台湾の人情食堂

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#100

冬の滋味、南部のラム肉を食べる

文・光瀬憲子

 2月8日からWOWOWプライムで放送開始となった中華グルメのドキュメンタリー番組『風味巡礼』(原題:風味人間)の翻訳を担当させていただいた。

 全8話のドキュメンタリーでは、中国各地の食文化を掘り下げながら、諸外国の食文化とも比較し、中華料理の奥深さを描いている。その映像美もすばらしく、これまでのグルメ番組とはひと味もふた味も違う。

 そんな『風味巡礼』の第1話では、新疆ウイグル自治区の遊牧民たちのラム肉を食べる文化を紹介していた。遊牧民族たちは、冬は冬牧場へ、夏は夏牧場へと長距離を移動する。そんな大移動の前にもっとも脂ののった羊をさばき、家族で食べる風習があるという。白いラムの脂身とピンク色の肉を手づかみで食べる宴の様子は、大のラム好きの私にとってはたまらない映像だ。

 日本ではラムやマトンを敬遠する人もいるが、台湾や中国ではもう少し身近な食材として親しまれている。

 台湾では特に南部にめん洋牧場があり、台南や高雄では新鮮なラム肉が食べられる。私も台湾南部を訪れるときは、自然とラム肉屋さんに足が向いてしまう。今回はそのなかから選り抜きの店を2軒紹介しよう。

 

00高雄の塩埕(鹽埕、イェンチェン)にある『水源羊肉海産』の羊肉爐(ラム鍋)

 

高雄、ラム鍋の人気店 

 台湾では、ラム肉のもっとも一般的な食べ方は火鍋である。このため、夏よりも冬によく食べられる。ラム肉の火鍋は「羊肉爐(ヤンロウルー)」と呼ばれ、専門店がある。私のお気に入りは高雄の下町、塩埕にある『水源羊肉海産』だ。

 

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高雄の『水源羊肉海産』(冬)。南部といえども長袖が必要になる1月~2月は鍋需要が高まり客足が増える

 

02高雄の『水源羊肉海産』(夏)。宴会好きな台湾人は海鮮や鍋の店で円卓を囲むことを好む

 

 港町高雄だけあって、この店は海鮮とラム鍋が一緒になっている。店頭にはいけすが並べられており、ここで好きな魚や貝類を注文すると、店の人が食材に合った方法で揚げたり焼いたりしてくれる。

『水源羊鍋海産』では羊肉爐が看板メニューで、客はたいてい、海鮮料理数品と羊肉爐を頼み、ビールを何本も空ける。店には壁もドアもなく、店内のスペースがそのまま歩道にせり出したように円卓とプラスチックの椅子が並べられ、その周りにところ狭しとバイクが駐車してある。

 

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骨付きラム肉がたっぷりと入った鍋に凍り豆腐やキノコ類が加わる。しっかり煮えるのを待とう

 

 羊肉爐には骨付きのラム肉がゴロゴロ入っており、その周りにキャベツ、凍り豆腐、トマト(台湾の鍋物の定番)、エノキ茸などが詰め込んである。トッピングは生姜の千切りと赤いクコの実。当帰という漢方系のスープがベースになっている。

 テーブルに運ばれてきたらすぐに食べるのではなく、じっくり待ってキャベツなどの野菜がクタクタになるまで我慢。ラム肉の旨味と野菜の甘みがスープに染み出し、濃厚な風味が生まれる。野菜が煮えてきたらまずはスープをひと口。この店のスープは漢方風味だが、じっくり煮込むと味がなじみ、とがった漢方臭さがなくって飲みやすくなる。

 

台南、ラム肉スープの人気店 

 牧場の多い南部では新鮮なラム肉が手に入るため、台北ではあまりお目にかかれない部位にお目にかかれる。台南にはラム肉専門店が多いが、なかでも地元色の濃いのが、台南の目抜き通り、府前路沿いに店を構える『錕羊肉』だ。

 

04台南の府前路沿いにある『錕羊肉』

 

『錕羊肉』は外からみてもあまり目立たない小さな食堂だ。カウンターキッチンになっていて壁やドアがなく、店内と歩道に境目はない。カウンターのそばの提灯に「錕(クン)」という文字が手書きされただけのシンプルな看板。だが、歩道に並べられたテーブルはほぼ満席だ。いかにも近所の人たちが家族で食べに来ている様子で、地元感にあふれている。

 

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『錕羊肉』の調理される前の生ラム肉。鮮度のよさが伝わってくる

 

 カウンターの上に掲げられたメニューらしきものには「羊肉湯、当帰羊、生炒羊、羊什湯、白飯」の5種類しか書いていない。どれも魅力的に見えるが、ラム肉のもっとも美味しい食べ方は「羊肉湯(ラム肉スープ)」だと思う。シンプルで、ラムの旨味を最大限に引き出してくれるからだ。

 その日に仕入れた生のラム肉を薄くスライスし、これをどんぶりに入れる。そこにアツアツのダシ汁を注ぎ、ラムの色が赤からほんのりピンク色に変わる。これでできあがりだ。ラム肉の風味を邪魔することのないあっさりとしたスープと、濃厚な漢方系の当帰スープとがあり、どちらも地元民に人気がある。

 

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『錕羊肉』の新鮮なラム肉は軽くゆがいた状態で美味しく食べられる

 

 羊肉湯の正しい食べ方は、まずスープをひと口味わい、次にラム肉の薄切りをそのままいただく。新鮮なラムの脂身は真っ白く、甘みが強い。

 次は、甘辛い醤油ダレとショウガの千切りを添えて味わう。辛味ソースも添えればアクセントになる。

 そして最後は醤油ダレに付けたラムをオン・ザ・ライズ。ほかほかの白米の上にのせて、肉と白米を一緒に口に放り込む。ラム好きにはたまらない至福の時間だ。

 

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『錕羊肉』の茹でラム肉盛り合わせ

 

 『錕羊肉』にはさらに裏メニューがある。看板にはないものの、茹でラム肉のいろいろな部位を切り身にしてワンプレートで出してくれるのだ。珍しいのはラムの皮付き肉。皮についたプルプルの脂肪と肉はまったく臭みがなく、絶品だ。思わず「んまい!」と声に出してしまうほど。ラム肉は苦手、という方にもぜひチャレンジしてほしい。

 

*3月12日に著者の新刊が双葉文庫より発売されます。タイトルは『台湾一周‼ 途中下車、美味しい旅』です。ぜひお楽しみに‼

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*本連載は月2回(第2週&第4週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾で暮らしてわかった律儀で勤勉な「本当の日本」』『スピリチュアル紀行 台湾』他。朝日新聞社のwebサイト「日本購物攻略」で訪日台湾人向けのコラム「日本酱玩」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/  近況は→https://twitter.com/keyword101

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