったら墓を暴くことすらいとわない。それほどまでに人間の欲は恐ろしい。それがどれほどの行為に至るのか。それを知るためのダークツーリズムとして見ておきたい場所があった。それが、今回この世界遺産に来た、具体的な理由の一つでもある。

 百舌鳥・古市古墳群を形成する墳墓の一つである「いたすけ古墳」。仁徳天皇陵から徒歩圏内にある国指定史跡で、墳丘長は約146メートルと、巨大古墳といっても差し支えない規模の古墳である。それほどの古墳である割には無名で、訪れる人もほとんどいない場所になっている。

 このいたすけ古墳には“黒歴史”がある。昭和30年(1955年)頃、当時、私有地であったこの古墳は、住宅造成と土の採取のために墳丘が崩されそうになったのだ。この破壊騒動で、マイナーだったいたすけ古墳は一躍、有名になった。いくら文化財に関する認識が甘い時代だったとはいえ、古墳を住宅造成の資材に転用するなど、いまではとても考えられない。

 そこには、陵墓であるかどうかという前に、先人への畏敬の念の喪失があり、現世の自分たちの利益を優先するという考えしか見当たらない。そうでなければ、とてもではないが1000年以上も形をとどめてきた遺跡を破壊しようとは思わないだろう。

 結果的に古墳の破壊は免れたが、正確には墳丘の樹木の伐採までは実行されており、今でもGoogle Earthなどの航空写真で見ると、墳丘の半分ぐらいがハゲ山のようになっている。

 これに立ち上がったのは、地元住人たちだった。自治体がストップしたわけではない。むしろ自治体は、古墳が破壊されようとしていたときに何もできなかった。文化財保護云々の前に予算がなく、土地を買い戻すことができなかったからだ。市民運動によって破壊が中断された結果、いたすけ古墳は、堺市の文化財保護のシンボルと呼ばれるようになったのだという。

 住宅地の中に突如として現れる巨大墳墓。そこが周囲の古墳群のひとつでありながらも市民運動から始まった遺跡保存の象徴であったことを窺い知る要素は、ほぼ残っていなかったが、それでも周囲を歩いていると、周濠(墳丘周囲のお堀)の水面から橋脚の残骸が顔を出していた。土を削るために造られた橋であることはすぐにわかった。

 重機の搬入用に造られたこの橋は、開発が中止になってからも取り外されることはなかったのだ。撤去されることもなく時の経過のままに朽ち果てていた。

 遺跡を破壊するためだけに造られた建造物。その目的が失われてしまったことで、負の遺産となった、この残骸を眺めていると、その姿が人間の欲深さをあざ笑っているかのように感じられた。

 

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いたすけ古墳にかかっていた橋脚の残骸。いまもその姿を見ることができる。

 

 大きな古墳のそばには、「陪塚」と呼ばれる小規模な古墳がある。これは、大きな古墳の被葬者の近親者や部下、従者などを葬ったとされるものだ。このいたすけ古墳の周辺にも、陪塚がいくつかあったといわれるが、現在は善右ヱ門古墳以外、すべて消滅している。

 もし私が古墳を盗掘するとしたら、真っ先に狙うのは陪塚だろう。なぜなら、この陪塚にも間違いなく副葬品は収められている。金になる副葬品を掘り出すのに、わざわざ堀を渡って行く必要もないし、規模が小さいので簡単に掘り出すことできる。

 実際に見てみると、善右ヱ門古墳には盗掘痕らしき土の崩れが見受けられた。人間の考えることは時代に関係なく同じなのだ。

 

 


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 さて、単なるダークツーリズムであれば、古墳の土すらも金にしようとする人間の貪欲さに触れたということで締めてしまってもいいものだが、私がやりたいハイブリット考古学のためには、もう一歩踏み込んでおく必要がある。

 もし私がこの古墳を盗掘するとしたらどうするだろうか……。それを実際にシミュレーションしてみたい。それが、ここに来た最大の理由だ。その目的を達成するために私は、いたすけ古墳を後にし、実際に盗掘されたことのある陵墓・履中天皇陵へと足を向けた。

 

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)、『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中 』(光文社新書)、『危険地帯潜入調査報告書』(丸山 ゴンザレス、 村田 らむ共著/竹書房) が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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