旅とメイハネと音楽と

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#10

モロッコの「青の町」シャウエンの旅〈前編〉

文と写真・サラーム海上

 

 11月中旬からイスラエルの音楽祭を取材に行く。その出発前、忘れてしまわないうちに、前回7月に訪れた二年ぶりのモロッコとロンドン、そして初めて足を運んだトルコ南部の地中海の町アナムルでの料理と音楽取材をつれづれなるままに記していこう。

 

モロッコ北部山中の小さな町、シャウエンへ 

 モロッコでは世界最小の音楽祭「ジャジューカ音楽祭」で三度目の取材を行い、その後に北部の山中にある小さな町シャウエン(またはシャフシャウエンとも)を初訪問した。

 シャウエンはリフ山脈の山の斜面に広がる人口3万人ほどの小さな町。15世紀に要塞として建てられた旧市街の壁面が水色に塗られていることから「青の町」と呼ばれ、標高が約1000mと高く、夏でも涼しい気候のため外国人旅行者の間で人気が高い。

 マラケシュやフェズの巨大で迷路のような旧市街とは違い、この町の旧市街は初めての人でも迷うことなく歩いて回れるほどのこじんまりとした規模。

 三日間にわたった摂氏43度、灼熱のジャジューカ音楽祭(こちらについては時間は前後してしまうが、後日に書くつもりだ)終了後、僕は6人の友人たちとシャウエンを訪れた。

 町の中心の広場で車から降り、大きな荷物を引きずって石畳の旧市街に入ると、小さな町の規模にしては驚くほど外国人観光客が多いし、道の両脇にはカラフルなお土産物を置いたお店が延々と続いている。しかも、カラフルな麦わらバッグや帽子、ハーブ入りの石鹸など、置いているものも、モロッコの他の町で売られている同じものよりも明らかに趣味が良い。しかも値段も安い。これは長居してしまう人の気持ちがわかるなあ。

 

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人気のリヤドにチェックイン

 

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旧市街の水色の壁面に、洒落たお土産が並ぶ

 

 さっそく旧市街中心に建つ人気のリヤドにチェックインを済ませ、友人たちと街歩きに出た。お土産屋をひやかして歩き、アルガンオイルや石鹸、金属細工などを買っていると、少しお腹が空いてきた。時計を見ると午後3時半、思えば早朝にジャジューカ村で朝食を食べて以来、何も食べていなかった。

 日本を出る前に、福岡でモロッコ専門の旅行会社「サラム・モロッコ」を営む友人の大西久恵さんから「シャウエンに行ったらバブ・スールというレストランに行って下さい。もしそこの料理が気に入ったなら、ご主人サイードさんを訪ねるといいです。彼は日本に20年以上暮らしていたので日本語がペラペラです」と言われていた。そこで、町の広場の裏側にある『バブ・スール』を訪れることにした。

 

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町の広場、外国人旅行者も多い

 

 広場から西に向かって下り坂になっている広めの通りをちょいと進み、右脇に入った下り階段の途中に『バブ・スール』の看板を見つけた。一階に入ろうとすると、若いウェイターに「上のテラスが見晴らしがいいよ」と声をかけられた。狭く、暗い階段を四階まで登ると、建物の奥がテラスになっていて、山の斜面に沿って広がる水色の旧市街が目前に迫ってきた。これは思ってもいなかったナイスビュー! 7人で一角に陣取ると、眼下のモスクから「アッラー~・アクバル~♪」と祈りを即する声アザーンが流れてきた。 これは幸先良さそうだ!

 友人たちはモロッコにいる間ずっと、レストランでどの料理を頼むべきか、頼まざるべきかを僕に一任してくれる。新たな土地で美味しい料理を見つけ出すのはいつでも楽しいが、責任も重大だ。

 フランス語とアラビア語で記されたメニューに目を通すと、まず値段の安さに驚いた。前菜類はどれも一皿12DH=約120円。モロッコのスープ「ハリラ」は5DH=50円。そしてメインディッシュのタジン類は25~45DH=250~450円。タンジェやフェズの半額じゃないか! なかには珍しいタンジーヤ(羊肉の壺入り蒸し焼き)やモロズィーヤ(牛テールの煮込)、さらに牛の胃袋や脳味噌、ペニスのタジンなんてゲテモノまでしっかり記されている。ここなら何を頼んでも美味そうだ。幸い7人もいるので気になるものを片っ端から頼んでしまおう。

 

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『バブ・スール』の看板とメニュー

 

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若いウェイターさんにあれこれ注文

 

 まず前菜を3つ。トマトときゅうり、玉ねぎ、イタリアンパセリをざく切りにして、レモン汁と塩、オリーブオイル、クミンパウダーで和えたモロッカンサラダ。次にズッキーニの焼きサラダ。ざく切りにしたズッキーニを少々の玉ねぎとともにオリーブオイルで炒め、クタクタになったらレモン汁と塩、胡椒で味付けし、室温に冷ましたもの。赤パプリカの焼きサラダも同様の作り方だ。

小さめのクッションのような形をした自家製のモロッコパンをちぎって、こうした前菜をのせるだけで十分に美味い。しかも、お皿は僕が以前からモロッコに行く度に少しずつ買い集めてきたフェズ製の陶器を使っている。今回はフェズを訪れないため、フェズ製のお皿を買えないと思っていたのだ。シャウエンでフェズ製のお皿を買えるならラッキーだ。

 

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前菜のモロッカンサラダ(上)、ズッキーニの焼きサラダ(左)、赤パプリカの焼きサラダ(右)

 

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お店自家製のモロッコパン。前菜をのせていただく

 

 続いてはタジン。シャウエンは地中海からも近いため、メニューにはカタクチイワシやイカ、海老のタジンも載っていた。そこでそれら三種のタジンを頼んだ。するとまずイカと海老のタジンが届いた。直径16cmほどの土鍋の上からジュージューと湯気が出ているが、タジンの特徴であるはずの煙突型の蓋がされていない。しかも、鍋を覗き込むとイカも海老もグツグツ沸騰するオリーブオイルの中に浮かんでいる。え、これ本当にタジン? まるでスペインのアヒージョじゃないか?

 タジンとは土鍋一般のことを指す言葉だから、たとえ見慣れない形であっても土鍋で煮込んだバブ・スールの料理はタジンには違いない。それに、エジプトでターゲン、チュジニアでタジンと言っても煙突状の蓋なんて使っていない。

 混乱した頭のまま、グツグツオリーブオイルが煮えた海老のタジンにモロッコパンの一切れを浸し、口に入れる。アッチッチ! 一口目からいきなり大やけどした! 保温性の高い土鍋でグツグツいってるオリーブオイルを覚まさずに口に入れちゃダメだ! 冷水をがぶ飲みし、もう一度タジンに挑むと、こりゃ美味い! オリーブオイルにはたっぷりのにんにくとイタリアンパセリのみじん切りが入っていて、そこに海老の出汁も溶け込んでいる。緑色の小さなレモンをきゅっとしぼるとさらに美味い。

 味はまるっきりアヒージョだが、モロッコ北部にある町シャウエンはモロッコ独立以前はスペインに占領されていた歴史を持つ。地中海を渡ってすぐのスペインの料理から影響を受けていないわけがない。タンジェではパエリアが名物料理となっているくらいだから、アヒージョにタジン鍋を使うのもおかしなことではない。

 

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アヒージョのようなイカのタジン

 

 そんなことを考えていると、同じく蓋のない土鍋でミートボールのタジン、カタクチイワシのタジンが運ばれてきた。これらは蓋こそないものの、モロッコの他の町で見かけるのと同じ、トマトソースの中で具材が煮込まれたタジンである。カタクチイワシは足が早く、鮮度の高さが勝負の魚。それを手開きにして、タジン鍋の底にならべ、上からトマトソースをかけて、蓋をしてグツグツと煮込んだだけ。ミートボールのタジンも同じ作り方で、鍋の真ん中に卵を割り入れて半熟状態で供される。

 どれもシンプルだが、しっかり素材の味を引き出していて、優しい味。レストランの料理というよりも家庭料理に近い。中でもイカのアヒージョ、いやイカのタジンは一鍋だけでは足りずに、その場でおかわりしてしまった。いやあ、満腹、満腹!

 

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ミートボールのタジン

 

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カタクチイワシのタジン

 

 帰り際、若いウェイターに「サイードさんはいる?」と聞くと、「夜になったらお店に現れるよ」とのこと。それまで三日間、ジャジューカ村で毎食食べすぎていたのと、この日も遅い昼食をたっぷり食べてしまったので、夕飯は要らないなあ。サイードさんに会うのは翌日出直そう。

 

 翌日、6人の友人は次の目的地を目指し、空港のあるタンジェに戻ることになっていた。しかし、僕だけは初めての町を満喫するため、一人シャウエンに残り、さらに二泊することにした。友人たちは午前中にお土産を買いに出て、正午前に宿をチェックアウトした。タンジェまでは自動車で三時間かかる。そこで出発前に再び7人で『バブ・スールへ』と出かけた。みんな『バブ・スール』の家庭的な料理が好きになっていたのだ。

 お店を訪ねると前日のウェイターが迎えてくれた。「アハラン・ワ・サハラン(ようこそ)日本の方」

 前日と同じ四階テラスに陣取り、モロッカンサラダ、ズッキーニの焼きサラダ、イカのタジン、海老のタジンを頼む。さらに若いウェイターに勧められた羊とプルーンのタジン、タンジーヤ、モロズィーヤを頼んだ。

 

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羊とプルーンのタジン

 

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タンジーヤ、マラケシュ名物の羊肉の壺入り蒸し焼き

 

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モロズィーヤ、牛テールの煮込み

 

 野菜や魚介料理は前日と同じく、お皿やタジン鍋の底までパンですくって食べたくなるほど美味かった! このお店なら毎食通いたくなる! 肉料理は日本人の胃には少々重たかったが、トロトロに煮込まれた牛のテールなどスタミナがつきそうだ。作り方としては他の大きな鍋で時間をかけて煮込み(圧力鍋も使っているはずだ)、それを注文が入ってから小さな土鍋に入れて、温め直しているのだろう。

 

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『バブ・スール』の家庭的な料理、僕も友人たちも皆とても気に入った

 

 食事をすませ、ウェイターにサイードさんが来ているかと聞くと、彼は山に行っていて、まだお店に来ていないとのことだった。

 時計を見ると午後3時、そろそろ友人たちはタンジェに戻るタクシーの時間だ。いったん全員で宿に戻り、友人たちは荷物をピックアップし、タクシーが待つ広場近くの駐車場へ。僕は彼らを見送りに行き、一人シャウエンに残る。

 広場に面したカフェの野外席に腰掛け、ウェイターから聞きだしたサイードさんの携帯に電話をかけた。すると明るい声の日本語が返ってきた。「ああ、久恵さんの友人の方ですね。お店に二度来てくれたのに、留守にしていてすみません。明日の午前11時にお店でお会いしましょう!」

 

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友人たちを記念撮影

 

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友人たちは買い物もいろいろ楽しんでいた

 

アヒージョそっくりの海老のタジン 

 今回は『バブ・スール』で食べたアヒージョそっくりの海老のタジンを作ろう。

 小さめのむきえびを使うとモロッコらしく仕上がる。日本人的にはマッシュルームの薄切りなどを足したくなるのだが、くれぐれもアヒージョではないので(笑)、ここはシンプルに仕上げよう。

 

■シャウエンの海老のタジン

【材料(直径16cmの鍋で作りやすい分量)】

小さめのむきえび:1パック(背わたがあるようなら、背中に沿って包丁を入れ、背わたを抜いておく)

EXVオリーブオイル:50~100cc

にんにく:2かけ(みじん切り)

塩:小さじ2

イタリアンパセリ:1/2パック(みじん切り)

レモン:1/4個(くし切り)

【作り方】

1.直径16cmの円形の土鍋、または耐熱皿やスキレットをにかける。鍋が温まったらオリーブオイルとにんにく、塩を入れ、弱火にしてオリーブオイルににんにくの香りが付くまでじっくり火を通す。

2.むきえびを入れて、かるく混ぜ合わせ、油をむきえびの表面によく和え、えびの身が白く半透明になったら、火を止めて、イタリアンパセリのみじん切りをふりかけ、全体に軽く和えてから、上にレモンのくし切りをのせる。土鍋ごと鍋敷きの上にのせて食卓へ。レモン汁をたっぷりしぼっていただく。

*バゲットやピタパンに油を浸しながら熱々をいただく。

 

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『バブ・スール』で食べた海老のタジン

 

*モロッコ・シャウエンの旅、次回に続きます!

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*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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