韓国の旅と酒場とグルメ横丁

 韓国の旅と酒場とグルメ横丁

#09

レート回復! ソウルの“せんべろ”酒場へ

korea00_writer.gif

 

 

 

 冬は寒いと言っては焼酎を飲み、夏は暑いと言ってはビールを飲む。なんでも酒にこじつけるのが飲兵衛の困ったところだが、寒さがゆるむ春を迎え、歩くスピードが少しゆったりすると、飲み屋の看板がやたらと目につくようになる。

 昨年末、日本に行ったとき、東京板橋区の大山という町を久しぶりに歩いた。大山は活気のある商店街と安くて旨い飲食店が多いことで、ここ数年認知度が上がったらしい。商店街散歩だけでも十分楽しいのだが、アーケードを抜けた路地にも飲食店が連なっている。よく日本の人に「韓国は本当に飲食店が多いですね」と言われるが、日本もかなりのものだ。誘惑が多過ぎる。商業看板が目立たない住宅街に入っても油断できない。年季の入った個人経営の酒屋さんに立ち飲みコーナーがあり、おいでおいでをしている。

 誘惑に秒殺されて中に入ると、常連客と思しきサラリーマンたちが話しかけてくる。「“せんべろnet”か何かを見て来たんですか?」。日本は飲食を楽しむ文化が本当に多様化、深化している。千円程度で酒と肴を楽しめる飲み屋を紹介することに特化したサイトがあるというのだから驚きだ。

日本は「千べろ」、韓国は「万ドゥレ」

 千円でべろべろになれるから「せんべろ」。韓国でも言葉はよく省略されるので、私も「せんべろ」の韓国語訳をしてみたところ、「만(万)드레」(マンドゥレ)に落ち着いた。「1万ウォン(約千円)でべろべろ」を韓国語化すると、「만원으로 곤드레 만드레」(マンウォンウロ コンドゥレ マンドゥレ)となる。

 日本人でも「べろべろ」や「ぐでんぐでん」の字義を説明するのは難しいのと同様、「コンドゥレ マンドゥレ」をかみくだいて説明するのは難しい。酔っぱらった状態のことなのだが、日本人から「べろべろ」や「ぐでんぐでん」の酔い具合を聞いてみると、どうやら「コンドゥレ マンドゥレ」のほうが重症らしい。

 まあ、日本で千円分飲むより、韓国で1万ウォン分飲むほうが泥酔率は高いのでしかたないだろう。千円を両替すると1万ウォン以上になるまでレートが回復した今、みなさんにも韓国で安く楽しく酒を飲んでもらいたい。

韓国のせんべろタウン、永登浦へ

 韓国を代表する「せんべろ」、いや「万ドゥレ」店はどこか? すぐに思い浮かんだのが、ソウルの西南部にある永登浦(ヨンドゥンポ)という町。“漢江の奇跡”と呼ばれた70~80年代の高度成長期、工業地帯として発展したところで、当時ソウルの中心だった漢江の北側に住めなかった朝鮮戦争避難民や、職を求めて上京した地方出身が集まった地域。関東で言えば、北千住、立石、赤羽、川崎。関西で言えば大阪の天王寺のような町だ。

 

kankoku#09_01

ビール+焼酎+つまみ1品で約870円(!)

 日本はここ数年、酒2杯とつまみ1品程度が千円で楽しめる店が増えたようだが、韓国ではほんの数年前まで1万ウォンでマッコリや焼酎などの酒3瓶(3杯ではない)とつまみ1~2品は楽しむことができた。しかし、最近は物価が高騰し、特に都市部の飲食店では、1万ウォンでは酒2本と申しわけ程度のつきだしが添えられる程度だ。

「儲からなくたっていいの。ウチで気軽に飲み食いして、笑顔になってくれたら私も幸せだし、食べていけるんだから」

 こんな泣かせることを言うのは、永登浦伝統市場にある万ドゥレ酒場『トンチョン・ポウォン』の女将。かつて全羅北道の黄海に浮かぶ仙遊島からソウルの永登浦にやってきた苦労人だからこその言葉だ。

 焼酎もマッコリも1本3000ウォン、ビールは4000ウォン。もっとも安いつまみは3000ウォンで、テジモリ(豚の頭や首周りの肉を茹でたもの)、トゥブキムチ(豆腐キムチ)、ケランマリ(卵焼き)の3品。3000ウォンってそんなに安い? などと言ってはいけない。この店は盛りが多いことで有名なのだ。

 他にも人気のつまみが3つある。焼酎と相性のよいオドルピョ(豚軟骨と肉の激辛炒め)と、女将の故郷・全羅道の名産コマク(蒸したハイ貝、写真)。それぞれ5000ウォン。そして、6000ウォンのペクハプタン(貝汁)は酒や辛いもので焼けた口中を癒してくれる。

 

kankoku#09_02

 

 1人で焼酎1本をちびちびやりながら、3000ウォンのつまみ2品を食べれば、千ウォンのおつりがくる。2人なら、ビール+マッコリ+焼酎(計1万ウォン)で、日本の人の肝臓にはじゅうぶんな万ドゥレ(せんべろ)効果が得られるうえ、つまみに1万ウォンも割くことができる。ちょっとぜいたくしたいときは7000ウォンのチュクミ・ポックム(イイダコ炒め、写真)がいいだろう。

 

kankoku#09_03

 

 季節ごとの得するセットもある。先月は焼酎1本に日本人が大好きなタッカンマリ(鶏の水炊き)が付いて、1万1千ウォン(千百円弱)という破格のメニューもあった。

天使の肖像

 店は永登浦駅方向から伝統市場通りに入って左手にあるが、通りを挟んだ向かいにも席がある(写真)。いつもおしゃれに気をつかいながら、調理に、サービングに、掃除に常に動き回っている女将(写真)の姿を見ながら一杯やっていると、ふとこう思う。あぁ、現実の天使というのはこういう姿をしているんだなと。地方で出会った昔ながらの人情酒場の女将の多くが高齢で店を閉めつつあるが、この店の女将はまだまだ若くて元気だ。

 

kankoku#09_04

kankoku#09_05

 

 みなさんもリアルな天使に会いに、ソウルの下町、永登浦にいらしてください。

 

*『トンチョン・ポウォン』永登浦区永登浦洞5街31/08:30~13:30/無休

 

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

*来る5月14日(土)と15日(日)、名古屋の栄中日文化センターで、筆者の旅行講座があります。14日は13時~15時(ソウル編)、15日は10時~12時(ソウル+地方編)と13時半~15時(講師と雑談会)。お申し込みは3月1日(火)から、下記の栄中日文化センターのサイトか、お電話(0120-53-8164)で。

●栄中日文化センター http://www.chunichi-culture.com/programs/program_166125.html

 

korea00_writer

korea00_writer.gif

紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

紀行エッセイガイド好評発売中!!

korea00_book01

うまい、安い、あったかい 

韓国の人情食堂

korea00_book02

港町、ほろ酔い散歩

釜山の人情食堂

   

 韓国の旅と酒場とグルメ横丁
バックナンバー

その他のTRAVEL

ページトップへ戻る

ページトップへ戻る