台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#117

「台湾ロス」の皆さんへ〈8〉忘れられない旅 馬祖編(1)

文・光瀬憲子

 私はグーグルマップのヘビーユーザーだ。台湾旅行中、行きたい場所や訪れた店に星印を付けて保存しているため、私のデジタル台湾マップには無数の星が散りばめられている。

 そのなかで、ちょっと自慢なのは中国大陸の目と鼻の先にある、もっとも中国に近い台湾、馬祖(マソ)に星印がついていることだ。ここは台湾人でもあまり訪れない僻地の離島。

 今回から数回に分けて、そんな馬祖の旅を振り返ってみたい。コロナ明けの島旅を夢想しながら、みなさんと旅情を共有できたらうれしい。

 

001

002

前の晩、基隆港を出た台馬輪フェリーから馬祖の島々を望む。台馬輪は現在、東引⇔南竿などの短距離で運行され、基隆⇔東引、基隆⇔南竿などの長距離は新たに台馬之星が就航している

 

台北から空路で1時間、海路1泊で10時間 

 台湾人でも馬祖へ行く人が少ないのは、安価な船だと約10時間というアクセスの悪さもあるが、長らく軍事基地だったことが大きい。中国側からの攻撃に備えて、馬祖にはピーク時で3万人を超える軍人が駐屯していた。今はその規模が十分の一以下に縮小されて、観光地として人気を集めつつある。

 台風シーズンの9月は船旅に適さないので、10月になるのを待って馬祖への旅に出た。10月から11月が馬祖のベストシーズンだという。船は日本のおさがりであちこち錆びついた船だったが、それが逆に風情だった。

 夜の11時過ぎ、基隆港からボオオオオという汽笛の音とともに出港する。深酒したときのような、ふわふわした船の揺れが心地よい。硬くて幅の狭いベッドの寝心地はいまいちだが、それよりもまだ見ぬ馬祖への期待が大きかったため、眠りは浅かった。

 馬祖はいまだに軍事基地があるため、迷彩服の若者も船に乗っている。馬祖に近づくと、島の目立つところにまるで広告看板のように「枕戈待旦」という文字が浮かび上がる。「枕元に戈(ほこ)を置いて日の出を待て」という意味で、眠る時も中国本土からの攻撃に備えて油断するな、ということだ。

 私はこの4文字がプリントされた白い茶碗を馬祖土産に購入し、自宅で使っている。台湾の友人に見せたら「おちおち食事もできないね」と笑われた。台湾人にとって、馬祖はやはり観光地というより、最後の砦というイメージが強いようだ。

 

003

馬祖の島々では軍服姿の男女が乗り降りしていた

 

 夜明けとともに到着した馬祖の島々は、霧の中に浮かぶ異国の地のようで、幻想的だった。台湾からの距離がそのまま、文化や風土の違いを反映しているようだ。

 

馬祖列島のひとつ、南竿で下船し、船を乗り換えて北竿へ 

 観光地化されたものの、それほど多くの観光客が押し寄せるわけでもない馬祖は、のんびりした漁港の町といった雰囲気。いくつもの島が集まって馬祖を構成していて、もっとも大きいのが南竿という島だ。基隆からのフェリーもここに到着する。島から島への移動はおよそ1時間おきに往来する小さなフェリーだ。私は北竿にある宿まで再び小さなフェリーで移動した。


004大きく5つの島から成る馬祖。島から島への移動は船なので、帰りの便に気をつけないと宿まで帰れなくなる

 

 北竿の宿は、ヨーロッパを思わせるような石畳に建てられた古い民家を改装したもの。まるでジブリ映画のように、時代設定や場所がわからない不思議な世界に紛れ込んだ気がする。宿の外に立つと、向こう岸に中国大陸が見える。船で30分もかからないそうだ。泳いでも渡れてしまいそうな距離感になんだかそわそわする。海辺の宿は静かで、夜は波の音しか聞こえない。出歩こうにもあたりは真っ暗で、コンビニどころか街灯すらない。馬祖では早く寝て、日の出とともに起き出すのがよさそうだ。

 

005

006

古民家を改装した北竿の宿。海の向こうに中国大陸を望みながら、波の音しかしない静かな夜が過ごせる

 

(つづく)

 

*文庫『台湾一周!! 途中下車、美味しい旅』好評発売中!!

 著者の新刊が双葉文庫より好評発売中です。『台湾一周‼ 途中下車、美味しい旅』、全国の書店、インターネット書店でぜひお買い求めください。

 

カバーA04

双葉文庫『台湾一周‼ 途中下車、美味しい旅』

著:光瀬憲子 定価:本体700円+税

 

*本連載は月2回(第2週&第4週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

taiwan_profile_new

著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

紀行エッセイガイド好評発売中!!

taiwan00_book01

台湾一周! 安旨食堂の旅

taiwan00_book02

台湾縦断! 人情食堂と美景の旅

isbn978-4-575-31183-9

台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅

ISBN978-4-575-71470-8

台湾グルメ350品! 食べ歩き事典

台湾の人情食堂
バックナンバー

その他のアジアの人情グルメ

ページトップアンカー