台湾の人情食堂

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#116

台湾のことば〈5〉

文・光瀬憲子

 台湾で使われている言葉についてシリーズでお伝えしてきたが、今回はそのルーツである中国大陸の言葉について書いてみたい。

 台湾で使われている国語(北京語)も台湾語も客家語も、もともとは中国大陸の言葉であり、すべてをひっくるめて「中国語」と呼んでいる。それでは、台湾と中国の関係を、言葉を通して見てみよう。

 

上海で台湾の国語(北京語)は通じる? 

 私は台湾で7年暮らしたあと、娘と当時の夫とともに上海に移り住んだ時期がある。日本語が通じ、日本の物であふれている台湾でのんびり暮らしていた私だが、中国での暮らしはそう甘くはなかった。

 私の前にたちはだかったのは言葉の壁である。中国でも台湾でも同じ北京語が使われているが、発音、イントネーション、使う単語などが微妙に異なる。中国本土の中でも北と南、西と東では大きく異なるので、大陸と台湾は違ってあたりまえ。同じ北京語でも大陸の北京語と台湾の北京語は相互に方言のようなもので、北京で話されているのが関東弁なら、台湾で話されているのは関西弁くらいの距離感があった気がする。意思疎通に不自由はないが、ときどき、たがいに「変わった単語を使うなあ」と感じる。

 

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中国全土で北京語は共通語。使われているのは簡体字と呼ばれる簡易文字。これが案外、台湾人にとってハードルが高く、「読めない」という人が多い

 

 また、イントネーションや巻き舌具合などが異なるので、日本で関西弁を使う人を「関西人」とすぐ認識できるように、台湾出身者は大陸ではすぐ「台湾人」とわかってしまう。

 

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中国本土で販売されている「台湾焼き芋」の看板。繁体字を使うことで台湾らしさを出しているようだ

 

 台湾では台湾語が使われていて、それは北京語とまったく違うということはすでにお話しした。それと同じことが、中国上海でも起こっていて、上海人は北京語と上海語を使い分けている。

 上海に移り住んだばかりの頃、台湾に住み始めたときと同じように、人々が北京語ではない不思議な言葉を使っていることに気づき、それが上海語だと知った。中国は地域ごとに独自の言葉があるのだな。複雑だなあ。

 私は、上海語を覚えることは諦めたが、まだ3歳だった娘はなんと、北京語、日本語、台湾語、上海語を同時に身につけ始めた。それぞれとても簡単な単語ばかりだったが、バイリンガルを通り越して、いわばマルチリンガルである。本人はそんな意識は毛頭なく、話す対象によって使い分けていたらしい。ママと話すときは日本語、パパと話す時は台湾語、幼稚園の先生と話すときは上海語、といった具合だ。ママやパパと話すときの言葉は、幼稚園では使えない、という事実をぼんやりと理解していた。日本で、日本語だけで過ごしてきた者にとっては気の遠くなるような話だが、言葉というものは子供の頃ならかなり柔軟に吸収できるものらしい。

 上海は近隣州からの出稼ぎ労働者がとても多く、上海語が堪能かどうかで生粋の上海人かよそ者かを見分けるという暗黙のルールがあった。上海語ができることはある種のステータスなのだ。

 

北京語より台湾語が通じる福建地方 

 台湾で話されている台湾語のルーツは中国南部の福建省。このため、福建地方に行くと、北京語よりも台湾語がよく通じる、という現象が起こる。いったい、中国にはいくつ言葉があるのか? という疑問が頭をよぎる。

 中国語には7大方言が存在すると言われる。方言といっても、あまりにかけ離れていて、たがいにほとんど通じない。7大方言の代表格がいわゆる「北京語」で、中国北部の共通言語だ。次が香港やマカオ、中国南部で話されている広東語である。これ以外に、上海語系列、福建語系列(台湾語もこれに含まれる)、客家語などがある。

 

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香港では今も繁体字が使われているが、英語が混在しているのも元英国領の香港らしいところ。香港では今も北京語より広東語がよく通じる

 

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台湾の北端、中国大陸に近い馬祖列島では福建語が使われている

 

 だが、北方に朝鮮語を話す人達(朝鮮族=朝鮮系中国人)がいるし、内陸の四川や雲南でもさらに分岐した言葉が話されている。これだけ言葉も文化も違う民族を、よく統一したものだと逆に驚いてしまうほどだ。

 

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朝鮮族の多い吉林省(中国東北部)の延辺朝鮮族自治州。商業看板は北京語と朝鮮語の併記が義務付けられている

 

 話を北京語に戻すと、あまりに多くの言葉があるにも関わらず、みなが「北京語」という共通語でつながっているために、台湾と中国のビジネスは切っても切れない関係だし、中国人旅行者は台湾で何不自由なく観光を楽しむことができる。

 台湾独自のカラーを押し出す蔡英文総統の時代になると、台湾の街から中国人旅行者は消えた。台湾で新型コロナが大流行しなかったのは、中国人旅行者がいなかったことも関連しているだろう。だが、世の中が落ち着いたら、中国本土、香港、台湾の人々がまた自由に往来し、共通語を話したり、ときにはたがいの言葉を教え合ったりしながら笑い合える日が来ることを祈りたい。

 

(おわり)

※写真は上から5枚目までが、香港や深センで撮影

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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