旅とメイハネと音楽と

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#09

トルコ・ガジアンテップ出身ユスラさんの家庭料理

文と写真・サラーム海上

 

ユスラさんにラマダン月のイフタール料理を教わる 

「ラマダン月の間に、妻が作るイフタール料理を食べに来ませんか?」
 今年の6月、千葉県在住の友人、大場宏行さんから連絡を受けた。もちろん、食べに行きますよ~!
 拙著『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』でも取り上げたが、宏行さんの奥様ユスラさんはトルコ南東部が誇るグルメの町ガジアンテップ出身のトルコ人女性。僕は一年前のラマダン月にも彼らの家に招待され、ユスラさんからガジアンテップの典型的なイフタール料理(ラマダン月の日没後に食べる特別料理)四品の作り方を習っていた。
 ユスラさんは以前、東京のトルコ料理店で働いていた料理上手。自宅近くのハラルフード店で手に入る輸入食材と、一般的な日本の食材を上手く組み合わせてガジアンテップの料理をサクサクっと作ってしまう。一年前に彼女から教わったソーアンル・ヤフニー(羊肉と玉ねぎのトマトペースト煮込み)はとても簡単ながら本場の味がして、僕は中東料理のワークショップなどでも度々作ってきた。
 さて、今回はどんな料理が習えるのだろうか!?


 6月21日、僕は総武線、都営浅草線、そして、北総線を乗り継ぎ、千葉県松戸市の某駅に到着した。改札口を出ると、ユスラさんが長女の海凪(ミナ)ちゃんの手を取り、次男の海士(カイト)君を背負って、ニコニコしながら待っていてくれた。
「サラームさん、ホシュゲルディニズ(ようこそ)。一年ぶりですが、SNSの美味しそうな料理写真をいつも見てますよ」
 駅前の広い道路で、ちょうど幼稚園のスクールバスから降りてきた長男のドルクダヴト君を迎え、駅から徒歩5分ほどのご自宅へ向かった。荷物を下ろすと、その場で一階奥にある広いキッチンに通された。海凪ちゃん、ドルクダヴト君は居間で思い思いに遊び始めたようだ。ユスラさんは海士君を背中におんぶしたままエプロンをかける。僕も持ってきたエプロンを着て、カメラ、ノート、ペンを用意する。さて、準備完了! ユスラさん、いつでもどうぞ。
「今日はアンテップの茄子入りケバブ「アンテップ・パトゥルジャン・ケバブ」、そしてペコロスにひき肉を詰めた「ソーアンル・ケバブ」、それからグリーンサラダにざくろソースをかけた「ガヴルダアウ・サラタス」などを作ります」
 うわ、どれも美味そうだなあ。しかも食べたことのない料理ばかりなのもうれしい。ちなみにアンテップとはガジアンテップの古い名称。現在は「戦士」を意味する「ガジ」を付けたガジアンテップが正式名称となっている。

 

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トルコ南東部のグルメの町、ガジアンテップ出身のユスラさん

 

「最初はアンテップ・パトゥルジャン・ケバブ。去年教えたソーアンル・ヤフニーに似ていますが、味は全く違うのでお楽しみに」
 用意する野菜は茄子四本、ピーマンとトマト一個、赤パプリカ1/2個、にんにく一株。それらをお盆の上で彩り良く飾ってから料理のスタート。

 

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材料の野菜は身近なものばかり

 

「まずは羊肉250gを一口大に切り分けます。この肉は近くのハラルフード店で買いました」
 イスラーム教徒が国民の99%を占めるトルコでは、肉と言えばたいていは羊肉を指す。ご存知のとおり、豚肉はタブーである。羊肉の角切りは日本では大型スーパーやお近くのハラルフード店で手に入るが、手に入らない場合は、味は変わってしまうが、カレー用の角切り牛肉で代用しても良いだろう。切り分けた羊肉を底の厚い鍋に入れ、オリーブオイル大さじ1と塩小さじ1、水100ccを加えて火にかける。水が蒸発し、肉に火が通るまで炒める。

 

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一口大に切り分けた羊肉を火が通るまで炒める

 

「次はピーマン、赤パプリカ、玉ねぎ、トマトは荒みじん切りです。にんにくは4かけをみじん切り。にんにくは多すぎても少なすぎてもダメなんです」
 肉に軽く焼き色が付いたら、ピーマン、赤パプリカ、玉ねぎ、トマト、にんにく、ひよこ豆の水煮、さらにトマトペーストを大さじ3と、ガジアンテップ名物の赤パプリカのペースト「ビベール・サルチャス」を大さじ1加えて炒め煮にする。
 ビベール・サルチャスは赤パプリカを塩漬けにして、水分を抜いてからペースト状にしたもの。ポルトガル料理のマッサ・デ・ピメンタオンやハンガリー料理のパプリカペーストで代用出来る。トマトペーストに似ているが、赤パプリカならではの爽やかな辛さが独特だ。どれも手に入らない場合は韓国の豆板醤少量で代用しよう。

 

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赤パプリカのペースト、ビベール・サルチャス

 

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野菜とペーストを加えて炒め煮に

 

 野菜から水分が出てきたら、茄子を足そう。
「この料理はたっぷり茄子を使うのが特徴です。茄子は皮を縞模様にむいて、縦四つ切りにしてから、3~4cm幅に輪切りにします」
 茄子に油が回ったら、水を2カップ加え、鍋に蓋をして30分弱火で煮込む。
「小さな火でコトコトと長時間煮こむことで美味しくなるんです。手早く作ろうと思ってはダメですよ」

 

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鍋に輪切りの茄子を加えて、弱火で煮込む

 

 アンテップ・パトゥルジャン・ケバブを煮ている間に、2品目のソーアンル・ケバブを進めよう。
 ソーアンとはトルコ語で玉ねぎのこと。しかし、ここでは普通の玉ねぎではなくペコロスを使う。ペコロスは普通の玉ねぎよりも糖度が高く、辛みが少ないので、丸ごとの形を活かした煮込み料理などに向いている。2つに割ったペコロスに羊のひき肉を詰めて野菜とともに蒸し焼きにするソーアンル・ケバブは、僕はイスタンブル・カドゥキョイ地区の銘店『チヤ』でいただいたことがあった。
「ペコロスはフライパンに一度に並べて敷き詰められる量でいいんです。今回は25個ですね。そして、外側の皮をむくんですが、渋皮一枚だけは残して下さい。ここから良い味が出るんです」
 渋皮を一枚残したペコロスの先端を切り落とし、先端側から縦に3分の2まで包丁を入れる。2つに切ってしまわないように、付け根の部分には包丁を入れない。

 

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ペコロスの先端を切り落とし、縦に3分の2まで包丁で切れ目を入れる

 

 その切れ目を包丁と指で広げ、塩、胡椒、オリーブオイルで下味を付けてよく練った羊ひき肉を小さじ山盛り1杯ずつ詰めてから、ギュッと押し付ける。練ったひき肉を接着剤代わりにするわけだ。肉を詰めたペコロスはフライパンの底にそっと並べていく。

 

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羊ひき肉に塩、胡椒、オリーブオイルで下味を付けて、よく練る

 

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ひき肉小さじ山盛り1杯を、ペコロスの切れ目に詰める

 

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肉を詰めたペコロスをフライパンに並べる

 

「ペコロスの上にはトマトとピーマンの輪切りを並べて、水1カップをかけて、蓋をして蒸し煮にします。上にのせた野菜の味が肉にしみて美味しくなりますよ」
 弱火で20~30分、水分がとぶまで蒸し煮にしよう。

 

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肉詰めペコロスの上に野菜をのせ、蓋をして蒸し煮に

 

 さて、そろそろアンテップ・パトゥルジャン・ケバブも煮えて、ラタトゥイユのような状態になってきた。
「アンテップ・パトゥルジャン・ケバブの仕上げには乾燥スペアミントを大さじ山盛り1杯とレモン汁、ざくろビネガーを加えてよく混ぜ合わせるんです」
 乾燥スペアミントをふりかけると、台所が爽やかな香りに包まれた。食欲を誘う香りだが、トマト味の煮込みにスペアミントたっぷりなんて、一体どんな味になってるのだろう? しかもレモン汁とざくろビネガーまでたっぷり使っている。ここでのざくろビネガーとはざくろの実を6倍以上に煮詰めて漉したもの。トルコ語では「Nar Eksisi」、英語では「Pommegranate Molasses」と呼ばれ、韓国のざくろ酢やお酒のカクテルに用いるグレナディン・シロップとは全くの別物なので要注意。

 

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アンテップ・パトゥルジャン・ケバブ、仕上げには乾燥スペアミント

 

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スペアミント、レモン汁、ざくろビネガーも加えてよくまぜあわせる

 

 ソーアンル・ケバブのほうもいつの間にか水分が飛んだ。こちらは最後にもう一工程ある。アルミホイルを敷いた天パンに移し、オーブンで表面に焼き色が付くまで10分焼くのだ。

 

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フライパンで蒸し煮した肉詰めペコロスと野菜、仕上げにオーブンで焼く


 ケバブの出来上がりを待つ間にガヴルダアウ・サラタスも作ってしまおう。
 これはとっても簡単。トマト、きゅうり、玉ねぎなどの緑黄色野菜を小さくサイコロ切りにして、混ぜ合わせる。トルコ料理定番の「チョバン・サラタス(羊飼いのサラダ)」と似ているが、レモン汁や酢の代わりにざくろビネガーや野生のタイムであるケキッキ、塩で味付けるのが特徴だ。さらに氷までのせて野菜を冷やす。
 ガウルダアとは「異教徒の山」を意味し、ガジアンテップとアダナの間にある実在の山の名前とのこと。サラダに氷を入れるのは夏には最高気温45度を超えるトルコ南東部ならではだろう。

 

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サイコロ切りした野菜をざくろビネガーとケキッキ、塩で味付け

 

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氷をのせて野菜を冷やしたら完成!

 

 さて、これで料理は出来上がり。午後7時を過ぎ、そろそろ日没、今日のラマダンは終了だ。あとはご主人の宏行さんの帰宅を待つばかり。僕は子どもたちの遊びに混ざり、ユスラさんはキッチンに戻り、デザートのウン・ヘルヴァス(小麦粉の焦がし餅)を作り始めた。
 午後8時すぎ、宏行さんが帰宅したので、待ちに待ったイフタールの夕食だ。ラマザン・ムバラク(ラマダンおめでとう)! さっそくアンテップ・パトゥルジャン・ケバブを頂こう!
 これは美味い! 羊肉を夏野菜とともにトマトペーストとビベール・サルチャスで煮込んであるのだから、だいたいの味の予想はしていたが、最後に加えたたっぷりのスペアミント、レモン汁、ざくろビネガーのおかげで、実に複雑な味が口の中で広がる。しかも、肉の脂を吸ってトロトロに煮えた茄子が歯ごたえのある肉と対称的な食感だ。こんなに簡単につくれるのに想像もつかなかった味だ。前回習ったソーアンル・ヤフニーと色合いこそ似ているが、味は全く異なる。スペアミントが良い仕事をしてる!
「アンテップ・パトゥルジャン・ケバブは田舎の結婚式で出される料理なんです。ブルグルのピラフと一緒に食べるんです」

 

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アンテップ・パトゥルジャン・ケバブ。仕上げのスペアミントがポイント

 

 続いて、ソーアンル・ケバブ。こちらも一枚だけ残したペコロスの渋皮がペコロスの甘みと水分を閉じ込め、驚くほど甘く柔らかい肉団子が出来上がっている。これも非常に手順はとても簡単なのに!
「ソーアンル・ケバブは串に刺して直火で焼くともっと美味しいんですよ」とユスラさん。

 

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オーブンで焼いて完成したソーアンル・ケバブ

 

「そうだ、秋になったら近くの公園でトルコ料理のBBQをやりましょうよ! その時はサラームさんもお誘いしますから」と宏行さん。
 おお!それは嬉しい! ユスラさんのトルコ料理BBQなんて、考えただけでよだれが止まらなくなりそうだ!

 

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ラマザン・ムバラク(ラマダンおめでとう)! 

 

 

ユスラさん直伝、ケバブ2種&サラダの作り方 

■アンテップ・パトゥルジャン・ケバブ 
【材料:作りやすい量】
羊肉角切り:250g
水:1/2カップ
塩:小さじ2
胡椒:小さじ1
オリーブオイル:大さじ1
ピーマン:1本
赤パプリカ:1/2個
玉ねぎ:1個
トマト:大1個
にんにく:4かけ
ひよこ豆水煮:200g(水煮缶1/2)
トマトペースト:大さじ3
ビベール・サルチャス:大さじ1
茄子:4本
水:2カップ
乾燥スペアミント:大さじ2
レモン汁:大さじ1
ざくろビネガー:大さじ1(なければレモン汁を少々増やして代用)
【作り方】
1.羊肉を食べやすい大きさ(2cm角)に切り、底の厚い鍋に入れる。水、塩、胡椒、オリーブオイルを足し、火にかける。
2.ピーマン、赤パプリカ、玉ねぎ、トマトは荒みじん切り、にんにくはみじん切り。茄子は皮を縞模様にむき、縦四つ切りにしてから、3~4cm幅で輪切りにする。
3.鍋の水分が飛び、肉に火が通ったら、切った野菜とトマトペースト、ビベール・サルチャスを加え、炒め合わせる。
4.野菜に火が通り、水分が出てきたら、茄子を加え、よく混ぜ合わせる。茄子に油が回ったら、水2カップを足し、鍋に蓋をして30分弱火で煮込む。
5.水分が半分以上飛んだら、乾燥スペアミントを加え、混ぜ合わせたら出来上がり。

 

■ソーアンル・ケバブ
【材料:作りやすい量】
ペコロス:25個
羊ひき肉(または牛ひき肉):300g
塩:小さじ1
胡椒:小さじ1
オリーブオイル:大さじ1
ピーマン:2個
トマト:大1個
水:1カップ
【作り方】
1.ペコロスは、渋皮一枚を残して、皮をむく。先端を切り落とし、先端側から縦に2/3まで包丁を入れる。
2.ボウルに羊ひき肉、塩、胡椒、オリーブオイルを入れ、手でよく練り合わせる。
3.・の切れ目を包丁と指で広げ、・を小さじ山盛り1杯詰めて、ギュッと押し付ける。フライパンの底にそっと並べる。
4.ピーマンはへたと種を取り、縦に四つ切りにする。トマトはへたを取り、水平方向に4枚にスライスする。・の上に、ピーマンとトマトを並べ、水を注ぎ、蓋をして火にかけ、20分から30分、水分がとぶまで蒸し煮にする。
5.オーブンを220度に予熱しておく。・を天パンに移し、オーブンに入れ、表面に焼き色が付くまで10分焼く。

 

■ガヴルダアウ・サラタス
【材料:作りやすい量】
トマト:2個
きゅうり:2本
玉ねぎ:1/2個
ピーマン:1個
レタス:1/2個
氷(キューブ):6個
ざくろビネガー:大さじ2(お好みで増減)
塩:小さじ1/2
ケキッキ:小さじ1(なければ乾燥タイムで代用可)
オリーブオイル:大さじ2
【作り方】
1.トマト、きゅうり、玉ねぎ、ピーマンはサイコロ切りにする。レタスは食べやすい大きさにちぎり分ける。
2.ボウルに1を入れ、よく混ぜ合わせ、氷を散らす。ざくろビネガーを回しかけ、塩、ケキッキ、オリーブオイルで調味する。

 

 

*著者の最新情報やイベント情報はこちら→「サラームの家」http://www.chez-salam.com/

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。次回もお楽しみに! 〈title portrait by SHOICHIRO MORI™〉

 

 

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サラーム海上(サラーム うながみ)

1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家。明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている。著書に『おいしい中東 オリエントグルメ旅』『イスタンブルで朝食を オリエントグルメ旅』『MEYHANE TABLE 家メイハネで中東料理パーティー』『プラネット・インディア インド・エキゾ音楽紀行』『エキゾ音楽超特急 完全版』『21世紀中東音楽ジャーナル』他。Zine『SouQ』発行。WEBサイト「サラームの家」www.chez-salam.com

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