京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#11

京都はグローバル……?

文・山田静

 

警察がやってきた!

 ある日、宿に警察がやってきた。

 ついにこの日がきたか。

 ……って、もちろんそんなことはない。むしろまったく心当たりがない。

「やあ、僕、パスポート忘れてったよね」

 3名の警官のうしろから登場したのはその日の朝チェックアウトした欧米人ゲスト、ジョン。セーフティボックスに置き忘れたパスポートを取りにきたと言うのだが、それだけで警察……?? 

 パスポートをジョンに渡すと、

「すいません、コピーをお借りできますか。彼のパスポートをコピーさせていただきたいんですが……」

 警察の方はすまなそうに言う。険悪な雰囲気ではないが、いったい何が起きたのか。

「彼ら、ドローンを飛ばしてたんですよ、京都御所で」

 まじか。

 ドローンの飛行については、昨年12月の航空法改正により、原則として人や建物から30メートルの距離を保たねばならず、また人口集中地区では飛ばすために許可が必要、ってことになっており、事実上大都市では無理だ。京都では入り口に「ドローン禁止」と表示する神社仏閣も少なくない。

「でもさ、表示がなかったんだよ」

 ジョンは言いはる。

「表示はありました」と警官。

「でも日本語だし、庭のはじのほうに小さくあるだけなんだ。あれじゃわからないよ」

「しかしそもそも、規制があることですので従っていただかないと……」

 どうやら警察も捕まえたものの英語が苦手らしく、へっぽこだが通訳として私が間に入ったところで、ジョンは改めて主張しはじめた。

「僕らは世界を旅しながら、印象的な景色をドローンで撮影してるんだ。旅が終わったらウエブにアップするつもり」

 世界一周旅行の途中、1泊だけ楽遊に泊まってくれたというジョンと友人のカルは、荷物もコンパクトでいかにも旅なれた大人だった。ドローン持参というのは知らなかったが、もともと広告の世界で働いていたというジョンにとっては、旅先のドローン撮影は趣味と仕事両方の好奇心を満足させるものなのだろう。

「今回は初めてですし明らかに悪気もないですし、処罰まではいきませんが、とりあえずパスポートの控えをとりたいのと、前後の旅程を聞かせていただきたい、とお願いしたんです」

「そしたら、パスポートがないのに気がついたんだ」

 そこは警察のおかげ、とジョンは笑う。

 

 

「こんなのは時間の無駄だよ」

 書類の作成は10分もかからず終了した。

「ありがとうございました。今後は、外国のお客様にはドローンに関して注意喚起していただけると助かります」

 警察官御一行様が帰り、ロビーで相棒のカルを待つというジョンにお茶を出すと、再び愚痴りはじめた。

「ポリスマンには怒ってないよ。仕事熱心でいい人間だというのは伝わってきた。でもさ、無駄だよこんなの。表記があれば従ったよもちろん。なのに、彼らの貴重な仕事時間を無駄にしたし、僕らだって短い京都の滞在時間をこんなことで無駄にしてさ」

 まあ言いたいことは分かる。私だって外国に行くときに、現場に「No photo」表記があれば従うが、最新の条例なんて戦乱地帯でもない限りチェックしない。ドローン撮影の是非については置いといて、これだけポピュラーになっているアイテムに対して、さらに行政自らがんばって誘致している外国人旅行者に対して、もうちょい細やかな案内があったほうがいい、というのは素直な感想だ。

「ジョン!大丈夫だった!?」 

 そこに緊迫した顔のカルがやってきた。

「ごめん20万円しかない……」

 すまなそうに言うカルに、ジョンが笑い出した。

「君こそ僕の真実の友だよ!」

 なんと、ジョンは警察と話したあとで、

「罰金50万円って言われたんだけど、手元にお金がないから30万円だけ貸して。助けて」

 と、カルにメッセージを送ったそうだ。

 なにそのリアルオレオレ詐欺。

「人が悪すぎますよ!」

「ひどいな!」

 あきれた私と怒るカルを相手に、ジョンは悪びれもせずに笑っている。

「ごめんごめん。言葉も通じないし心配だしで、気を紛らわせようと思ってさ。友達ってありがたいな。さ、その金で最後にうまいものを食べに行こう!」

「僕は払わないからね」

 なんだかんだで笑って和解したふたりは、

「また来るよ! ありがとう」

 ドローン片手に元気に次の国へと旅立っていった。

 

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3月は梅の季節。2月下旬の北野天満宮は、合格祈願と梅見物で大にぎわい

 

 

観光都市のわかりにくさ

 おもてなしの街京都。世界の人気観光地に毎年ランクインする京都。ようこそ京都へ!

 京都に暮らし始めたころは、この街の観光地としての整備され具合に感心した。駅には外国人専用の案内所、観光スポットには英語の掲示板が置かれ、主な神社仏閣やイベントのホームページにはたいてい英語ページもある。さらにお店や施設の人たちはもちろん、一般市民も外国人や旅行者に対して丁寧、かつ手慣れている。

 さすが京都、東京よりぜんぜん進んでる。

 だが実際に宿屋がスタートして、ジョンのような旅人たちと接するうちに、「?」が浮かんできた。

 当館のレンタサイクルで外出したアジア人カップルが、

「自転車が盗まれた!」

 と戻って来たことがあった。スタッフがよくよく聞いてみたら、

「自転車がたくさん停めてあった場所に置いて、しばらくして戻ったら、そこの自転車が全部なくなってた」

 と言う。あちゃー、不法駐輪の撤去だ。

「停めちゃいけない、なんて書いてなかったよ。少なくとも日本語だけで、読めなかった」

 彼らは撤去自転車駐輪場で数千円払って取り戻してきて、「これも旅の思い出話」と笑っていたものの、いまいち納得のいかない様子だった。

 ほかにもこんな声は聞く。

「寺院で、どこで靴を脱ぐのか、どこまで入っていいのかわからないことがある。うっかりタタミの奥のとこまで入って怒られたりして」

「バスの行き先が分かりにくい。正面に京都駅行き、ってあるけれど、英語なんてほんとに小さい字でさ、バス停で停まったところでようやく分かる。バス停にある時刻表も、ときどき日本語しか書いてないんだ」

 バスは日本人にも難しいものなあ、と私も思う。「京都歩きは自転車やバスが便利☆」なんてガイドブックには書いてあるけど、自転車もバスも特に外国人には簡単ではない。

 たとえば四条烏丸から四条河原町あたり、祇園周辺は自転車走行禁止だし(この走行禁止区域がまたあいまいで路上に英語表記が少ない)、市内全域で違法駐輪には極めて厳しい。ウソかほんとか、

「撤去されると、わざわざ遠くの撤去駐輪場まで運ばれるらしいですよ。引き取りに行けても、乗って帰るには辛いくらいの距離。これも京都のいけずの一部」

 近所の自転車屋さんはもっともらしい顔で言っていた。

 バスは、なにしろ路線が多い上にバス停が複雑だ。当館のまわりはバス停密集地帯でどこに行くにも便利だが、「五条大宮」と「大宮五条」というバス停があったり、京都駅行きのバスが3カ所のバス停から出ていたりする。同じく密集地帯の四条河原町あたりでバスに乗ろうと思うと、バス停が小分けされすぎていて、今もちょっとした覚悟がいるほどだ(やや大げさ)。

 東京よりはマシだけど、十二分に観光客向けに整備されているか、っていうと、やっぱりイマイチなことが多いのだった。日本一、二の観光都市がこうなのだから、日本全体は推して知るべし、って感じである。

 実のところ、私自身がひどい方向音痴だし、韓国やロシアを旅したとき、読めない表記に四苦八苦した経験があるだけに、旅先での「わからなさ」への困惑は過剰に共感してしまう(極端にいうと、ロシア語だとその店が飯屋なのかヘアサロンなのかもわからないのだ!)なので、来たばかりのゲストがバスに乗るというと、「絶対わからないに違いない」と決めつけて、バス停までついていったりしている。電車だってそうだ。嵐山行きの嵐電はかわいくておすすめだが、駅ビルには「嵐電」と漢字が書いてあるだけだ。なので、

「嵐山に行ってくるね! 駅はあっちでしょ」

 と張り切る漢字圏以外のゲストには、

「いい? 駅は2つあってね、右側が阪急大宮。あなたの乗る嵐山に行く電車の駅は左側。わかる? 左よレフトサイド」

 と追いすがって説明して苦笑されたりしている。 

 単なるおせっかいおばちゃん化が進行しているだけとも言えるが、ただでさえ見所の多い京都の旅で、こんなことで貴重な時間を無駄にさせたくない。まったくもって、ジョンの言う通りなんである。

 

 ジョンとカル、今日もどこかでドローンを飛ばしてるといいな。

 

 

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ひな祭りになると、京都のご飯やさんにもちょっとかわいいご飯が。こちらは「矢尾定」のランチ蒸し寿司

 

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楽遊のお雛様はスタッフの折り紙上手なお子さんの手作り。前にいるのは北野天満宮の天神様と東寺の勝ちダルマ。3月の門出の時期に、ゲストの必勝祈願!

 

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楽遊のいちばん新しい仲間は、軒先に座る鍾馗さま。京町家ではおなじみの厄除けだそう。手乗りサイズでキュート

 

*本文中の人名や事実関係はプライバシー保護のため修正を加えています。

 


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は月1回(第1週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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