究極の個人旅行ガイド バックパッカーズ読本

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#08

香港の安宿事情

文と写真・『バックパッカーズ読本』編集部

 物価が上昇を続ける香港だが、バックパッカーには人気の街だ。中国へのゲートウェイとして訪れる人もいれば、この街だけを目的にやってくる人もいる。そんな香港でバックパッカーたちがまず目指すのは、重慶大厦(チョンキン・マンション)だ。そのほかにもいくつもの選択肢があるので、うまく工夫して宿代の高いこの街を乗り切りたい。

 

 

伝説の安宿集合ビル、重慶大厦

 香港のバックパッカーのたまり場といえば、いまも昔も重慶大厦ではないだろうか。
 南北に走るネーザンロードを中心に、高級ホテルやブランドショップ、ショッピングモールが立ち並ぶきらびやかな街並みに佇む幽霊屋敷のようなおんぼろビル。周囲は開発が進むのに、どういうわけか昔のまま、薄汚れ老朽化したままそびえ続けるこの雑居ビルの中には、たくさんの安宿がひしめいているのである。
 まず入口で、足を踏み入れることを躊躇するだろう。インド・中東系や民族衣装を着たアフリカ系のおじさんたちがたむろし、異様な空気を醸し出しているのである。勇気を出して忍び込んでみると、スパイシーなインド料理やヒツジの焼ける香りが漂う。まったく香港とは思えぬ様子にアゼンとしていると、インド系の人々から「両替しねえか」「ニセブランドの時計あるぜ」などと声がかかる。デリーの裏路地に迷い込んだような気さえしてくる。
 ビルの内部は複雑怪奇だ。大きくAからEの5つのブロック(座)にわかれていて、それぞれ16階(一部17階)まであるが、互いに行き来することはできない。どうも、もともと5つのビルをひとつに合体させた過去があるようなのだ。だから各座を行き来するためにはエレベーターで1階に下りて、そこからまた上って……という手間がかかる。そしてこのエレベーターが、小さくノロいこともあって、慢性的に混み合っているのだ。狭苦しいスペースにさながら満員電車のように、アフリカ、中東、インド、中国の人々、そして欧米や日本のバックパッカーが押し込まれて上階を目指す、なかなか国際的なエレベーターなのである。
 各階の様相はさまざまだ。異国からやってきた人々はおもに貿易に携わっているようで、彼らの小さなオフィスが低層にはひしめく。やっぱりカレー屋も見かけるし、雑貨屋もある。唐突にクリーニング屋が現れ、たくさんの洗濯物を廊下に並べている一角もあった。一方で、(たぶん)ごく普通の香港人も住居として生活しており、窓からはそんな家の様子も伺える。うちわを扇いでいるステテコ姿のおじさん、寝転がってテレビを見ているおばさんなんかが見えたりして、「魔窟」と称される重慶大厦にも生活があるのだと安心する。
 そう、ずいぶんとウワサがひとり歩きしてしまっているが、重慶大厦は決して危険地帯でもなんでもないのだ。確かに怪しげだし、あまりにも古びているから雰囲気が盛り上がってしまうのだが、冷静に見渡してみればそれほど危険は感じない。インド系アフリカ系の人々も、昔はここでバックパッカーたちにドラッグを売りつけるなどトラブルが多かったが、いまでは各所に警官も配備され、ニセモノドケイの誘いについていかなければとくに被害はないだろう。

 もちろん多数の人々がひっきりなしに出入りする場所である以上、注意は必要だ。しかし一部の旅ブログなどで「悪の巣窟」「暗黒ビル」なんて書かれているのは、ちょっと盛りすぎだと思う。

 

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たくさんのバックパッカーを受け入れてきた重慶大厦。これでも外装はやや修復され、1階部分は看板と電飾でずいぶんキレイになったのだ

 

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1階A座エレベーター。1階には両替屋が並んでおり、空港よりもレートがいいことで知られる

 

 

便利な場所にあるが難点は狭さ

 重慶大厦最大の利点はその圧倒的に便利な立地だ。観光の拠点である尖沙咀(チムサーチョイ)のど真ん中なのだ。空港と行き来するエアポートバスの乗り場は目の前、MRT尖沙咀駅もこれまた目の前だ。5分ほど歩けば香港島の圧倒的な絶景を眺められる公園だ。さらに香港島へと渡るスターフェリーの乗り場もすぐ近く。
 路地に入れば、超高級ホテルやオフィスビルの摩天楼の谷間に、まだまだ残る古き良き老舗の麺やら粥の店もあり、安く腹を満たせる。
 これだけの立地であれば昨今の香港の物価上昇もあって、重慶大厦の安宿の値段も上がってきている。ドミトリー70~100HK$(約1000~1500円)、シングルで150~300HK$(約2200~4300円)といったところだろうか。年末年始や春節などのハイシーズンともなれば、この3倍ほどにハネ上がることもある。重慶大厦なのに1泊1万円を超えてくるのだ。
 そして香港は狭い。重慶大厦の安宿の部屋もまた、とっても狭いのだ。部屋はベッドひとつでほとんどいっぱいいっぱいだ。壁かけのテレビが枕のすぐ上に設置されていたりして恐ろしい。安い宿だと各部屋にシャワールームを設けるスペースがないため共同になる。冷蔵庫もロビーに共同のものが置かれているだけだったりする。
 自分で部屋を見てから決めるなら、チェックしたいのはまずセキュリティ。重慶大厦にはたくさんの安宿があるが、名前の違う複数の宿をひとりのオーナーが持っているケースもよくある。それをごく少数のスタッフで管理している(英語のよくわかる出稼ぎフィリピン人ということも)。だから宿にスタッフが誰もいない場合がある。なので各部屋のカギのほかに、宿の出入り口には鉄格子風のトビラが設けられ、こちらのカギも渡されるというのが普通。この2重のカギがある宿を選びたい。
 それから清潔感だろう。共同のバスルームの場合はなおさらだ。老朽化が進んではいるが、昔のような不潔な宿はずいぶんと減ってきている。Wifiはどこも完備。
 ちなみに重慶大厦は伝説の紀行『深夜特急』にも登場する。同作が映画化されたときに撮影の舞台となったのが、B座9階の快楽招待所(ハッピー・ゲストハウス)だ。

 

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濃ゆい顔立ちの人々が重慶大厦を行き来する。インド・中東メシならここが香港で一番、と語る人も

 

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これはまだ広いほうかもしれない。カンオケのようなバスルームがついて220HK$(約3200円)

 

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重慶大厦内部はこんな感じの狭い路地が入り組む。火事になったらやばい

 

 

流行のホステルやAirbnbのほうが設備は上

 あまり知られていないのだが、重慶大厦のすぐ北には、やはり安宿が集まっている美麗都大厦(ミラドール・マンション)がある。宿のレベル、内容に大差はないが、こちらのほうがカオス度がやや薄い印象だ。
 そして本連載#07のシンガポールでも触れたが、全アジア的な流れとして、小規模でドミトリーを備えた、きれいなホステルが香港でも増加している。既存のガイドブックでは追いきれていないので、予約サイトから探すといいだろう。写真の雰囲気や口コミを見るだけでもだいぶ感じはわかるものだ。各ホステルのホームページも見てみよう。重慶大厦のドミよりもいくらか値段の高い、100~200HK$(約1000~2900円)ほどの料金帯を当たると、きれいなホステルが出てくる。
 シックなデザインでまとめられたインテリアのロビーには、共用の冷蔵庫やらフリーのコーヒーなどが置かれ、旅人たちの交流の場ともなっている。共用のバスルーム、ドミトリーともに清潔だ。ロッカー完備のところも多い。Wifiはどこでもある。場所は香港各地に点在している
 そしてAirbnbをチェックしてみると、安宿は150HK$(約2000円)ほどのドミトリーが多いだろうか、シングルは200~280HK$(約3000~4000円)ほど。ネーザンロードの北部、旺角(モンコック)や油麻地(ヤウマティ)に集中している。設備や清潔度は重慶大厦よりもはるかに良さげだ。
 さらに、試しにAirbnbで1000円前後、約70HK$の格安宿を検索してみると……これがけっこうあるのだ。ただし境界を越えた向こう側、中国・シンセンのほう。青年旅社、いわゆるユースホステルのような施設を中心に、きれいなドミを持つ宿がいくつも出てくる。中には男性限定だが40HK$(約580円)というところまであった。カプセルホテルもあったのは驚きだ。
 シンセン側にも見るところはいろいろとあるので、こちらに泊まって両都市を歩くというのもいいかもしれない。

 

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美麗都大厦は重慶大厦ほど瘴気が濃くないのでこちらを選ぶ旅行者もいる

 

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バックパッカーなら一度は泊まってみたい重慶大厦

 

 

*本連載は月2回(第1週&第3週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

*タイトルイラスト・野崎一人 タイトルデザイン・山田英春

 

 

『バックパッカーズ読本』編集部

格安航空券情報誌『格安航空券ガイド』編集部のネットワークを中心に、現在は書籍やWEB連載に形を変えて、旅の情報や企画を幅広く発信し続けている編集&執筆チーム。編著に究極の個人旅行ガイド『バックパッカーズ読本』シリーズなど。

 

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