京都で町家旅館はじめました

京都で町家旅館はじめました

#08

ニッポンはアメージング?

文・山田静

 

様々な外国人ゲストたち

 こ、紅葉シーズンもそろそろ終わりですが、み、みなさんお元気でお過ごしですか……(息も絶え絶え)。

 と、いうことで忙しくて口からなんか出そうだった最大のピーク期も山を越え、ほっとしながらぼちぼちお正月の準備に入っているわが「楽遊」である。

 忙しいと言いながらも、何しろ京都は見るものが多い。観光で我々より忙しそうなゲストの様子を見ていると、毎日飽きない。特に、およそ半分を占める外国人ゲストたちの行動や思考法は実に面白いんである。

 

「これで行っても大丈夫かな?」

 8月のある日、宿の自転車で1日市内を巡ろうとしているドイツ人ゲストが聞いてきた。Tシャツにウインドブレーカー、短パンにスニーカーという装備だ。

「安全と日焼け対策のためにも、長ズボンのほうがいいかもしれませんね」

 したり顔で答えると「やれやれ」という表情になり、

「寺院にこれで入ってもいいか、という意味だ。タイではだめだったから」

 教えさとすように言われた。あら恥ずかしい……。

 真面目な彼は日本の風習をきちんと守りたいと常に考えており、質問も具体的かつ細かい。たとえば、目の前の銭湯に行くのをすすめると、しばらくしてから「どれくらい時間が必要か」と聞いてきた。

「んー、人によるけど、私なら30分あれば」

「いや、ガイドブックを調べたら、銭湯にはいくつものバスタブがあり、それぞれ三度ずつ入るのが伝統かつ身体によい、と書いてある。私にはそんな時間がない」

 ……誰だそれ書いたの。

 

 いわゆる国民性ジョークというのは差別につながるので使わないほうがいい、とも言われるし、まあそもそも全国民が同じ性質なんてありえないわけだから、それについては同感だ。

 が、ゲストたちを見ていると、「ドイツ人は真面目」とか「イタリア人は陽気」とか、「これって国民性……?」と言いたくなるときはある。

 

 たとえばイギリス人。

 イギリス人カップルのチェックインで、彼らのスーツケースを部屋に運んだスタッフが青い顔で戻ってきた。

「スーツケースの取っ手がとれちゃいました……」

 わああ、すいません! 修理できるか調べます! とりあえずぺこぺこと頭を下げるしかない。

「いいのいいの、使うのまだ2回目だけど」

 ぎゃー!

「いいのいいの、元々、父の愛用の品で古いし」

「やだあなた、そういうこと言うのやめなさいよ」

 うわー……(青ざめる私たち)

 と、ふたりはニヤッと笑って、

「ごめんごめん、ほんとに古いんだよこれ」

「今回の旅で捨てようと思ってたの」

 ……やめてくれませんかそういう英国式ジョーク……。

 

 あるいはイタリア人。

 朝11時になってもロビーでコーヒーを飲んでおしゃべりしてる彼らに、「今日どこに行くの?」と聞くと、

「バスで金閣寺行って、銀閣寺行って、メルカド(錦市場)と二条城行って、あとは嵐山かな」

 とニコニコしている。なにそれ一刻も早く出かけなさい、と尻を叩きたくなったが結局そのままおしゃべりは続き、出発はお昼過ぎ。夜遅くに戻ってきて、「清水寺に行ったら閉まってたけど、お店の人においしいお菓子をもらったんだよ」と、八つ橋をおすそわけしてくれた。なんともはや、のんびりなんである。

 両親と男の子ふたりで2部屋を予約してきた一家は、「じゃあまず部屋を見て部屋割りを決め……」とお父さんが言いかけたとたん、「ママはここにするわ!」と庭が見えるちょっといい部屋に先に入ったお母さんが高らかに宣言。一瞬にして勝負ありだ。滞在中、すべての予定や食事はママの意見が最優先され、男性陣がニコニコと従っているのが日本とは対称的で新鮮だった。

 

 こういうのを挙げているときりがないが、前回登場したアルベルトがそうだったように、旅の時間を楽しむのがみんな上手いなあと思う。思わぬところにツボがあるのもまた興味深い。特に欧米人にとっては、日本はまだまだ未知の国なのだ。

 

 たとえばイタリア人の女性ゲストが、朝食のあんパンが気に入ったとかで、「アン・パァン」と何度も口の中で練習し、その翌日誇らしげに見せてくれたのは井村屋のあずき缶。パン屋でアン・パァンを買ったあと、スーパーで「この中身を」とイタリア語も英語も分からない店員さんに探してもらったそうな。あんトーストの作り方をメモして、キュートな笑顔とともに去っていった。

 銭湯体験(当館の目の前に銭湯がある)は衝撃を持って迎えられる。特に男性は何かに目覚めたような顔で帰ってきて、翌日もいそいそと出かけて行く人が少なくない。ある日、不安そうなドイツ人ゲストを番台まで案内していったら、ちょうど出てきたアメリカ人男性(当館とは無関係)が「電気風呂すごいっすよ! マッスルが動く! あれはアメージング!」とドイツ人に熱弁をふるい、そして1時間後に戻ってきたドイツ人が私に「アメージング!」と熱弁をふるう、なんてこともあった。

 

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京都の紅葉、今年は早くて短かった。いくつかご紹介しよう。まずは色づきはじめの永観堂

 

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なんといっても人気の東福寺。グラデーションが美しい

 

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楽遊最寄りの西本願寺は大イチョウがみごと。紅葉が終わってからも長く楽しめた

 

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ライトアップや夜間参拝もこの時期の楽しみ。写真は高台寺。百鬼夜行のプロジェクションマッピングが見応えあり

 

 

 予想外に混乱を招いているのが「履き物」である。

「これ、靴を脱ぐのかしら……?」

 のれんを抜けて土間に足を踏み入れた瞬間、戸惑うゲストが多い。土間は靴のまま、木の階段と畳の廊下、室内の白木部分は素足かスリッパ、畳部分は裸足……日本人だと無意識に切り替えることが、欧米人には複雑怪奇。彼らの知識は「タタミはノーシューズ」に留まっており、中間地帯のHOW TOは抜けているのである。しかも当館の場合、真新しい土間は裸足でも歩きやすく、そこに外履き用のゲタも置かれているので、「どこで何を履くべきか、何を履かないべきか」という混乱が生じるのである。ゲタで部屋に入ってしまって自分で大笑いしているゲストやら、滞在3日目くらいから面倒になって土間も全部裸足で歩くようになるゲストやら、色んなタイプが出現する。

「ま、いっか」

 最初はこまごまと注意していたものの、どうやら靴の履き替え自体が珍らしいらしい、ということに気がついて、こちらものんびり構えるようになってきた。

 抹茶を味わったり、座禅を組むのは彼らが京都に期待する異文化体験だが、あんパンに驚いたり、電気風呂に入ったり、ゲタで訳が分からなくなるのは、小さいけれど想定外の異文化体験。でも旅で強く思い出に残るのは、案外「小さな想定外」のほうだ。そして、そんなことなら、うちの宿はいくらでもお手伝いできるような気がする。

 

 日本語を覚えかけの韓国人青年が「イタダキマス!」(イッテキマス、と混同しやすいのである)と毎日元気に出かけていったり、「台風でフライト飛ばないって……代わりの便とったけど飛ぶかな……」と台湾人青年が不安そうに宿を後にしたり。

 毎日毎日、いろんな人を見送り、そして出迎えている。旅人としての自分は、その日の自分の予定で頭がいっぱいだったが、見送る立場になってみると、どうか彼らが今日も安全でありますように、楽しんできますように、と心から思う。

 なるほど、宿屋ってこんな気分なのか。

 

 ある夏の日、長逗留のスペイン人が「今日は遅くなるよ。広島に行くんだ」と鍵を預けてきた。「宮島ですか?」と聞くと「いや、今日は広島は特別なセレモニーの日だからね」という。

 そうだ、8月6日だった。日本人なのに忘れてた。

「いい1日を!」

 この日を選んで行ってくれてありがとう。そんな気持ちを込めて見送った。

 

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かわいい鼻緒が人気のゲタ……だが、これが混乱のもとのひとつ

 

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と、いうわけでそろそろ楽遊も冬バージョンに。つくばいに南天のようなウメモドキを生けたら一気にお正月気分に

 

*本文中の事実関係や人名はプライバシー保護のため若干の変更・および伏せさせていただいています。


 

*町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」ホームページ→http://luckyou-kyoto.com/

*宿の最新情報はこちら→https://www.facebook.com/luck.you.kyoto/

 

 

*本連載は月1回(第1週水曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

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山田 静(やまだ しずか)

女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』『成功する海外ボランティア』など企画・編著書多数。2016年6月開業の京都の町家旅館「京町家 楽遊 堀川五条」の運営も担当。

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