韓国の旅と酒場とグルメ横丁

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#08

港町釜山、旧市街の魅力、再発見

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 この十数年でソウル以上に大きく変貌した港町、釜山。都市としての機能の中心は北部の西面(ソミョン)や東部の海雲台(ヘウンデ)に移ったが、日本の散歩好き、路地裏好きの琴線にふれるのはやはりチャガルチや南浦洞(ナンポドン)をはじめとする旧市街。今回は釜山旧市街の魅力を再確認してみよう。

目に映るものすべてに現代史のドラマが

 

 1876年(明治9年)、日本によって開港され、朝鮮半島の玄関口として繁栄。1945年の日本の終戦(解放)時は半島を出る日本人と半島に帰る朝鮮人が往来。1950年に朝鮮戦争が起きると半島全土から避難民が殺到……。歴史の転換点を挙げただけでも、ドラマチックな街であることがわかる。昨年、日本でもヒットした韓国映画『国際市場で逢いましょう』は、釜山の現代史を描いた代表作。そんな歴史ドラマを意識しながら街を歩くのは、まさに大人の楽しみだ。

 見ておきたいのは、朝鮮戦争避難民が仮住まいした山の斜面と、彼らが日雇い仕事をした釜山港を結ぶ細く長い階段。東区や中区に分布しているが、わかりやすいのは釜山駅前からのびているイバグギル(物語の道)。空港などにパンフがあるので、それを頼りに歩いてみよう。階段を登りながら後ろを振り返ると、釜山の駅や港、釜山港大橋が一望できる(写真)。

 

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 チャガルチ市場を西の端まで歩いて左折した辺りで目につく、木製のトロ箱(写真)にも要注目。釜山に朝鮮戦争避難民があふれたとき、このトロ箱の廃材は、傾斜地に作られた掘っ建て小屋の壁になったり屋根になったりした。この辺りでは、目に見えるものすべてが現代史を物語る小道具なのだ。

 

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日本人や朝鮮戦争避難民が持ち込んだ旨いもの

 

 釜山には植民地時代の日本人や朝鮮戦争の避難民が持ち込んだ多彩な食文化がある。たとえばオムクと呼ばれる練りものは、日本時代に流入したおでんが定着、軽食として独自の発展を遂げたもの。今では韓国どこでも見られるファストフードだが、日本との交易の歴史が古く、しかも原料となる魚介類が豊富な釜山では、とくに一般的だ。

 植民地時代の釜山には日本人経営の練りもの工場がたくさんあり、そこで練りもの作りを覚えた韓国人の多くは解放後も商売を続けた。朝鮮戦争が起き、半島全土から避難民が大量に流入すると、練りものの生産は好況を迎え、追随する者が急増した。その工場が集中していたところが今の国際市場のとなりにある富平カントン市場。今も市場内には練りもの専門店が連なっている。

 最近はオムクの専門店がベーカリー方式で展開されて大ヒットし、釜山の新たな名物となっている。練りものに野菜や肉を加えたり、大ぶりの辛くない唐辛子に詰めて揚げてみたりと、店内には多彩なオムクが並ぶ(写真)。市場の店では試食もできるし、少量でも買えるので宿に持ち帰ってお酒のつまみにしてもいい。

 日本人旅行者が利用しやすいのは、KTX釜山駅構内にある専門店『サムジン・オムク』。ベーカリーのように、陳列棚から好きなものを選んでトレイにのせ、レジに持って行けば会計できる。

 

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 また、南北分断前の北朝鮮の人々が持ち込んだスンデ(腸詰)は、酒のつまみにうってつけ。富平カントン市場の北側の出口の前にある『コンスンデ』は、北からの避難民によってもたらされたカジャミシッケ(カレイの切り身の塩辛、写真左)がつきだしとして添えられるので、特におすすめだ。

 

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釜山で食べるべき、この3品

 私が釜山に着くとまっさきに駆けつけるのがチュクミクイ(イイダコ焼き)の店。小ぶりのイイダコを甘辛いソースにくぐらせ、練炭の火で焼いたもの(写真)。香ばしくてビールにも焼酎にもマッコリにもよく合う。中央洞(チュンアンドン)駅1番出口の南側の路地に専門店『トゥンボチプ』と『シルビチプ』がある。1皿12000ウォン程度。

 

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 そして、刺身を食べなれた日本人におすすめなのがセンソンクイ。カレイなどの白身魚を油をひいた鉄板の上で揚げ焼きしたもので、“外はこんがり、中はふんわり”。マッコリと相性抜群。チャガルチ市場の海沿いに店が並んでいる。魚3種とたっぷりのつきだしで7000ウォン程度。

 もうひとつはテジクッパと呼ばれる豚骨スープの汁かけ飯。あちこちに専門店があるので、にぎわっている店に入ってみるといい。5000ウォン程度。私の行きつけは凡一洞(ポミルドン)にある『ハルメクッパ』。昨年、人気グルメ番組に登場したため、週末は行列必至なので平日に行ったほうがよい。

タクシー運転手さんに大人気の豚焼肉定食

 韓国には技士食堂(キサシクタン)と呼ばれるタクシー運転手さんが集まる食堂があるが、釜山駅のとなり、草梁(チャリョン)駅西側のユッコリ(六又路)周辺には技士食堂が6、7軒集まっている。なかでも『プンニョン技士食堂』は人気で、卓上で焼かれる味付け豚肉とごはんとチゲ+おかず9品がなんと7000ウォン(約660円)で食べられる。

 上記の店以外でも、タクシー運転手さんに「ヨギソカッカエインヌン チャラヌン キサシクタンカジ カージュセヨ」(ここから近い、おいしい技士食堂まで行ってください)と告げれば、蛇の道は蛇でいい店に連れて行ってもらえるだろう。

安くて早くて旨い麺、チャンチククス

 街歩きの途中でサッと食事をしたいときに便利なのが韓国版立ち食いそば、チャンチククス(素麺)。価格は街や店によって差があり、屋台だからといって安いとは限らない。チャガルチ市場近くの釜山銀行斜め前の『亀浦(クポ)ククス』は、温かいスープ麵も辛いソースで和えた麺(写真)もたったの2000ウォン(約190円)。南浦駅寄りのチャガルチ市場ゲートの右脇なのでわかりやすい。

 

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出船、入船のパノラマが楽しめる国際旅客ターミナル

 昨年秋、釜山港に新しくオープンした国際旅客ターミナルは、船に乗らなくても楽しめるスポットだ。旧ターミナルよりも1・5キロほど北、釜山駅の斜め裏に位置。外観がクジラを模しているので、私はひと目で「かわいい!」と思ってしまった(写真)。

 

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 建物の中に入ったら3階出国フロアの海側にあるカフェ『DROP TOP』に陣取ろう。窓際の席からも、ベランダからも船の出入りを見ることができる。このターミナルから定期就航しているのは、福岡、下関、対馬、大阪。これ以外にも不定期で外国の大型旅客船が停泊する。

 平日の午後3時頃なら、白とオレンジ色を基調としたパンスタードリーム号の船体が釜山港大橋を背にゆっくりと向きを変え大阪に向かう様子を、コーヒーを飲みながら眺めることができる(写真)。夜9時には下関、10時半には福岡行きのフェリーが出るので、こちらも見ものだ。

 

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 このターミナルはKTX釜山駅から歩くと15分くらいかかるので、30分おきで運行されているシャトルバス(1000ウォン)を利用するといい。2階入国フロアのGATE3前→KTX釜山駅の海側出口→地下鉄中央駅を循環している。

宿もソウルより割安

 眠るだけならチャガルチ市場近くの安宿がおすすめ。男女問わず日本の旅行者に人気の『三原荘(サムウォンジャン)』(写真)は1泊35000ウォン程度。他にも同市場周辺には安くて快適なモーテルが多いので、宿泊料を支払う前に「パンポヨジュセヨ(部屋見せてください)」と言って、確認してから決めるといいだろう。私の知人(日本人)は最近、この辺りの宿で週末を含め5泊し、計15万ウォンで済んだと喜んでいた。

 

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人がよく、外国人慣れしている人が多い

 釜山は避難民を中心とした“よそ者”で形成された街で、半島の玄関口として、日本人、中国人、ロシア人など外国人の行き来が多かったため、外国人旅行者をおおらかに受け入れる風土がある。外国語を話しているくらいではじろじろ見られないし、一人で食堂に入っても珍しがられない。日本語の通用率も韓国で一番高いだろう。

今までソウルばかりリピートしていた人、ぜひ一度釜山を訪れてみてほしい。

 

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*協力:釜山観光公社  HPはこちら→http://bto.or.kr/jp/main/main.php

 

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

*来る5月14日(土)と15日(日)、名古屋の栄中日文化センターで、筆者の旅行講座があります。14日は13時~15時(ソウル編)、15日は10時~12時(ソウル+地方編)と13時半~15時(講師と雑談会)。お申し込みは3月1日(火)から、下記の栄中日文化センターのサイトか、お電話(0120-53-8164)で。

●栄中日文化センター http://www.chunichi-culture.com/programs/program_166125.html

 

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紀行作家。1967年、韓国江原道の山奥生まれ、ソウル育ち。世宗大学院・観光経営学修士課程修了後、日本に留学。現在はソウルの下町在住。韓国テウォン大学・講師。著書に『うまい、安い、あったかい 韓国の人情食堂』『港町、ほろ酔い散歩 釜山の人情食堂』『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』『韓国の美味しい町』『韓国の「昭和」を歩く』『韓国・下町人情紀行』『本当はどうなの? 今の韓国』、編著に『北朝鮮の楽しい歩き方』など。auポータルサイトの朝日新聞ニュースEXでコラム「韓国!新発見」連載中。株式会社キーワード所属 www.k-word.co.jp/

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