台湾の人情食堂

台湾の人情食堂

#10

旅の思い出はちょっとの勇気と一杯のお酒から

文・光瀬憲子

   

 

出会いの島、台湾

 旅先で現地の人たちと知り合うのは楽しい。

 私が20歳で初めて台湾を訪れたとき、この土地に魅了された理由はいろいろあったが、その最大の理由は「人」だった。台湾に暮らす人々の温かさや心の広さのとりこになったのだ。2~3人、またはひとりで訪れる個人旅行の場合、台湾にはたくさんの出会いのチャンスがある。今回はそんな出会いのコツやエピソードをご紹介したい。

 

 初めて台湾を旅したとき、私は地元で評判の屋台グルメを、旅で最初に知り合った同年代の学生にごちそうになった。また、道端で地図を広げたとき、声をかけてくれたのは日本語のできるお年寄りだった。一週間ほどの滞在で、当時言葉もまったくできなかった私は大勢の台湾人と知り合い、空港で花束を渡され、帰国を惜しまれた。不思議な夢を見ているようなひとり旅だった。

 それ以来、台湾で人と知り合い、関わり合うのが大好きになった。いまも台湾を訪れるたびに多くの出会いに恵まれる。

 

 

 

台北に着いたら、下町の廟に直行

 

 

 台北に行くとまず足を運ぶのは、数年前にたまたま寄り道をした下町、艋舺(バンカ/万華)の清水厳祖師廟(写真)。その脇にある小さな大衆食堂『祖師廟口自助餐』は中高年男性が集まる昼飲み天国だ。

 

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 オープンなキッチンカウンターを常連客がぐるりと囲む。カウンターの端に腰掛けると、日本語ができる女将さんが必ず話しかけてくれる。台湾人のなかには、親戚や知り合いが日本に留学した、日本人と結婚した、日本に住んでいる、など、日本とゆかりのある人がとても多い。つまり、多くの台湾人は何らかの形で日本人とつながりを持っている。ほとんどの台湾人が、仕事や観光目的で渡日経験があると言っていい。「おいしい」「一番」「ありがとう」などの簡単な日本語ならたいてい通じるのだ。

 祖師廟の自助餐に来る常連客のなかには日本語が達者な人もいる。カウンターの奥で静かにひとり酒を飲む高齢の男性は、第二次世界大戦中に日本人として戦った経験を持つ。また、達者な関西弁をしゃべるおじさんは仕事で日本にしばらく住んでいたらしい。

 この店で他の客が食べている料理をのぞき、女将さんに同じものを注文したり、何がオススメかを聞いたりするうち、常連客の誰かが声をかけてくれる。一緒にビールを乾杯するところまでこぎつければ大成功。北京語なんかできなくても、片言の英語や日本語、そして場の雰囲気が手伝って仲良くなれる。

 

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日本語が通じやすい、龍山寺向かいの艋舺公園

 

 艋舺は高齢者が多い下町なので、必然的に日本語教育を受けた高齢者の割合も高くなる。龍山寺前にある広々とした艋舺公園。ここでは普段から地元のお年寄りが将棋を指したり、おしゃべりをしたりして過ごしている。

 昨年、取材のため日本時代を過ごした高齢者を探していたとき、ひとりの戦争経験者と知り合った。もう何十年も日本語を話していなかったそうだが、嫌な顔ひとつせず公園のベンチを勧めてくれて、見ず知らずの私の問いかけに一生懸命日本語で答えてくれた。かつての小学校の先生のエピソードや日本が敗戦したときの複雑な心境をつたない日本語で、涙ながらに語ってくれた。台湾の人たちの懐の深さと、日本人に対する愛情を痛感した体験だった。

 日本だけでなく、台湾は歴史上、オランダの支配を受けたり、中国の支配を受けたりしてきた。中国本土からの移民もいれば、古くから台湾島で暮らす先住民もいる。色々な文化や考え方が入り混じった土地だからこそ、台湾人は柔軟性が高く、外から来た者に対してすぐに心を開いてくれるのだ。

 

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若者の好意に感謝、日本で恩返し

 

 

 日本人旅行者に対する受け入れ度が高いのは、台北だけではなく、また高齢者だけでもない。台北の南西にある新竹の街で、ある若者と出会った。地元の美味しい店を探して歩き回っていたとき、行列ができている鍋店を見つけて入ろうか否か迷っていたところ、「ここ、すごく美味しいよ」と行列に並んでいた男性が話しかけてくれたのである。英語が達者な20代の若者だが、日本への憧れが強く、私が日本人だと分かると地元の美味しい店をたくさん紹介してくれた。そしてなんと、一緒に鍋を囲もうと提案してくれたのだ。この若者の鍋奉行ぶりに見とれながら、私は新竹の寒空の下、温かい鍋をいただくことができた。

 

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 相手が若者なら、SNSで関係をつなげておくのも楽しい。日本人と同様、台湾人の間でもLINEやFacebookは常識。台湾でおもてなしをしてくれたお返しに、彼らが日本に来たときは日本の美味しい店を教えてあげると喜ばれる。ちなみに、このとき新竹で知り合った若者は、後に二度日本を訪れ、そのたびに日本の居酒屋や観光地を案内している。

 

 

登山と温泉浴で友達に

 

 

 台東では20~30代の若者のグループとも知り合った。登山目的で台東の山奥の民宿に泊まったときだ。民宿のオーナーが近くの秘境温泉に案内してくれるというので、同じ宿に泊まっていた若者グループとともに出発することになった。同じ車に乗り合わせ、過酷な登山コースを半日かけて歩き、山の中で一緒に温泉に入った。当然、仲間意識も生まれる。英語が達者な人、日本語ができる人もいて、夜の宴は大いに盛り上がった。

 日本や韓国と比べると台湾の若者は酒を飲まない人が多いので、酒のいきおいで仲良くなるケースは少ないのだが、それでも少量のワインと美味しい山の幸があれば十分。このときの数人とはいまもSNSでつながっている。

 

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豪快な海の男たちと朝酒

 

 

 高雄の港では豪快な出会いもあった。高雄の前鎮漁港は築地市場のような活気のある市場で、午前3時頃から海の男たちでいっぱいになる。ピーク時は仕事が忙しくて相手にされないが、一段落した6時過ぎは、彼らが疲れを取るために一杯やり始める頃。そんなとき、「船長」と名乗る大柄な男性と知り合った。

 高雄では北京語よりも台湾語がよく話されているので、私はぎこちない台湾語で彼らに話しかけてみる。市場で売られている貝のバター炒めをツマミにビールや保力達加米酒(台湾版養生酒+焼酎)を注ぎ合う。白い発泡スチロールのケースをテーブル代わりにして、朝日を浴びながらの楽しい宴が始まる。

 

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 もちろん、旅先での出会いには一定の警戒心も必要だ。安易に車に乗せてもらったり、家について行ったりということは避けるべきだが、食堂や居酒屋でなら、ちょっとだけ勇気を出して声をかけてみると旅はぐっと楽しくなる。そうなれば、日本を旅行中の外国人が困っている姿を見たとき、声をかけてあげられるようになるだろう。

 

 

*来る4月28日(木)19時30分~、東京・西荻窪の『旅の本屋のまど』で、著者の台湾旅行講座が行われます。詳細、お申し込みは、以下のお店のホームページをご参照ください。ご参加をお待ちしています!

●『旅の本屋のまど』HPはこちら→http://www.nomad-books.co.jp/event/event.htm

 

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『ビジネス指さし会話帳 台湾華語』『スピリチュアル紀行 台湾』他。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「翻訳女」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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