韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#11

ソウルの東、漢江水上散歩

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 好きな日本語に「水に流す」がある。過去のいざこざや心のわだかまりを、なかったことにするという意味だ。

 韓国の首都ソウルには、「水に流す」最大の装置が備わっている。いつもそこにあるので、あまり意識されていないが、東西を横断する大河「漢江」(ハンガン)のことだ。

 ソウルのようにクルマが多く、繁華街では宣伝のための音楽が大音響で流れ、人々の声が大きく、世話好きが多く、ある意味人間関係が暑苦しいところでは、美しい景観が浄化装置になる。漢江はまさにその大役を担っている。明洞や東大門がある江北にいるなら南へ、新沙洞や狎鴎亭洞がある江南にいるなら北に向かえば大河が現れ、視界が一気に広がり、解放感にひたることができる。ソウル在住者の多くは精神的に漢江に依存していると思う。

最東端の橋、広津橋を歩いて渡る

 私はふだん韓国の地方を取材旅行していることが多いが、取材を終えてソウルに戻ると、2週間も3週間も机にかじりついていることが少なくない。そんなときの息抜きが2つある。ひとつは酒を飲むこと。もうひとつは散歩することだ。酒はほどほどにしないと健康にも美容にもよくないし、懐にも響くが、散歩は心にも体にもよく、金もかからない。

 むしゃくしゃしたときや気分転換をしたいとき、漢江にかかる橋を歩いて渡る。私の住むソウルの東のはずれ、江東区からいちばん近いのは、ソウル市内にある20以上の橋のなかでも最東端に位置する広津橋(クァンジンギョ)だ。日本からの旅行者になじみのあるところで言えば、ウォーカーヒルホテルやWホテルのリバービューの部屋から眼下に見える橋。漢江沿いには高層マンションが林立しているが、ビルの圧迫感も漢江の前では無力だ。

 ロッテワールドがある蚕室(チャムシル)からも地下鉄で10分、タクシーで5分ほどの距離。地下鉄5号線の千戸(チョノ)駅の1番口を出たら、そのまま視界が広がっている方向に5分ほど歩けば千戸大橋(チョノデギョ)に至る。

 

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千戸大橋から見た広津橋。たもとにはカフェとコンビニが

 

 千戸大橋はソウル中心部に直結する幹線道路なので、クルマが多い。散歩にはその右側(東側)にある交通量が極端に少ない広津橋のほうが適している。

 広津橋の歩道を歩き始めると、右側の河川敷に見えてくるのが、インラインスケート場。わら半紙をジグザグに敷いたような不思議な光景に思わずシャッターを押したくなる。

 

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広津橋から見た漢江沿いの散歩道とインラインスケート場

 

 漢江を3分の1ほど渡ると、花壇や休憩用のベンチがあり、日本でも放送された人気ドラマ『IRIS-アイリス-』のロケ地であったことを示す俳優のパネルが掲示されている。この真下には端にぶら下がるように展示スポットが設置されていて、床の一部がガラス張りになっているので、漢江を眼下に見るというスリリングな体験ができる。

 

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足もとがガラス張りの展示スポット(休憩所)

 

 再び歩道に上がってさらに進むと、橋の中央部に到達する。クルマでサッと通り過ぎただけでは、漢江の大きさはなかなか実感できないが、こうして橋の真ん中に立って見下ろすと、ここがソウルだということを忘れてしまう。とうとうと流れる川の水や川風と一体化したような気分になる。

 

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橋の中央部から東側を望む

 

 この辺りはソウルの東端に位置しているため、両岸の緑も豊かだ。ソウルは韓国の中でも北部に位置しているため、冬は寒く、水上散歩には向かないが、この季節には菜の花やレンギョウが咲き乱れ、目の保養になる。

 東南の方角には2016年完成予定のロッテワールドタワー。まもなく555メートル(台北101を追い抜き、世界で6番目の高さ)に達するという。完成した暁にはタワーのてっぺんからこの橋を見下ろすのが楽しみだ。

 ようやく橋を渡りきる。復路は同じ広津橋を戻ってもいいが、それではおもしろくないと言う人は、左手に少し歩いて千戸大橋から戻ってもいい。

 

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まもなく橋を渡りきる

散歩の後のお楽しみ

 日本では「花より団子」、韓国では「금강산도 식후경」(クムガンサンド シックギョン/金剛山も食後に見てこそ美しく感じられる)というが、私も川風を受けて解放感にひたり、美しい花を愛でるだけで満たされるほど純情ではない。マクロな景色を観た後はミクロな景色が恋しくなる。ミクロな景色とはもちろん、手を伸ばせばすぐ手にすることができる冷えたマッコリやビールのことだ。“ごほうび”とも言う。

 小一時間がかりで千戸駅に戻ってくる。ここから5分も歩けば、なじみの千戸市場の屋台街で昼間から生マッコリが飲める。つまみはさわやかに辛いキムチと豆腐だ。いや、このまま20分ほどかけて家の近くまで歩き、さらに飢餓状態になってから、近所のHOF(小さなビアホール)でチキンと生ビールを楽しむのも悪くない。

 

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*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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