アジアは今日も薄曇り

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#11

沖縄の離島、路線バスの旅〈1〉那覇から久米島へ

文と写真・下川裕治 

変容する那覇

 沖縄は変わった。こんなに早く日本化が進むとは思ってもみなかった。とくに那覇の変容が激しい。ここ10年のことだ。街から沖縄のにおいが消えた。アジアの風も吹いてこない。以前は頻繁に訪ねていたが、最近はその回数がかなり減ってしまっているのはそのためだろうか。

 沖縄移住組がぽつり、ぽつりと本土に戻っていることも大きい。移住組の高齢化という問題もある。なかには亡くなってしまった人もいる。僕も含め、沖縄という島に抱いた熱が、少しずつ冷めてきているのだと思う。

 いまでも若い人のなかでは、沖縄を気に入り、やがてフリーク化している人もいる。しかし彼らが沖縄に抱く熱は、僕らの世代より5度ぐらい低い気がする。沖縄の日本化が進んでいるからだろうと思う。沖縄と本土の温度差は、そう5度ぐらい少なくなったということだろうか。

 那覇ではいつも、ホテル山市に泊まる。沖映通りから少し入ったところにある格安ビジネスホテルだ。ここに泊まる人の多くは、沖縄の離島の人たちだ。最近は那覇の病院に行くという人が多くなってきた。沖縄の離島にも高齢化の波が打ち寄せている。

 1泊3700円。那覇にはもっと安いゲストハウス系の宿も多い。ドミトリースタイルの宿もある。しかし、どちらかというと若者向けで、65歳の僕は気後れしてしまう。那覇にはチェーンのビジネスホテルもたくさんある。料金も高いが、そこには沖縄の空気が流れていない。那覇にきた意味がないような気がする。そんな僕の嗜好をあてはめていくと、ホテル山市になってしまうのだ。

 ところが昨年の12月、ホテルの前で足が止まった。改築工事がはじまっていたのだ。1階のフロントもなくなり、隅にテーブルが置かれた仮設フロントになっていた。いつもいるスタッフもいない。はじめて見るおじさんが座っていた。

 ホテルの向かいに一軒のバーがある。移住組の夫婦がやっている店だ。そこで訊くと、経営者が変わったという。

「耐震構造の問題があったみたいです。改築しないといけないけど、その資金がなく、別の経営者になったって聞いてます。全面的に改築するみたいですよ」

「チェーンホテルのようになっちゃうのかなぁ。宿代も高くなって、ネットもつながるようになって……」

「まあ、そんなところでしょうね」

 ホテル山市は、ネット予約ができなかった。那覇でのシーラカンスホテルという人もいた。僕はバンコクや台北から那覇にやってくることが多い。海外から電話で予約しなくてはならなかった。部屋でもインターネットは使えなかった。

 しかし、働いている人が皆、沖縄を体から発散させていた。なにかイントネーションがおかしい標準語を話すフロントのスタッフ。部屋で仕事をしていると、

「あったかいお茶をもってきましょうね」

 と出ていってしまう掃除のおばさん……。

 しかし建て替えがはじまってしまった。

 

夕暮れどきの那覇をゆいレールから。都会だなぁと呟きながら

 

 今回もホテル山市に泊まった。改築は進んでいたが、2階がまだ手つかずで、その階だけで営業していた。訊くと、4月にはリニューアルオープンするという。部屋代はツインが1万4000円になるらしい。もう僕が泊まるホテルではなくなる。

 那覇での行き場がなくなっていく感覚は、ここ10年で何回も味わっているが、ホテル山市もその流れに呑み込まれたわけだ。

 那覇の景気は悪くないという。ミニバブルが続いているという人もいる。そのなかでは、離島の人たちが泊まる古びたビジネスホテルは、簡単に建て替えの波に掬われてしまう。

 やっぱり離島……。

 わずかに残ったホテル山市の部屋のベッドに横になり、天井を見あげながら呟いてしまう。

 

DSCN2569

改築中のホテル山市。もうこのホテルに泊まることはない?

 

 離島の路線バスにすべて乗る……。しばらく前から考えていたことだった。バスに乗ることが本当の目的ではない。あくまでもフック。路線バスに乗り続ければ、沖縄に出合えるものがあるような気がしたのだ。

 久米島に行ってみることにした。ホテル山市から、泊に抜ける住宅街を歩く。久米島行きのフェリーは午後2時発だった。予約もしていない。フェリーはすいているはずだ。

 とまりん(泊ふ頭旅客ターミナルビル)で切符は簡単に買うことができた。フェリー代は3450円。乗船場所に向かうと、フェリー琉球という船が停泊していた。次々にコンテナを積み込んでいる。

 タラップ脇にいたスタッフに切符を渡す。

「どこでも自由に座ってくださいねー」

 その言葉を背に受け、フェリーに乗り込んだ。

 

IMG_0337久米島を結ぶフェリーは立派だった。1日2便

 

久米島

 

(次回に続きます)

 

 

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*本連載は月2回(第2週&第4週木曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

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著者:下川裕治(しもかわ ゆうじ)

1954年、長野県松本市生まれ。ノンフィクション、旅行作家。慶応大学卒業後、新聞社勤務を経て『12万円で世界を歩く』でデビュー。著書に『鈍行列車のアジア旅』『不思議列車がアジアを走る』『一両列車のゆるり旅』『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』『東南アジア全鉄道制覇の旅 インドネシア・マレーシア・ベトナム・カンボジア編』『週末ちょっとディープなタイ旅』『週末ちょっとディープなベトナム旅』『鉄路2万7千キロ 世界の「超」長距離列車を乗りつぶす』など、アジアと旅に関する紀行ノンフィクション多数。『南の島の甲子園 八重山商工の夏』で2006年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。WEB連載は、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週日曜日に書いてるブログ)、「クリックディープ旅」、「どこへと訊かれて」(人々が通りすぎる世界の空港や駅物)「タビノート」(LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記)。

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