台湾の人情食堂

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#09

続・台湾で肉三昧「豚のスライス編」

文・光瀬憲子

   

 

 豚肉大国、台湾。余すところなく豚肉を食べることで知られているが、何より台湾人は豚を大切にし、崇めているようなところがある。お供え物にしたり、縁起物として食べたりすることも多い。今回は、豚足や魯肉飯(そぼろ肉かけご飯)など、日本人にもよく知られている料理ではなく、台湾でしか味わうことのできない、滷味(ルーウェイ)と黒白切(ヘイバイチエ)の世界を案内しよう。

豚肉やモツの煮込みスライス、滷味(ルーウェイ)

 

 滷味とは、豚肉やモツの醤油煮込みをスライスしたもの全般を指す。家庭で醤油煮込みを作る場合も滷味と呼ぶし、夜市の屋台にあるのも滷味だ。しかし、単なる醤油煮込みを滷味と呼ぶわけではない。台湾独特の香辛料が不可欠だ。

 滷味の茶色い煮汁には桂皮、八角、陳皮、甘草、花椒といったさまざまな香辛料がプラスされており、醤油と米酒(焼酎)だけでは出せない、奥深い味わいがある。しかし、けっして日本人に敬遠されるようなクセのある香りではなく、甘みのある醤油味がベースとなっているので台湾グルメの初心者でも抵抗なく食べられる。

 滷味の歴史は古い。かつての中国では士農工商の概念が強く、農民たちの食卓に肉が並ぶことはめったになかった。皇帝が各地を巡行する際、街で肉が振る舞われ、余った部位を農民たちに分け与えたところ、これを醤油で煮込んで食べるようになったことが始まりだとされている。

 そんな滷味はどこで食べることができるのか? 滷味屋台が一般的だ。台湾には簡単なテーブルと椅子で食事をさせる屋台と、完全移動式でテイクアウトのみの屋台があるが、滷味は後者。夜市や街中の滷味屋台はとてもコンパクトなつくりで、赤提灯をぶら下げており、若者の行列ができていることが多いが、食事をするスペースはない。

 屋台には滷味の素材がずらりと並べられている。主役はもちろん豚肉だが、ほかにも鶏肉の手羽先、豆腐、昆布、練り物なども見られる。キャベツ、ブロッコリ、マコモダケなどの野菜(写真)もあるのでバランスよく食べればなかなかヘルシーだ。滷味の花形は柔らかくて脂ののった豚バラ肉や頬肉。適度な脂身とゼラチン質が混ざり合ったスライスがたまらない。豚の耳や尻尾はゼラチン質が豊富で、軟骨がコリコリして歯ごたえが楽しい。

 

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 滷味は学生のおやつとしても人気の小吃(シャオツー)なので、午後になると学生街の裏通りなどにも屋台が現れる。学校帰りの中高生がジャージ姿で好みの具を選ぶと、それを屋台の店主に渡す。屋台によっては具材をそのままスライスして袋に詰める場合もあるが、さらに軽く煮汁で煮込んで仕上げをし、温かいものを出す店が多い。スライスされた具材は、たいていポリ袋に入れられ、煮汁を上からドロっとかける。台湾の中高生たちはこれを長い竹串でつつきながら、和気あいあいと帰路につくのだ。

 屋台で手軽に食べられる一方、滷味は大人にも愛されている。朝市では家庭用の滷味が販売されていることが多い(写真)。

 

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 豚肉をはじめとする具材が充実していて、一家のお惣菜にぴったり。主婦の強い味方である。自宅に持ち帰って食卓に並ぶことを考慮し、テイクアウトはビニール袋ではなくプラスチックのパック(写真)。塊肉のまま購入して自宅でスライスする人もいる。もちろん、上からかける滷味のソースや辛味調味料も小分け袋で添えてくれる。

 

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 一方で、中高年男性向けの滷味も存在する。考えてもみよう。豚モツの醤油煮込みが酒に合わないわけはない。だが、学生街の屋台で缶ビール片手に滷味の袋をつつくのもなんだか大人気ない。そんな飲兵衛のための滷味店も存在する。好きな部位を選んで従業員に渡すと、それをスライスしてくれるシステムは屋台と同じ。小さな店内には冷蔵庫があり、ビールをセルフサービスでいただく。たっぷりとソースのかかった、ほんのり温かい豚の醤油煮込みを口に押し込み、よく冷えたビールで流し込む。至福のひとときである。

 

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湯がいた豚モツのスライス、黒白切(ヘイバイチエ)

 

 滷味が豚モツの醤油煮込みスライス全般を指すのに対し、黒白切は豚のモツをただ湯がいてスライスしたものを指す。

 黒白切は北京語でヘイバイチエと読むが、語源は台湾語である。隨意切(お好みスライス)を台湾語では「オーベイチェ」と読むのだが、これが黒白切の発音に似ていることから「黒白切」という名が定着した。お好みスライスというネーミングのとおり、黒白切は客が豚の内臓の好きな部位を選んで店の人にスライスしてもらう。

 その由来は滷味と似ていて、正肉など上質な部位を食べられなかった庶民が内臓などの余った部分を湯がいて切ったのが始まりだ。黒白切の場合はさっと湯通ししたり、蒸したりするので、豚モツ本来の味が楽しめる。柔らかい刻みショウガと醤油膏という甘辛い醤油ダレとともに頬張れば、モツ独特の臭みはほとんど気にならなくなる。なにより鮮度がものをいう食べ物だ。

 黒白切は内臓がメイン。バラ肉や頬肉といった柔らかい部位も人気だが、やはり小腸、大腸、レバー(肝臓)、マメ(腎臓)、フワ(肺)といった多彩な食感が楽しめる部位は外せない。茶色く染まった滷味とは違い、素材ごとに色も味も異なる。小腸のなかの粉腸(写真)と呼ばれる部分は歯ごたえもあるが、中の粉っぽい部分も甘みがあって旨い。

 

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 大腸は日本の居酒屋などで食べるよりもずっと柔らかく、プルプルしている。レバーやマメは新鮮なものほどトロみがあって濃厚。その名のとおりふわふわで、スポンジのように歯に食い込むフワと、ほんのすこし歯ごたえが残るハツは私のお気に入りだ。

 日本ではモツといえば居酒屋の定番だが、台湾の黒白切は麺の店にあることが多い。そう、台湾人は豚モツをごはんや麺のおかずとして食べているのだ。でもよく見ると、街なかの裏路地や夜市近くの小道などで、店頭のガラスケースに黒白切の肉やモツを並べた店も見かける。

 

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 ドアのない開放的な店先でオヤジたちが台湾ビールを飲みながら何やら大声で話している。そんな店に出合ったら、ふらりと立ち寄って、店の奥の冷蔵庫からビールを取り出し、1、2皿の黒白切を注文してみよう。最初はビールでいいが、日本(関東)の酒好きならホッピーがほしくなるかもしれない。また、同じ東アジアの韓国リピーターなら、冷えた焼酎がほしくなるにちがいない。

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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著者:光瀬憲子

1972年、神奈川県横浜市生まれ。英中日翻訳家、通訳者、台湾取材コーディネーター。米国ウェスタン・ワシントン大学卒業後、台北の英字新聞社チャイナニュース勤務。台湾人と結婚し、台北で7年、上海で2年暮らす。2004年に離婚、帰国。2007年に台湾を再訪し、以後、通訳や取材コーディネートの仕事で、台湾と日本を往復している。著書に『台湾一周 ! 安旨食堂の旅』『台湾縦断!人情食堂と美景の旅』『ビジネス指さし会話帳 台湾華語』『スピリチュアル紀行 台湾』他。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「翻訳女」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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