台湾の人情食堂

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#115

台湾のことば〈4〉

文・光瀬憲子

 台湾で話されている言葉について説くシリーズの4回目は、台湾人たちの母語について。これまで台湾語とは何か? 国語(北京語)とは何か? その2つはどう使い分けられているのかを解説してきた。今回は時代とともに変化する台湾人の言葉への思いについて語りたい。

 

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国語(北京語)を耳にする機会が圧倒的に多い首都台北。写真は台北駅

 

台湾人の語学教育 

 台湾人は日本びいきだとよくいわれるが、それ以上に欧米崇拝の傾向が強い。私が台湾に暮らしていた90年代は、アメリカへの留学や移住に憧れる台湾人がとても多かった。そのため、台湾語よりも国語よりも、とにかく英語をマスターしなければ! やるなら小さい頃からだ! という流れが顕著になり、その結果、国語と英語のバイリンガル幼稚園が急増した。

 ちょうど私と台湾人の元夫との間に生まれた娘が幼稚園に上がる頃で、どの幼稚園に入れようかと迷っていたところだったのだが、英語教育に力を入れていることをアピールする幼稚園が多くて驚いてしまった。

 90年代の台湾の子どもたちは、家庭では両親の話す言葉を使うが、幼稚園では英語を学び、小学校で国語(北京語)を学ぶ。そうすると、小学校を卒業する頃にはどれも中途半端になってしまい、特に母語を忘れる子どもたちが多かった。両親とはかろうじて国語で話せるものの、母語しか話せない祖父母とは言葉が通じなくなるケースもあった。

 台湾人にとっての母語は、その種族や文化的背景によって異なる。中国大陸南部から台湾に移住した人たちは台湾語を母語としているが、客家人たちは客家語、そして、もともと台湾に暮らす先住民たちはそれぞれの部族の言葉を母語としている。台湾には16部族以上の先住民が暮らしており、言葉もそれぞれ異なる。

 

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新竹周辺は客家の人々が多く住む。彼らは台湾語とは別の母語をもっている。写真は新竹のシンボル、城隍廟

 

政治と言葉 

 国語や英語ばかり達者になって、母語が忘れ去られていいのか? そんな「母語推進運動」が盛んになったのは、李登輝のあとに、民進党の陳水扁(ちんすいへん)が総統になった頃からのように思う。民進党は台湾2大政党の1つで、陳氏は台南出身の生粋の台湾人だ。しかも貧しい家庭に育ち、並々ならぬ苦労を経て進学を果たした叩き上げの総統である。

 そんな彼が台湾の「本土化」を目指したことで、「自分たちの母語を愛し、母語を話そう」という意識が高まった。選挙活動でもメディアでも大々的に台湾語を使って有権者に訴え、支持を得たことで、「台湾の共通語は国語(北京語)」という概念が覆され、それまではなんとなく労働階級の言葉とされ、軽視されがちだった台湾語が脚光を浴びるようになった。

 

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台南や高雄まで南下すると台湾語を耳にする機会が増える。写真は上が台南駅(改修工事に入る前の姿)、下が高雄の下町、鹽埕

 

 私がもっと台湾語を知りたいと思うようになったのもこの頃だ。なにしろ、台湾語と北京語は発音の仕方から、同じものを指す単語までまったく違う。北京語の「ニーハオ」は、台湾語では「リーホゥ」という。「日本人」という単語は北京語なら「ルーベンレン」、台湾語だと「ジップンラン」だ。「美味しい」は北京語では「ハオツー」、台湾語では「ホージャッ」となる。日本では方言というと関西弁、関東弁、東北弁などそれぞれ特徴はあるものの、相互に意思疎通ができないほどではない。だが中国語の方言というのは、同じ言葉がルーツだとは思えないほど違うのだ。

 次回はそんな中国語の奥深さと台湾との関係についてお話したい。

 

(つづく)

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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