日常にある「非日常系」考古旅

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#08

東京遺跡探し~潜伏キリシタンGO!(前編)

文と写真・丸山ゴンザレス

 

 

 

gonzalez「海外取材が3月~6月まで立て込んで、連載がストップしてしまいました。スミマセン!」写真は今年6月のアメリカ取材。ニューヨーク・イーストヴィレッジにあるギャング博物館にて

 

 

 昨年6月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された。厳密には違うが俗に言う“隠れキリシタン”にまつわる文化財だ。1613年に江戸幕府が全国的に打ち出した禁教令で排斥されたキリスト教徒が、日本各地の共同体に潜伏して根付き、弾圧を避けるために独自の形態になり維持されてきたことを証明する遺跡群である。世界遺産に認定されたのも、その稀有な信仰が評価されたというわけだ。これによって、日本の「隠れキリシタン」は世界中から注目されることとなった。

 

 新しく世界遺産が認定されると世間の注目度が高まるのは当然と言えば当然だろう。特に、ハリウッドで映画化された遠藤周作の小説『沈黙』や、諸星大二郎の漫画『妖怪ハンター』シリーズをはじめとした多くの人気作品が、隠れキリシタンをメインテーマに据えていることも、その注目度の高さを後押ししているのは間違いないのだが、それだけではないと思う。

 

「隠れキリシタン」という言葉の持つ響きには、特に多くの人を妙に惹きつけるものがある。それは、悲劇の歴史として実際に起きた出来事であるというところが大きいからだろう。島原・天草一揆や、天草四郎にまつわる数々の伝説、そして現在まで伝わるキリシタンに対する厳しい拷問の数々などの印象は根強く、それが現代人の心を打つのだ。

 

 そんなミステリアスな遺跡群が世界に認められたとあれば、神秘好きではなくとも、長崎・熊本あたりを旅してみたいと、誰もが思うところだが、なかなか簡単に行けるはずもない。会社員勤めから離れて久しいフリーランスの私でも、東京からはかなりの距離があるため、スケジュール的に厳しいところがあるし、そもそも、たとえ取材であっても、国内取材というのは東南アジア取材などより、よほど金がかかる。交通費、宿泊費などなど、世界的な観光地となれば相当な金額。日本は費用対効果がよろしくないのだ。

 

 それでは、世界が認めたこの日本固有の文化に触れることがそうそう叶わないものなのかというと、決してそんなことはない。たとえば東京都内でも隠れキリシタンやキリシタン信仰の歴史をたどることはできるのだ。もちろん、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」と同等の規模のものを期待されると困るところはあるが、歴史の痕跡を見出すことは他の場所でも可能だ。むしろ、そうした場所を探して特定していくことこそ、日常系考古学旅の真骨頂だと思う。

 

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熊本県天草にある天草四郎像(左)と崎津天主堂

 

 

◎東京に眠るキリシタン

 

 

 ではさっそく都内の隠れキリシタンの痕跡を歩いてみよう……と言いたいところだが、 考古学、それも古墳~古代を専門にしていた私が隠れキリシタンに詳しいはずもない。恥ずかしい話だが、中世や近代の遺跡については、学生時代、とんと興味がなかったのだ。もちろん、中世や近代を専門にしている考古学専攻生もいたので、分野的に考古学がカバーしていないわけではない。江戸~東京が巨大な都市を形成し始めて400年以上の歴史があるわけで、掘ればどこでも遺跡になるというわけだ。むしろ、東京を軸に活動するならば、嫌でも知っておかなければいけない時代ではあるのだが、自らそれについて勉強してきた記憶はない。

 

 そこで、広く勉強している人を頼ることにした。本連載でもさんざんお世話になってきた、太郎さんこと、深沢先生である。

 

 太郎さんが隠れキリシタンにも造詣が深いことは知っていた。というのも、太郎さんの勤務先である國學院大學博物館の特別展で、昨年「キリシタン―日本とキリスト教の469年―」が開催されていたからだ。

 

 これは渡りに船。喜び勇んで太郎さんを訪ねた。

 

「来ましたよ!」

「お前さん、いつも突然だな。来るなら連絡ぐらいよこせよ」

「今日は隠れキリシタンについて聞きに来ました」

「ああ、“潜伏”キリシタンな」

 

 太郎さんいわく、最近の研究では“隠れキリシタン”と“潜伏キリシタン”を区別しているのだという。前者はキリスト教が解禁されたあとも(現代に至るまで)独自の信仰を続けている信徒で、後者は江戸幕府が禁じてきた約250年間の信徒とのこと。まあ、考古学畑を踏み外して多少なりともオカルト畑にも踏み込んだりしてきた身としては、どうしても“隠れキリシタン”という言葉に惹かれてしまう。

 

「それで、何が知りたいんだ」

 

 文句を言いながらも、きちんと相手をしてくれる先輩である。

 

「都内の隠れキリシタンの遺跡とか痕跡をさぐって歩いてみたいんですよ。九州に行くの、遠いから。そんなお手軽なことできますか?」

「そら、できなくはないさ。都内はキリシタンの痕跡がいくつも残されているからな」

「やっぱ、そうなんですか!? あ~そういえば去年、キリシタンの展示していましたよね。でも、神道の学校でキリスト教って……それって、いいんですか?」

 

 國學院大學といえば、もともと神道を教えるために創立された大学といわれ、現在でも神主養成学校の側面がある。そのため宗教的な違いは超えることができるのだろうかという疑問だった。

 

「今どき、そんな宗教の違いで展示できないなんてことない。むしろ潜伏キリシタンたちは、仏教や神道と上手く並存しながらキリストを信仰してきたから、関連がないどころか、実は深く関わっているんだ……。伝来してから470年も経っているキリスト教は、立派な日本の伝統宗教だよ」

 

kokugakuin國學院大學は1882年、東京・飯田町(現・飯田橋)に国学を研究する機関として設けられた

 

 

◎“隠す”ことで形成された「日本の伝統宗教」

 

 

 太郎さんは、根気強く説明してくれた。そのおかげで、予備知識に乏しい私にも潜伏キリシタンとは、いかなる存在で、どのような信仰を持った人々であったのか、おおよそ理解することができた。潜伏キリシタンは、禁教以前の信仰組織の伝統を維持しながらも、様々な手段で「隠れ」ながら生き残ってきた人々なのだ。

 

 たとえば彼らは、神への祈りのことを「オラショ」と呼んだ。祈祷文を意味するラテン語の「oratio(オラツィオ)」が元で、信者たちの間で口伝のみで継承されたのだが、弾圧されていた時代には教えてくれる宣教師もいない。つまり、潜伏しながら口伝のみで次世代につなげていった結果、ラテン語の祈りがオリジナルのまま保存されたのだ。なんと、ヨーロッパで失われた祈祷文でも、「オラショ」には残されているという。

 

 一方、物理的に隠していたのが、「ロザリオ」や「メダイ」である。ロザリオは十字架を伴う数珠で、メダイはメダルのこと。キリスト教の祈りに使うアイテム(聖具)である。それぞれ、見つかれば、キリスト教徒であることは一目瞭然であるため、人の目に触れないように隠す。見つかれば死罪にもなりかねないキリシタンにとって、どれほど必死に隠したのか、想像に難くない。

 

 目の錯覚を利用した“隠し”もある。「マリア観音」が代表格。観音像を聖母マリアに見立てて御神体とするのだ。観音像を造形的にわかりやすくマリア像に寄せるのではない。観音像を祈る側の脳内変換を使ってマリア像にするのだ。同じ路線で、「お掛け絵」もある。和風の絵なのに聖画のモチーフ、構図などを使う。たとえば、「聖母子と二聖人」のように聖母マリアがイエスを抱きかかえる姿を和装の女性と赤ん坊で描くといった具合である。また、平戸地方では、仏壇や神棚とは別に、「お掛け絵」などを「納戸神(物置に祀る神で一般的には恵比寿や大黒が多い)」として密かに信仰してきた。

 

 このように、潜伏キリシタンや隠れキリシタンは、在来の民間行事と並存したり、ときには仏教や神道の信仰形態を部分的に偽装したりして、キリスト教伝来以来の先祖の信仰を守り続けてきた独自の宗教なのである。

 

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平戸市切支丹資料館

 

 

◎東京駅に遺跡!?

 

 

「あとは都内のキリシタンを知るうえで外せないのはシドッチだな」

「シドッチ?」

「ちょっと前にニュースにもなってただろ、知らんのか? 禁教令が出て、鎖国された日本に密入国してきた最後の宣教師で小石川に幽閉されていたんだよ。切支丹屋敷って聞いたことないか?」

 

 それを聞いて、2014年に文京区で発掘された人骨がDNA鑑定の結果、イタリア人宣教師ジョバンニ・シドッチである可能性が高いと判明したニュースを思い出した。

 

「やっぱり都内にも潜伏キリシタンの遺跡ってあるんですね」

「江戸は最大の都市だったわけだから当然、都内にはその手の遺跡も多いさ。ただ、シドッチの切支丹屋敷もそうなんだけど、当時を伺える場所ってのはほとんど残ってないな。そうだ、何なら東京駅にでも行ってみなよ。潜伏ではないけど、あそこには禁教以前のキリシタン遺跡がある」

 

 初耳だった。だが、せっかくなので都内にある「隠れ」のほうも探ってみたい。そのことを伝えると、太郎さんはニンマリして言った。

 

「それこそ、お前さんの得意な場所にもあるよ。せっかくだから探してみな」

 

 そんな太郎さんの謎めいた言葉を胸に、東京にあるキリシタンの遺跡を捜し歩いてみることにしたのだった。

(後編へ続く)

 

 

*本連載は月2回配信(第1週&第3週火曜)予定です。お楽しみに!

 

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丸山ゴンザレス(丸山祐介)

1977年生まれ、宮城県出身。國學院大學大学院修了。考古学者崩れのジャーナリスト。フリー編集者。出版社勤務を経て独立。國學院大學学術資料センター共同研究員。TV番組「クレイジージャーニー」(TBS系列)では、世界中のスラム街や犯罪多発地帯を渡り歩く“危険地帯ジャーナリスト”として人気。2005年『アジア『罰当たり』旅行』(彩図社)で作家デビュー。以後、著書多数。【丸山ゴンザレス】名義:『海外あるある』(双葉社)、『闇社会犯罪 日本人vs.外国人 ―悪い奴ほどグローバル』(さくら舎)、『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)等。【丸山祐介名義】:『図解裏社会のカラクリ』『裏社会の歩き方』(ともに彩図社)、『そこまでやるか! 裏社会ビジネス』(さくら舎)等。近著『GONZALES IN NEW YORK』(講談社)が好評発売中。旅行情報などを配信するネットラジオ「海外ブラックロードpodcast」では、ラジオパーソナリティーとしても活動中。

双葉社の既刊本好評発売中!!

ISBN978-4-575-30635-4

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