台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#107

「台湾ロス」のみなさんへ〈3〉

文・光瀬憲子

 新刊『台湾一周!! 途中下車、美味しい旅』(双葉文庫)の取材写真を通して台湾の雰囲気を感じ、家にいながらにして旅気分を味わっていただく特集。3回目は台湾の東側を南下するルートにある小さな街から。

 

礁渓。台湾でもう一度暮らすならこの町 

サシカエph

 

 次に台湾で暮らす機会があったらここと決めている場所がある。宜蘭県の礁渓という街だ。海と山と温泉があり、野菜が美味しい。礁渓に立ち寄るときはなぜか晴れの日が多く、冷え切った体を温泉で温めるというより、汗を流し、歩き疲れた足をほぐすことのほうが多い。

 穏やかで温かい気候が人を温和にするのだろうか、礁渓の人たちはどこかのんびりしている。列車の旅でふらりと立ち寄るには絶好の「途中下車駅」だ。

 

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 街中を散策するとき、看板にハッとさせられることが多い。年季が入った味のある看板を見かける襟を正したくなる。店の「のれん」が守られていることに感動するのだ。礁渓の街で思わず足を止めたのは「粽」という一文字だけの看板。その名の通り、粽(チマキ)だけを扱う店。店頭には粽がぶら下がり、並べられ、そして鍋で蒸されている。祖母の代からの店だと笑顔を見せる店主は私と同年代だろうか。粽を大事そうに扱う彼の手つきに、看板と同じ潔さを覚え、感動する。

 

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 台湾人のソウルフードと聞くと思い浮かぶものがいくつかある。豚肉やモツなどを醤油で煮た滷味(ルーウェイ)もそのひとつだ。それは日本人にとっての肉じゃがのような存在かもしれない。一般家庭で作られることは少なくなったが、屋台や食堂の定番で、店自慢の滷汁(煮込み汁)に茶色く染まった豚肉や豆腐が浮かんでいる。

 礁渓駅からだいぶ離れた川沿いの通りに突然人だかりのできる店が現れる。アメ色に煮込まれた大腸や豆腐はフードポルノ選手権上位入賞まちがいなしのビジュアルだ。相席した地元客と言葉を交わしながら滷味をつついていると、礁渓の住民になったような気分になる。

 

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漁港の町、さびれた駅前で 

 礁渓の滷味店で相席した人に、蘇澳の美味しい店を教えてもらった。サメの燻製を出す小さな食堂だ。

 蘇澳駅はここ数年ですっかり利用客が減ったそうだが、逆に昭和感の漂う、肩の力が抜けたいい町になっている。夕方6時過ぎには店じまいをしてしまうところを、「つまみ1皿とビール1杯だけ」と女将に頼み込み、サメの燻製をスライスしてもらう。一人旅を楽しむってこういうことだなとカウンターで悦に入る。スーツケースを転がして、サメの燻製を食べるために知らない駅で途中下車する。他愛のないことだけど、この一杯に喜びを感じられるようになった自分がちょっと誇らしい。

 

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 アーケードの商店街はシャッターを閉めた店が多く、ちょっとさびしい蘇澳駅前に、暗くなると浮かび上がるDining Pubの文字。一瞬、場違いに見えるが、派手すぎないそのたたずまいには好感が持てる。

 それもそのはず。店主はまだ若いが、地元蘇澳を愛してやまない漁師の男だった。南に向かう列車の発車時間まで無聊を慰めるために立ち寄ったつもりが、漁師の武勇伝に引き込まれ、痛飲してしまった。

 闇の中を走る最終列車で、田舎町には不釣り合いな店構えと洒落たカウンターを思い返す。あの店は本当にあそこにあったのだろうか? そんな気がしてあわててカメラの画像を確認した。

 

(つづく)

 

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 7月18日(土)13時30分~15時、本コラムの筆者が朝日カルチャーセンター新宿教室で、「台湾一周  途中下車の旅」講座を行います。女性でも気軽に楽しめる鉄道の旅の入門編です。お申し込みは電話(03-3344-1941)か下記のサイトで。

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著:光瀬憲子 定価:本体700円+税

 

*本連載は月2回(第2週&第4週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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