台湾の人情食堂

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#114

台湾のことば〈3〉

文・光瀬憲子

 台湾で話されている言葉について解説するシリーズの3回目。これまで、1回目では台湾語、2回目では国語(北京語)を取り上げてきた。

 今回は台湾人がこの2種類の言葉をどう使い分けているかについて見ていきたい。

 

01

北京語を耳にすることの多い台北でも、本省人文化の総本山といえる艋舺(萬華)では台湾語もよく聞こえてくる。写真は艋舺の中心部、龍山寺。ちなみに「艋舺(バンカ)」は漢字も読みも台湾語。現在の公式地名である北京語の「萬華(ワンホァ)」は、「艋舺」に近い発音の漢字が当てられた例

 

台湾人のほんどがバイリンガル 

 北京語を勉強し、台湾に渡った私は、台湾人の話す「国語」を徐々に理解できるようになった。

 台湾の国語は、中国大陸で使われている北京語とまったく同じではない。だから、台湾で使われている中国語という意味で「台湾華語」と呼ばれたりする。漢字も中国大陸では簡体字という簡素化された表記だが、台湾では繁体字という画数の多いものが使われている。

 90年代半ばに台湾に渡った私は当時、台湾語の存在すら知らなかったのだが、国語に慣れてくると、台湾人は私にはまったく聞き取ることができない言語、つまり「台湾語」を話していることに気づいた。そして、台湾人の多くが台湾語を母語としていて、ほとんどの人が母語(台湾語、客家語、先住民語など)と国語のバイリンガルだと知って唖然とした。

 

02

士林に住む友人J氏(写真左)は、戦後、蒋介石が連れてきた人々(いわゆる外省人)の息子なので、家では中国大陸の標準語である北京語を使ってきたが、家の外で本省人家庭の友達が使っている台湾語にふれているうちにいつのまにか話せるようになっていった

 

 英語や北京語を苦労して学んだ私にとって、バイリンガルの台湾人は尊敬すべき存在だった。私の元夫も、台湾語と国語の両方を話していた。私と話すとき、彼は当然、私が理解できる国語をゆっくりと話してくれた。だが、自分の親兄弟と話すときは台湾語を使っていた。

 彼の実家に遊びに行くと、最初は私と国語を話している元夫だが、そばに父親がやってくると、父親とは台湾語で話し出す。私はその内容がわからずにイライラする。すると、元夫は「今、父さんはこういうことを言っている」と通訳してくれる。また、私のわずかな台湾語の知識によれば、私にあまり聞かれたくないような内容は台湾語で話すということもあったようだ。

 元夫の家族は全員、国語も台湾語も話せるので、「私がいるときは全員国語で話してほしい」とわがままなお願いをしたことがあるが、却下された。彼らの一家は昔から台湾語で会話をしているので、今さら国語を使うなんて面倒だし、恥ずかしくてやっていられない、というのだ。

 私はひとりのけ者にされたようで不満だったが、確かにふだん関西弁でしゃべっている家族が突然、関東弁で会話をしろと言われても困ってしまうだろう。まして、台湾語と国語は関西弁と関東弁以上に異なる言葉なのだから。

 

03

艋舺の清水巌祖師廟で撮影され、大ヒットした映画『モンガに散る』(原題:艋舺)では、主人公の若者グループは台湾語と北京語のちゃんぽん、彼らを率いるヤクザの親分は台湾語、彼らと敵対する外省人ヤクザは北京語を使っていた

 

 また、教育の場では国語が標準語とされるので、子どもたちは幼稚園や小学校に上がる頃から国語を話し始める。このため、学校の友達とは国語で会話することになる。当然、男女のカップルも話すのは国語だ。だが、おたがいの家を行き来するほど親しくなると、相手の親には台湾語を使ったりもする。

 社会人になると、会社で使われるのはほぼ国語だが、親しい取引相手とあえて台湾語で話すことで、親近感がアップすることもある。台湾の営業マンは、取引相手によって国語と台湾語を巧みに使い分けているのだ。

 

04

艋舺辺りの大衆酒場では、中高年の客の多くが台湾語を使っているが、私のような外国人旅行者が北京語で話しかけると、北京語で対応してくれる

 

 また、一般にホワイトカラーは国語、ブルーカラーは台湾語、というイメージも強い。大学や大学院を卒業し一流企業に勤めるようなエリートは、小さい頃から国語教育を受けるわけだが、親の後を継いで飲食店を手伝ったり、肉体労働をしたりする人は、中学や高校まで国語に触れるが、あとはふたたび台湾語の世界に身を置きがちだ。

 

05

台湾の代表的な食べ物「蚵仔煎」は、北京語で牡蠣を意味する「蠔」の字を使って、「蠔煎(ハオジェン)」となっていてもおかしくないのだが、牡蠣を意味する台湾語の漢字「蚵仔」が使われている

 

 だからといって、国語がかならずしも「よい言葉」とされているわけではない。次回は国を挙げての母語推奨の動きについて掘り下げてみたい。

 

(つづく)

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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