究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#10

バックパッカーの旅と「自己責任」〈後編〉

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 前回に引き続き、バックパッカーの旅と渡航先の治安の問題について、タビリスタでも連載をしている旅行作家の下川裕治さんとともに考えてみた。

 

海外安全情報はあまり価値がない?

 下川さんはふだん旅をするにあたり、海外安全情報はほとんど見ないという。
「海外安全情報を読んだところで価値はほとんどないと思っています。あれはむしろ、パッケージツアーを組めるか組めないかの判断基準であって、個人旅行者にはそれほど価値があるものだと思っていません。犯罪はどの国でもありますし、テロや紛争などは一般的な情報から予測します。
 いろいろなエリアに行きますが、その中には、海外安全情報では危ないといわれているエリアがあるかもしれません。しかしその情報を見ていないので、僕にとっては従うもなにも……といったところ。
 安田さんが海外安全情報を守らなかった、と言われても、彼も困るだろうし、僕もなにも言えません。自己責任なのですから、その行動は海外安全情報に左右されるものではありません。
 最近の日本政府の姿勢は、ビザに関与してきています。例えばアフガニスタン。海外安全情報を守ろうとすると、行くことはできませんが、強制力はないので行こうとする人はいます。アフガニスタン政府は日本人に対してビザを発給するのですが、それに対して、日本政府は発給条件に『日本政府の認証』を加えました。日本とアフガニスタンの力関係の中でできることでしょう。その結果、日本人は通常の旅行ができなくなりました。アメリカ人は普通にアフガニスタンのビザが取れると聞きます。
 日本政府は今後、この方式を増やしていく気がします。その背後にあるのが自己責任論。ただ、安田さんのように、それがわかって入り込む人はいるわけで、自己責任で彼はそうしたまでのこと」

 シリアに入ろうとするジャーナリストはトルコを経由することが多い。日本政府はトルコ政府に圧力をかけ、中東取材で知られるジャーナリストの情報を渡しているという。そしてシリアに行きそうな日本人ジャーナリストがやってくると、トルコは入国を拒否するということも起こっているというのだ。「面倒を避ける」という日本政府の姿勢の表れだろう。


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バッシングの背景には、まわりと違ったことをする人を許さない日本社会の空気があるともいわれる

 

 

現地で危険を回避するには

 下川さんは、これまで培った旅の経験から、危険を避けるには、あえて言えば勘が大切だと言う。
「犯罪などに巻き込まれないようにするためですが、その勘はあくまで個人的なものです。犯罪レベルでいえば、経済状況がいいエリアは犯罪が少ない傾向にあります。給料が上がっていく社会では、細かい犯罪に手を染めることは意味がないからです」
 こうした現地の情報を知りつつ、勘を働かせていく。それでも犯罪に遭うこともある。
「僕も、何回も犯罪には遭いました。注意が足りなかったということで諦めるしかありません。運の問題です」
 そして、
「テロとか戦争が起きている地域は基本的に避けますが、どうしても行きたければ、その手段を探ると思います。経験からいうと、そういうエリアに入ったら、現地の軍や政府のいう通りにするぐらいでしょうか」
 とも語る。
 下川さんの言うように、いちばん大事になってくるのは、現地での空気を読む力を養うことかもしれない。
 治安の悪さというものはどことなく体感できるものだ。日本の生活では決して感じなかった不穏な空気、ピリッとした緊張は、そんなエリアに踏み込めばよほど鈍感でない限り気がつく。ここはまずいな、と思ったらすぐに撤退する決断力と勇気も、旅をしている間には身についてくるだろう。
 これはテロや紛争だけではなく、強盗だとか引ったくりを避けるための力でもある。旅も長くなってくると「歩道を歩くときはバッグは車道側の手で持たない」「荷物で席を確保したままトイレに立たない」「スマホやサイフを尻のポケットに入れない」なんて海外での常識も身につくことだろう。

 それから、ふだんから国際情勢に通じておくことがやはり必要だと思うのだ。ネットではさまざまなニュースが流れている。これから向かう先で何が起きているのか、日本人が巻き込まれた事件はないか、かんたんに調べられる時代になっている。既存のメディアも含めて目を通しておきたい。
 加えて、ひと足先に現地を旅している人のブログやSNSなども参考になるだろう。街の名前で検索するだけでもたくさんの情報が出てくる。

 こうして世界に広く触れつつ、ものごとを識りつつ旅をするのは、やはりバックパッカーの大きな魅力であると思う。
 しかし世界でもトップクラスの治安の良さを誇る日本を離れて旅するのだから、どうしたって「確実に安全」とはいえない。なにか起きれば自己責任だと炎上するかもしれない。
 でも、最低限の注意を払っていれば、危険な目に遭う確率は下がってくるはずだ。情報を集め、知識を身につけて、現地でも身のこなしに気をつける。そうしてバックパッカーたちのほとんどが無事に帰ってくるのだ。
 旅は確かに自己責任の世界だ。他人に言われる筋合いはないが、自分の身は自分で守るという当たり前の心構えはしっかり持ちつつ危険を回避して旅しよう。

 

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2017年末に起きたイランの反政府デモ。こうした突発的な事態が起きたら逃げるしかない

 

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海外に行くことをためらう風潮になってほしくないと思うのだ

 

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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