台湾の人情食堂

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#112

台湾のことば〈1〉

文・光瀬憲子

 台湾を旅して現地の人たちとコミュニケーションするとき、私が話すのは台湾の「国語」だ。

「光瀬さんは台湾に住んでいたから、『台湾語』ができるんでしょう?」

 とよく聞かれるが、じつは私は「台湾語」はほとんど話せない。

 日本の国語は日本語。韓国の国語は韓国語。しかし、台湾の国語は台湾語ではない。では、国語とは別の台湾語とは何なのか? 台湾の国語とは何なのか? 

 今回から、台湾で話されている言葉について、数回に渡って説いていくことにする。

 

台湾語とは何か? 

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台北駅(写真上)や若者の繁華街・西門町(写真下)、МRTの駅や車内で台湾語を聞くことはまれだが……

 

 台湾で暮らす人々の多く(7~8割)が「台湾語」を母国語としている。しかし、台湾では台湾語=国語ではない。台湾語とは別に、テレビのニュースや学校教育、仕事の場で使われる正式な「国語」があるのだ。台湾の国語については次回書くとして、今回は台湾語について書いてみたい。

 台湾人が母国語としているのは台湾語、または台語と呼ばれる言葉で、中国語のニーハオ(こんにちは)に当たる言葉が「リーホゥ」、シェーシェー(ありがとう)に当たる言葉が「セーセー」のように発音される。台湾語は厳密には中国語の方言という扱いになるが、発音から使われる単語までまるで違うので、ほとんど異言語である。

 台湾語のルーツは中国本土の南部で使われている「閩南語(びんなんご)」にある。17世紀から19世紀にかけて本土から台湾に移り住んだ人のほとんどがこの閩南語を話しており、それが台湾で独自の変化を遂げて台湾語となった。

 台湾の人々は19世紀に日本時代を経験したため、台湾語には多くの日本語も混ざっている。私が台湾で暮らし始めた当初、知り合いに「アサリ!」と言われて、味噌汁の具の話かと思ったら、「あっさり」という意味だった。

 また、トマト、ライターのような日本の外来語も台湾で頻繁に使われるようになり、そのまま定着している。

 台湾語を学ぶ学校や教材というのは案外少ない。それは台湾語が主に話し言葉だからだ。文法や単語を勉強するにはアクセントや発音が難しすぎて、学ぶというより生活の中で自然と身に付けるもの、と考えられているのだ。

 たとえば、中国語の「四声」と呼ばれるアクセントをご存じの方も多いだろう。同じ「マー」という単語でもアクセントが違うとまったく別の意味になってしまう。台湾語には、このアクセントが倍の8種類ある。これはかなり複雑だ。

 そんな調子だから、私は台湾に暮らし始めて、台湾語がこの土地の母国語なのだと気づきながらも、早々に学ぶことをあきらめてしまった。台湾人である元夫とその家族との会話は当然台湾語だったのだが、「国語」がわかる私にとっても通訳が必要なほど、台湾語の壁は高かった。

 

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同じ台北でも西部の下町・艋舺(萬華)の龍山寺やその周辺の市場などに行くと台湾語を耳にする機会は増える

 

 離婚して日本に戻り、数年後、ふたたび台湾を訪れるようになったとき、私は初めて「台湾語こそが共通語なのだ」と気付かされることが多くなった。台南や高雄など南部に行くほど台湾語を話す人が目立ち、市場や町の食堂など庶民の生活の場では明らかに台湾語が共通語だと感じた。暮らしていたときには台湾語がわからなくてイライラすることも多く、身内が台湾語を話していると疎外されているようにすら感じた私だったが、しだいに、垢抜けないが体温の感じられる響きをもつ愛おしい言葉に変わっていった。

 台湾人はそんな母国語である台湾語と「国語」を起用に使い分けるバイリンガルである。

 

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列車で南下して台南辺りまで行き、市場などを訪れると、売り手と買い手のやりとりは、ほとんど台湾語だ

 

 では、台湾人は台湾語と国語をどう使い分けているのか? そして、台湾の「国語」とは何なのか? 次回はそれについて書いてみたい。

 

(つづく)

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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