韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#103

平壌・東林・新義州3泊4日旅行記〈前編〉

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 私の母は南北分断前の黄海道出身で、朝鮮戦争のとき南側に避難してきた人だ。母が故郷の浜辺に咲くハマナスの花を懐かしがっていたり、故郷の料理を作ってくれたりしたので、私も北側には憧憬のようなものがある。

 とはいえ、子供の頃から反共教育を受けてきたので北側に対する恐怖感は拭えない。長らく憧憬と恐怖という二律背反と向き合って来たのだが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下の2008年には韓国の現代グループが主催した開城ツアーに参加し、バスで38度線を超え、初めて北側の地を踏むことができた。

 次回は首都平壌に行きたいと思っていたが、李明博・朴槿恵政権で南北が再び疎遠になり、叶わずにいる。

 

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平壌の凱旋門

 

 先日、中国の丹東から3泊4日で北側を旅してきた日本人の読者の方(Aさん、40歳、男性)から、詳しく話を聞く機会に恵まれた。彼は一度日本を飛び出すと半年は帰ってこない筋金入りのバックパッカーだ。日本の旅行社による日本発ツアーではなく、中国の旅行社に手配してもらったオーダーメイドの旅なので興味深かった。

 Aさんは旅行社のサイトに出ているモデルプランのなかから、中国遼寧省の丹東→平壌2泊→東林1泊→新義州→丹東を選んだ。移動はすべて列車で、丹東→平壌は7時間ほどかかる。最少催行人員はなく、料金は約20万円。もし同行者がいて相部屋にすれば3~4万円は安くなるそうだ。

 Aさんは日本発の北側訪問ツアーは制限が多いと聞いていたので、中国発のツアーを選んだのだが、好きに歩き回れるというほどではなかったものの、有意義な旅だったという。

 以下はAさんからのレポートである。

 

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朝鮮民主主義人民共和国の観光証(ビザのようなもの)

 

 

丹東駅→新義州駅→平壌駅 

 朝9時頃に丹東駅を出た列車は10分ほどで新義州駅に着く(1時間半ほど停車し、車内で入国手続き)。平壌駅に着いたのは夜6時頃。今回の旅に同行してくれるガイド2人(40~50代くらい)がホームで迎えてくれた。

 

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丹東と平壌間を走る国際列車

 

「朝鮮は初めてですか?」

 ガイドに会うやいなやこう聞かれた。

 新義州をリクエストする日本人は珍しいらしく、不審がられたのかもしれない。朝鮮に来る日本人旅行者の7割がリピーターで、ほとんどが平壌だけに滞在するそうだ。

 今日と明日は私とガイド2人とドライバーの4人行動だ。ワゴン車に乗り込んで夕食会場に向かう。節電のせいだろうか、この店、営業しているの? と思うほど薄暗かった。外国人旅行者のためのレストランらしい。料理はソーセージや卵焼きなど洋食っぽいもの、朝鮮料理、中華料理などの折衷だった。噂の大同江ビールは清涼感の中にもコクがあった。

 夕食後、高麗ホテルにチェックイン。外国人旅行者の多くがここに泊まる。部屋は広く快適だった。アジア各地を旅してきたが、いつもはドミトリーがあたりまえなのだ。

「外出してもかまいませんが、同行しますので、声をかけてください」

 同じホテルに泊まるらしいガイドにそう言われたが、周囲は中国の地方都市とは比べものにならないくらい灯りがない。飲食店のネオンも見当たらないので、出かける気にはなれなかった。人でも歩いていれば、まだおもしろそうだが、軍服姿の人すら見かけない。軍人だらけの街なのではと勝手に想像していたので意外だった。

 高麗ホテルよりさらに巨大な柳京ホテルは結局、経済制裁のダメージで完工できずにいるそうだ。

 

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高麗ホテルの客室から平壌市街

 

2日目、平壌観光 

 翌日、平壌市内の主要観光地を巡った。金日成総合大学の前を通ったとき、

「我が国の最高学府で、日本で言えば東大です」

 とガイドが言うので、話のタネにと、

「私はその東大出身で、高校の教員なんです」

 と言うと、驚かれた。

 総合大学の先生たちが住んでいるという建物がとても立派なので、

「日本から北朝鮮に興味のある人たちがたくさん来たと思いますが、亡命してここで暮らしたいと言う人はいなかったですか?」

 と聞いてみると、

「基本的に歓迎したいのですが、下手に受け入れると、また拉致だ何だと騒がれるので難しいですね。以前も亡命希望者がいましたが、拒否したんです」

「私も教育者なんですが、この国で役に立つことがあるなら、定住するのもおもしろいと(半分本気で)思っていますが、そうしたらいずれ市民権をもらえるのでしょうか」

「それは難しいですね」

 話題を変えてみる。

「平壌にはきれいな女性が多いですね~。観光施設の案内嬢だけでなく、街を歩いている女性も」

 と、思ったことを率直に言ってみると、

「その話はもう少し夜遅くなってからにしましょう」

 とお茶を濁された。

 

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故・金日成主席の肖像画

 

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金日成広場から大同江(デドンガン)を望む

 

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大同江側から見た金日成広場

 

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大同江沿いにそびえる主体思想塔

 

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朝鮮労働党の党創立記念塔

 

10平壌地下鉄・万景台線「復興」駅のホーム

 

ランチは本場の平壌冷麺 

 お昼は有名な冷麺専門店『玉流館』(オンリュグァン)で冷麺を食べた。店員がガイドに「満席です」と告げたようだが、「日本から来たお客様だから」のひと言ですぐ席が用意されたように見えた。この店での食事は旅程になく、別料金だったが、4人で3000円程度で済んだ。

 冷麺の麺は歯ごたえはあったが、そば粉は感じられなかった。スープの味は別府で食べた冷麺に似ていた。想像していたものとは違ったが、確かに旨い。そば粉の香りはしないのだが、ガイドから麺は音を立ててすすると美味しいと言われた。なぜだろう? 気どらずに食べろということなのだろうか?

 

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「玉流館」の平壌冷麺。前菜にピンデトッ(緑豆チヂミ)などが出た。デザートのバニラアイスクリームも美味しかった

 

 

平壌の高校生と英語で会話 

 私が教員だからガイドが気をつかったのか、平壌市内の高校にも連れて行ってくれた。共学高校の英語の授業中、いきなり英語で自己紹介をしろと言われて困ったが、民間人とふれ合ういい機会なので従った。生徒からの質問も受付た。

「A先生が好きなサッカー選手は誰ですか?」

「メッシです」

 サッカーが盛んな国だけあって、みんなその名を知っているようだった。

 数学の教科書を見せてもらった。数Ⅱレベルの内容で、日本の高校数学と比べても遜色なかった。

 大きなスーパーマーケットにも行った。品数は豊富で、一般市民も買い物に来ていたが、輸入品が高価なのに驚いた。日本のスーパードライが大同江ビールの10倍はする。部屋で飲もうと、大同江ビールとマッコリを10中国元(約120円)で買った。

 

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北朝鮮を代表する大同江麦酒とマッコリ

 

(つづく)

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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