韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#100

韓国の角打ち、シュポ飲みの楽しみ方〈後編〉

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 シュポ(小さな食料雑貨店)で飲むということがどういうことなのか、経験したことのない日本の人に説明するのはなかなか難しい。しかし、アカデミー賞6部門にノミネートされた映画『パラサイト 半地下の家族』が日本でも大ヒットしているため、なるほどあれがシュポかとピンとくるようになった人が多いようだ。

 この映画は、半地下に住む貧しい4人家族が、身分を偽って裕福な家に寄生していくという物語だが、その寄生のきっかけとなる場面の舞台がシュポなのである。劇中、エリート大学生(パク・ソジュン)と大学浪人生(チェ・ウシク)がソジュを飲んだシュポは、麻浦区阿峴洞707(阿峴駅と忠正路駅の中間辺り)に実在する。店名は「돼지쌀슈퍼」(テジ サル シュポ)で、マウルバス麻浦03の停留所でもある。

 今回は私の行きつけのシュポを数軒挙げながら、店ごとの楽しみ方をお伝えしよう。

 

01

乙支路4街4番出入口の東側ブロックにあるシュポ『デソン食品』

 

初級編『ソウル食品』(鍾路3街)※2~4人の利用が適 

 もともとは零細工場街にある購買部的な店だったが、酒が安く肴が旨いことで一般にも知られるようになり、さらに日本のテレビ番組『世界入りにくい居酒屋』で紹介されたため、日本からの旅行者も訪れるようになった。

 小さな調理場と商品棚がある1階で、女将が黙々と働く姿を見ながら飲むのが醍醐味なのだが、最近1階は半ば近所の常連さんの専用席となっていて、一般客はたいてい2階に案内される。シュポ感は薄いが、相変わらず酒は安いし、料理も旨い。

 

02

今や特等席となった『ソウル食品の』1階。この店はサーバーから注ぐ生ビールが2500ウォン、生マッコリが2000ウォン、ソジュが2500ウォンで、シュポのなかでも特に安い

 

03

若者でにぎわう『ソウル食品』の2階席

 

初級編『大福マートゥ』(乙支路4街)※1~4人の利用が適 

 気のいい夫婦が経営する店。照明も明るく、通りから店の中がよく見えるので、入りやすい。パーソナルツアー『ソウル大衆酒場めぐり』で、私がよく日本人を連れてくるので、夫婦は日本人への対応も慣れている。空いていれば日本からの旅行者が一人で訪れても普通にもてなしてくれる。

 

04乙支路4街4番出入口の東側ブロックにある『大福マートゥ』

 

05

『大福マートゥ』は奥にも別フロアがあるが、やはりお菓子に囲まれた手前の部屋で飲むのが楽しい

 

中級編『ヨングァン食品』(鍾路3街)※1~4人の利用が適 

 愛想がよく料理上手な女将が切り盛りする店。鍾路3街のポッサム通りにあるので、環境はディープだが、女将のキャラと人なつっこい常連客が開放的な雰囲気を作っているので意外と入りやすい。

 

06鍾路3街の人気シュポ『ヨングァン食品』。女将(写真奥)は元職業軍人

 

中級編『デソン食品』(乙支路4街)※2~3人の利用が適 

 常に真顔で、ちょっと陰のある若女将の店。彼女は一見冷たそうに見えるが、じつはやさしい。空いているときなら、2人でタマゴ3個分のケランフライ(目玉焼き)でビールを飲んでも嫌な顔されない。調理場と商品棚のある店内で飲むのもいいが、春から秋にかけては外飲みも楽しい。

 

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『デソン食品』の昼景。筆者は日中、小腹がすいたとき、ここでカップラーメンをすすったりする。日本で言えば立ち食いそば屋を利用する感覚だ

 

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『デソン食品』のケランフライ(目玉焼き)。シュポで軽くつまみたいときはこれに限る

 

中級編『トンイル食品』(乙支路4街)※1~3人の利用が適 

 90歳近いおばあちゃんとお嫁さん、その娘さんもたまに顔を出す三代シュポ。昭和の駄菓子屋そのものといった外観で、入りにくさだけなら上級編だ。

 どうしても勇気がわかなかったら、買って帰るような感じで店の外の冷蔵庫から缶ビールを取り出し、中にいる女将に「ここで座って飲んでもいいでしょ?(ヨギ アンジャ マショド テジョ?)」と言いながら席に着くといい。この店の常連も人なつっこいので、たいていかまってもらえる。

 

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乙支路4街4番出入口の東側ブロックにある『トンイル食品』

 

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『トンイル食品』のケランマリ(卵焼き)

 

上級編『ヒョン食品』(山林洞)※2~3人の利用が適 

 前述の『ソウル食品』以上の零細工場密集地にあるので、部外者にはハードルが高い。しかし、いざ席についてしまえば、気のいい主人夫婦があれこれ世話を焼いてくれる。ときには奥のテーブルで女将を交えての花札大会が始まったりして、これぞ庶民の殿堂という感じ。

 工場街の購買部感が強いので、外国人がいきなり一人飲みを始めようとすると驚かれるかもしれないので、最初は2人くらいで行くといいだろう。

 

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乙支路3街と4街の中間地点に位置する『ヒョン食品』。一昨年末、この一帯の再開発が話題となって以来、散策する人が増えた

 

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『ヒョン食品』のSPAMクイ(ポークランチョンミート焼き)

 

シュポ利用の心得 

 私が著作やWEBコラムで取り上げたシュポを、全踏破しようとがんばっている読者さんが少なからずいるようだ。とてもありがたいことなのだが、誤解を恐れずに言えば、たかがシュポである。あまり構え過ぎず、「缶ビールを買いに来たら、そこに休憩スペースがあったので座って飲んじゃいました」みたいな気持ちで利用するのが吉である。

 また、混雑しているとき、2~4人用のテーブルを埋めたいと考えるのは経営者として当然なので、1人飲みが歓迎されないこともある。そんなときは潔くあきらめるか、4席のうち1席空いているとき、「いっしょに飲んでもいいでしょ?(カッチ マショド テジョ?)」と言いながら、なかば強引に座ってしまう手もある。こういうときシュポの酔客は1人客を放っておかないので、楽しい酒席になる可能性が高い。シュポでは「えいやっ!」の気持ちが大事なのである。

 最後に言っておきたいのは、シュポは安いので、思い切り飲んで食べてほしいということ。日本でいう「せんべろ」はもちろん可能(日本よりもっと酔える)だが、昼間、ジュース1本、タバコ1箱を売っているシュポは、とても地味な商いである。2人で利用するなら酒の3、4本、つまみの2品くらい頼めば、女将たちも張り合いがあるし、顔も覚えてくれるだろう。

 

 乙支路3街、4街辺りだけでも筆者がまだ開拓していないシュポはある。読者のみなさんもぜひ自分だけの行きつけを見つけてほしい。

 

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芳山市場(パンサンシジャン)の近くで見つけたシュポ。夜は手前のテントで飲む人もいそうだ 

 

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乙支路3街4番出口西側の路地裏で見つけたシュポ

 

※今回取り上げたシュポの位置は、本コラム筆者の近刊『美味しい韓国  ほろ酔い紀行』(双葉文庫)に載っている地図で確認できます。

 

【シュポの基礎知識】

 シュポ(슈퍼)とはスーパー(マーケット=마켓)の韓国的発音。日本でスーパーと言ったら、コンビニよりずっと大きい食料雑貨店をイメージする人が多いと思うが、韓国のシュポはもっと小さい。少し古い日本の言葉では「よろずや」が近い。個人経営のコンビニと言ってもよい。クモンカゲ(穴倉のような店)という古風な呼び名もある。マートゥ(MART)という呼び名(店名になっていることも)もあるが、日本の人はマートゥと聞くと、Eマートゥとかロッテマートゥのような大規模なディスカウントショップを連想するので、あえて使わない。

 シュポは人の集まるところならどこにでもあるが、90年代のコンビニの普及で相当数が廃業している。今、シュポ密度が高いのは、ソウルの中心部で言えば、鍾路3街エリアの南端や乙支路4街(ウルチロサーガ)駅4番出入口の東側ブロック。この辺りには町工場(まちこうば)や零細企業が密集しているので、そこで働いている人たちがタバコ1箱、缶コーヒー1本を買いに来る店だ。

 あくまで小売店で、飲み屋ではないのだが、仕事終わりの常連客に店内でビールやソジュ(韓国焼酎)を飲ませているうちに、イスやテーブルを置いたり、つまみを出したりするようになった例である。コンビニの普及で、ただでさえ薄利な商いが窮地に陥り、なし崩し的に居酒屋寄りに移行していった例も少なくないだろう。もちろん、店内で酒を飲ませるシュポはごく一部で、全国的に見たら食料雑貨の小売りだけしている店が多いはずだ。

 小売が本業なので、ビール、ソジュ、マッコリなど一般的な酒はたいていある。店内に席がある店なら、ふつうの飲食店のように酒器が用意されている。たまにシュポやコンビニの前に置かれた簡易テーブルで飲んでいる人の姿をたまに見かけるが、あれは客が自分で買ったものを勝手に飲んでいる例だ。公開中の映画『パラサイト 半地下の家族』のシュポの場面もまさにこれである。ガラスのコップも提供されないし、店の人が作ったつまみもない。客が酒とともに使い捨てのコップやつまみ(袋菓子や乾きもの、缶詰)を買って飲んでいるだけなのだが、これもシュポ飲みのひとつにはちがいない。酒もつまみも小売価格だから、もっとも安い酒場といえるが、店の人や他の客との交流はあまりない。

 

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 2020年4月25日(土)、15:20~16:50、17:10~18:40(90分×2コマ)、名古屋の栄中日文化センターで本コラムの筆者が講座を行います。知っているとソウル散策や飲み歩きがさらに興味深いものになる歴史逸話をお話します。お申込み方法など詳細は、今月1月末か2月頃、本コラムやtwitter(https://twitter.com/Manchuria7)でお知らせします。

 

 

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。NHKBSプレミアム『世界入りにくい居酒屋』釜山編コーディネート担当。株式会社キーワード所属www.k-word.co.jp/ 著者の近況はこちら→https://twitter.com/Manchuria7

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