韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#108

「韓国ロス」のみなさんへ〈4〉

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 大韓航空やアシアナ航空の日韓路線の運航再開のニュースに心浮き立つこの頃だが、相互の入国拒否などまだいろいろな問題が横たわっている。過去20余年の取材旅行で撮った映像を見ながら往時を振り返る企画の4回目は、江原道の大衆酒場の写真から。

 

江原道、三陟の酒場 2013年2月撮影 

 1枚目の写真は、江原道の東海岸沿いの町、三陟(サムチョク)の酒場の前で撮ったもの。女将(中央)と常連客、左端が筆者だ。三陟という町は日本の人にはあまりなじみがないかもしれないが、ペ・ヨンジュンとソン・イェジンの主演映画『四月の雪』の舞台だったので、初期の韓流ファンならご存知かもしれない。

 

01

 

 そこは韓国全土の酒場を訪ね歩いている私が見ても屈指の店だった。魚を焼く油の煙で煤けた窓ガラス。その上から外に突き出た煙突。箸でテーブルを叩いて唄う酔客。それを叱責する母親のような女将。調理台をカウンター代わりにひとりソジュを飲んでサッと帰っていく男性……。

 私と連れ(日本の事務所の代表)はたちまち酒と店に酔った。いつのまにか隣席の常連夫婦らと酒器をぶつけ合い、マッコリを何杯も乾した。あまりに楽しかったので五人分の勘定を済ませると、彼らが「もう一軒行きましょう!」と言ってくれた。二次会の店は三陟らしく、新鮮な海産物で飲ませる店だった。茹でたタコを一匹たいらげ、ソジュを浴びた。ここでは彼らがおごってくれた。

 

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 別れ際、明日は道渓の炭鉱に行くと伝えると、ご主人が「私も道渓に会社があるのでクルマで送りましょう」と言ってくれた。かなり酔っていたので、あまり期待しなかったが、翌朝、彼は本当に宿の前まで迎えに来てくれた。

 道渓への道中、彼はあまり口をきかなかった。酒席では饒舌だったが、本当はおとなしい人なのかもしれない。あるいは「こんなに二日酔いがひどいなら、安請け合いするんじゃなかった」と、後悔していたのかもしれない。あまりの人の変わりように、私と連れは後部座席で笑いをこらえるのに必死だった。

 三陟の一軒目の店は本当に魅力的だったが、ソウルから近いとは言えないのでなかなか再訪できなかった。それから5年後の2018年の秋、ようやく店の前に立ったが、そこにもう灯りはともっていなかった。まさに一期一会の酒場だったが、筆者はあの酔客たちの歌声(動画参照)を忘れることはないだろう。

 

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江原道、わずかに残った炭鉱 2013年2月撮影 

05

 

 韓国北部の江原道は80年代半ばまで炭鉱業が盛んだった。しかし、家庭用燃料が練炭から石油に変わると、炭鉱のほとんどが閉鎖され、石炭産業頼みだったこの地域の経済は瀕死状態に陥った。それは日本映画『フラガール』で描かれた世界そのままだった。

 写真は朴槿恵政権が誕生したばかりの頃、道渓(ドゲ)の炭鉱の坑道を走るトロッコから撮影したものだ。坑道の様子は下に動画を貼っておいたので、ぜひご覧いただきたい。

 我が国の炭鉱では「女人禁制」が現役で、残念ながら私は坑道に入ることはできず、同行していた日本の事務所の代表(男性)だけがトロッコに乗ることができた。彼は「高倉健の気分」と大いに興奮していた。70年代の日本映画で炭鉱夫役の高倉健が印象的だったからだそうだ。

  炭鉱見学という貴重な体験ができたのは、この2カ月前、栄州から嶺東線に乗って旅したのがきっかけだった。チェ・ミンシク主演の映画『春が来れば』の舞台、道渓の駅で列車を降り、映画に登場した場所や市場をぶらついた後、地元民でにぎわう焼肉店に入った。その日は大統領選挙の投票日で店内は談論風発。大変な騒ぎだった。このとき、隣席で早くも「朴槿恵 万歳!」を叫んでいた酔客二人が炭鉱の管理職だったのだ。

 彼らといっしょに飲むことになり、酔った勢いで「炭鉱が見てみたいのですが」と申し出ると、「いつでもいらっしゃい」と快諾してくれ、翌々月の見学実現となったのだ。炭鉱で再会した二人は焼肉屋でグラスをぶつけ合った酔客とは別人のように寡黙で、その後ろ姿はまさに高倉健のたたずまいだった。

 

 

(つづく)

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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