韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#105

「韓国ロス」のみなさんへ〈1〉

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 今月後半に予定されていた筆者の日本出張は消滅してしまった。日本のみなさんにも韓国に来ていただけない状態だが、Twitterなどで読者さんの「韓国が恋しい」という声をたびたび目にするのが救いだ。

 みなさんの韓国ロスを少しでも癒したいと思い、今回から数回に渡り、過去20余年の取材旅行で撮った写真のなかからお気に入りを数枚ピックアップし、往時を振り返りたいと思う。

 

宜寧、クッパ屋さんの朝 2012年11月撮影 

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 慶尚南道・宜寧(ウリョン)郡の老舗クッパ屋さん『鍾路食堂』で撮った写真。牛肉のかたまりを切り分け、大鍋で煮込み、お椀に注ぐまでの調理風景をつぶさに観ることができる貴重な店だ。

 宜寧は知人の在日韓国人の親戚探しを手伝うため、1999年に初めて訪れた。絵に描いたような田舎町だが、市場の規模が大きいのでオイルジャン(五日市)のときに訪れると楽しい。昔ながらのクッパ(写真下)をはじめ、日本由来のそばを韓国式にアレンジした麺料理や、柏餅風の菓子など、食べ物にも特徴がある。

 

晋州の五日市で 2012年11月撮影 

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 前項の宜寧を訪れた前の日は、隣町である晋州(チンジュ)の五日市会場にいた。写真はそこで見かけたチンパン(蒸しパン)屋さん。夫婦の商いだった。この季節、市場を歩いていると体が冷えるので湯気に誘われてついつい手がのびる。

 そして翌日、宜寧の五日市を歩いていると再び同じ蒸しパン屋さん夫婦と出会った。彼らは人が集まる五日市を狙って、今日はこの町、明日はあの町と移動して行商するジャントルメンイだったのだ。大好きな日本映画『男はつらいよ』の寅さん(渥美清)を思い出す。湯気と行商ストーリーに幻惑され、彼らとともに五日市を巡ってみたい衝動に駆られた。旅芸人と行動をともにした、『ツィゴイネルワイゼン』の士官学校元教授(原田芳雄)や『旅の重さ』の家出少女(高橋洋子)の気持ちがわかるような気がした。

 

晋州で初めて出合ったチョッパルタン 2012年11月撮影 

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 豚骨スープのラーメンが全国区になって久しい日本と違い、韓国では豚骨ダシの汁かけ飯(テジクッパ)が広く認知されるようになってからまだ10年も経っていないはずだ。

 日本旅行経験者が増大した今でこそ、豚骨ラーメンを好む韓国人は多いが、それ以前は豚は肉を焼いて食べるもので、スープは豚特有の匂いを嫌う人が少なくなかった。その意味で2012年に晋州で偶然出合ったチョッパルタン(豚足汁、写真上)は、かなり珍しい食べ物だったと思う。

 下の写真のようないわゆるチョッパル(豚足煮)のようにスネの部分の肉らしい部分が入っているのならあまり異色とは思わないが、爪先部分がそれとわかる形で入っているのは衝撃だった。見た目と違いゲテモノ感はまったくなく、まろやかでとても飲みやすいスープだった。この店、今もあるとよいのだが……。

 

益山市、黄登の小さな食堂の母と息子 2006年1月撮影 

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 全羅北道・益山市の黄登(ファンドゥン)面の『真味食堂』の前で撮った女将さんと息子さんの写真だ。この10年ほど、地方の名物料理の多くが企業のチェーン展開戦略にのっかり、ソウルや釜山でも食べられるようになっている。それ以前はご当地に行かないと食べられないものが多く、そのためにわざわざ出かけて行ったものだった。食べ物をただ舌で味わうのではなく、背景ごと味わうことにこだわっていたからだ。

 写真の食堂もそんな気持ちで訪れた店のひとつ。やわらかい韓牛ユッケを使った黄登ビビンパの老舗である。KTXがまだ全羅道を走っていない頃、在来線に乗って行ったのを覚えている。

 6、7年後に再訪したときは、すでに地方の食べ物がクローズアップされる時代になっていて、この店も団体客をさばけるような店舗に改装されていた。創業者と跡取りが息子が記念写真を撮るのが似つかわしい店は少なくなる一方だ。

 

(つづく)  

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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